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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
五章 水明世界編
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バアルのイタズラ 5

「アルハさん達、大丈夫かな……」

「曲りなりにもアドザムは神だ。 そんな簡単にやられる事は無い」

「そう……だよね……! うん……」

「それより問題があるのは……」

「っ……」


 酒場の二階。

 志遠と由利はベッドの上で布団に身を包んだマノを心配そうに見つめる。


「…………ごめんなさい。 志遠さん、由利さん……」

「マノ……」

「本当は……アタシも何かしなくちゃいけないのは分かってるんです……。 でも……」


 マノの脳裏には黒い眼球に赤い瞳のバアルの顔が浮かぶ。


「でも、あの時の悪魔がアタシに見せた目が頭から離れなくて……忘れと……する…………たびに……体の震……えが酷…………くなて……」


 凍えたように歯をガタガタと鳴らし、全身が震えだすマノ。


「大丈夫。 今は、ゆっくり休んでいれば良い」

「そ、そうだよマノさん! きっとアルハさん達が何とかしてくれるし、私も……マノさんを守ることぐらいは出来るから……!」

「ごめんなさい…………ほんと……ごめんなさい……アタシ…………」

「「……」」


 いつになく悲観的な態度に志遠達は安易に接する事を躊躇した。


「……あ! わ、私……お腹、空いちゃったなー……。

 店長さんにお願いして、何か作ってもらおうっと……」

「ああ……そうだな。 マノも昨日の夜から何も食べてないだろ? 何か食べたい物があるなら、黒井と一緒に……」

「……みたらし団子」

「み、みたらし団子だね……。 うん、わかった!店長さんにお願いしてみる!」


 部屋を出て、一階へ降りていく由利。


(あれ……? 部屋の中なのに黒い霧がたくさん……)「店長さん、みたらし団子を…………。 ……あ」


 階下で由利は言葉を詰まらせる。


「おやおや……上にいたんですねぇ……」

「…………」


 一階の酒場は物音も無く荒らされ、ベルフェゴールが酒場の店主の首を絞め上げている。


「ゆ……ゆりちゅ……わ…………にげ……な……さ……」

「ッ……!」


 ベルフェゴールの手に一層の力が加わると、酒場の店主の首から鈍い音が鳴る。


「……………………」

「あ…………あ、あ……」


 ベルフェゴールは頭の垂れ下がった酒場の店主の首から手を離し、怯えて震える事しか出来ずにいる由利へと向き直る。


「ッ――――!」

「きゃあっ!」


 疾駆するベルフェゴールに由利が身を竦めた瞬間。


「っ! ルキさん、下がって!」

「!……」


 二人の間から幾つもの大きなクロユリが床を突き破って咲き出す。

 ベルフェゴールはクロユリの花弁に服の袖を裂かれるも、バアルからの指示により後退し無傷で事無きを得る。


「妾の黒百合を察知するか、女。

 フフフ……以前に相まみえた時も風変わりな印象はあったが、うぬも支配者らしいな」

(アザトゥス様が新しく造った支配者とはいえ、完成形なだけあって目敏いなぁ……。 ここは由利さんの精神が壊れるまで時間稼ぎでもしますか……)「あ、バレちゃいましたぁ? いや〜実はそうなんですよねぇ……流石は黒百合の支配者さんっ! ホンっと、お見逸れしちゃいますよぉ!」

「……」


 バアルの軽薄な発言を静かに聞き流す由利の中にいる黒百合の支配者リリラクブ。

 現状、肉体のベースは由利のままであり、リリラクブが表立つと発生する衣服や毛髪の変質は無い。


(マズイですねぇ……このままだと想定していた一分の制限時間よりも長く状態を維持されてしまう……)「あーっ! 私、リリラクブ様の御尊顔を見てみたいなぁ!」

「フフフフフ……! 同種相手に格下を差し向けたとて、戦いにならぬと判断し、リリィの肉体に負荷をかける算段でいるようだな?」

「っ……」(うわぁ……この支配者さん、ただ宿主大好きなリリコンかと思ったら普通に頭回るのかぁ……面倒だなぁ……。

 ま、この店長さんの記憶から管理神の居場所は把握したし、ここは素直に引きましょうかねぇ……)


 諦めたように両手を上げるバアル。


「おい、女。 うぬはどの様な意図で手を出しているのだ?」

「意図って……降参ですよ? こ、う、さ、んっ!

 神様相手じゃこっちが勝ち確じゃないですし、リリラクブさんだって変質無しでもその状態でいるのは大変じゃないですか? なのでっ!」


 バアルはベルフェゴールを出口へと誘導しながら由利達から距離を取っていく。


「ここは一度引きます! ここに居るマスターさんが管理神だと思ってましたが、持ってる力は一般人のソレですし、アルハさん達がそろそろ来ちゃうのでっ!」

(アルハ……あの神か)「天運に恵まれたな、女。 妾の前から失せる事を許そう。 幸せに思うが良い」

「はいっ! 幸せに思っちゃいましょう!

 お・た・が・い・に! あはっ☆」


 一文字ずつ区切って言い放ったバアルの言葉に若干の怒りを覚えながらも、リリラクブは二人がその場を後にするのをただ静観していた。


『リリィ、体の具合いはどうだ?』

「クロユリさんが力の調整をしてくれたからまだ平気だよ。 ありがと」

『そうか……汝の身に何ら異常が無いのであれば一安心だ……』

「でも、店長さんが……」

『心配することは無い。 先の女……は気付かなった様だが……この男は自らの半身を…………別にしている……』

「えっ? それってどういう……」

『すまぬ……妾の意識も……限界のようだ…………。

 詳……しい……こと……アル……ハ……に…………』

「クロユリさん!?」


 それを最後に肉体の主導権と意識は完全に由利へと戻っていった。


「黒井? 変な物音がしたみたいだけ……ど」

「あ、未代さん! 店長さんが……!」

「!……」

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