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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
五章 水明世界編
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霧夜事変 5

 マノがバアルと相対するより前、マノとは反対の左の道へと進んだ璃空は早々に目的の相手を発見していた。


「見つけた、ベルフェゴール」

「……」


 セーラー服姿の悪魔は、舐め回すように璃空の全身を眺める。


「あぁ……璃空だ。 璃空が立っている……璃空が生きている……」

「あなたは僕の事を知っているみたいですね」

「もちろん知っているわ。

 璃空、貴方はね、私にとって何よりも大切な存在なの。

 私が別枠とされるアフラ・マズダ・スプリウムが創造した世界へ転移したのも、この世界のベルフェゴールと融合して、新たな怠惰の悪魔になったのも……。

 全部、貴方が人らしく幸せになるため……」

「っ……」


 距離をだんだんと寄せていくにベルフェゴールを警戒し身構える璃空。


「大丈夫……私は貴方の味方なのよ……」

「アザトゥスを復活させて世界を終わらせようとしている悪魔の言う事を信じられるとでも?」

「ええ、そうね。

 私もこの世界で貴方に出会うまではそのつもりでいた。

 でも、貴方がこの世界で生きていると知った今、もうアザトゥスなんて必要無いもの」

「っ!」


 璃空の体を優しく抱きしめるベルフェゴール。


「どういうつもりですか……」

「…………」

「あの……」

「ごめんね……」

「えっ……?」


 震え混じりの声でベルフェゴールが言い放ったのは謝罪だった。

 それは決して恐怖とか不安とかではなく、悲しみから出た言葉。

 ベルフェゴールは抱擁を終え、璃空を見つめながら話を続ける。


「私が……ちゃんと璃空やあの人たちと向き合わずに逃げたから……。

 ごめんね……璃空…………私のせいで……こんな……」

「………………」


 大粒の涙を溢し、何度も何度も謝罪を繰り返すベルフェゴールに璃空の警戒心は失われていた。


「邪奥解放」

「!……。 危ない!!」


 ベルフェゴールを押し飛ばす璃空。

 直後、二人の居た場所に大人と同等の大きさの火球がいくつも撃ち込まれる。


「璃空ッ!」

「ゥ…………あ……」


 火球が着弾した地面は焼け焦げ、逃げるよりも先にベルフェゴールを追い払った璃空も全身が焼け爛れるほどの重症を負ってその場で身悶えていた。


「今の炎は……」

「ダメでしょ、ベルフェゴール」

「!……」


 黒い霧がかからない上空、ベルフェゴールが視認したのは爬虫類の見た目をした怪物だった。

 硬い鱗に覆われ、鋭利なツメやキバを具えた有翼の幻獣は、その背中に誰かを乗せていた。

 月光を背にした怪物と人影からは詳細な顔立ちこそ認識できなかったが、ベルフェゴールはその幻獣に覚えがあった。


「ドラゴン……。

 どうして貴女がいるの……サタン」

「サタンって言うのやめてくれる? サンの事はサンって呼んでって、いつも言ってるでしょ?」


 ドラゴンから背から飛び降り、地上へと降着するサタン。


「サンが水明世界に来たのは、助力をしろってベリアルに頼まれたから」

「ベリアルが? 私はそんなこと頼んで……」

「頼んでなくとも来て正解だったじゃない。

 ベルフェゴールはアザトゥスなんて必要無い……なんて事を言う裏切り者だったんだし」

「……」

「それで? この飯島璃空って誰なの?」

「貴女には関係無い」

「あっはは! 邪神王を裏切るほどの要因が関係無いわけないでしょ!」

「……」

「ふ〜ん……だんまりか……。 それならしょうがない……」

「?」


 サタンが右手を軽く振り、人差し指を璃空へ向ける。


 瞬間、上空から巨大な火球が倒れている璃空の周囲へと放たれ、その余波で体が宙を浮く。


「!……。 璃空!!」


 慌てて璃空の元へと向かおうとするベルフェゴール。


「話はまだ終わってないけど?」

「っ――――!」


 しかし、その合間に割り込んだサタンの蹴りを腹部に受け、壁へと弾き飛ばされてしまう。


 ドンッ!

 鈍い衝撃が体を駆け巡りながらも、どうにか立ち上がるベルフェゴール。


「よくもやってくれたわね……」

「何その言い方。

 サンは裏切り者に罰を与えているだけなんだけど?」

「っ!」


 璃空の胸ぐらを掴み抱えるサタンはベルフェゴールを横目に嘲笑う。


「璃空を離しなさい!」

「そんなにこの男の子が大事なら、力づくで奪ってみれば?」

「……」

「……」


 互いに睨み合い、相手の様子を窺う。


「……」(どうしてベリアルはサタンをこの世界に……。

 私の力を信用してなかった? だとしても、そこまで時間は経ってない。

 ううん、今はそんな事よりも先に璃空を助ける事を――――)

「動かないんなら、サンの方から行くよ……!」

「っ……!」


 璃空を後方へと放り投げ、背中から三対の翼を広げるサタン。


(璃空を手放した! なら……)「はぁぁぁぁ!!」


 それに対抗せんとベルフェゴールも二対の翼を広げる。


「同じ大罪とはいえ、格下がサンに歯向かうつもりなんだ……すっごくイラつくから殺しちゃお」


 些細な事で怒りを顕にしたサタンに呼応するように、彼女の翼からは四大元素の魔力が放出する。


「っ…………」(今の私じゃ、サタンには勝てない……。

 けど、さっきの酒場にいた男が璃空を助けに来るまでの時間稼ぎには……)

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