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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
五章 水明世界編
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霧夜事変 3

 璃空と分断して悪魔を追うため、一人、右の道を進むマノ。


「っ……」(おかしい……。 この黒い霧、さっきよりも濃くなっている……)


 この先に何かがいると言わんばかりの黒く濃い霧。

 模造のグングニルを風魔法で包み、投げ飛ばすのではなく、持ったまま前方に横薙ぎを入れる進路を拓いていく。


「おやおや〜……だいぶ警戒しているみたいですねぇ……」 「っ!」


 霧の向こうから聞こえる声。

 それ以上先へは進まずに、その場で得物を構える。


「おや? もうお散歩は終了ですかっ?」

「姿が見えない中、バカ正直に霧に突っ込むつもりは無いので」

「おおっ……。 ベリさんから聞いた知識ではもう少しアンポンタンだと思ってたんですけど……ちょっとは頭が冴えるみたいですねぇ」


 途端、マノの周辺の霧だけが潮のように引いていき、彼女の視界に一人の女の姿が映る。


「っ……」

「はじめまして、マノさん」


 艶やかな黒髪に血の色をした瞳を持つ女は、目元を三日月の形にし、気味の悪い笑みを浮かべる。


「私の名前はバアル。 アザトゥス様に仕える悪魔の一体です。

 気軽にバアルちゃんとでも呼んでくださいねっ」

「…………」

「あれぇっ!? もしかしてバアルちゃん、なんか冷ややかスルーされちゃってるぅ!?」

「……アナタ、誰ですか?」

「おや? 名前は今、名乗ったところですよ?」

「バアルってアナタの本当の名前じゃないですよね」

「おやおや……一体、どうしてそう思っちゃうんです?」

「直感です」

「直感…………ぷふっ……」


 マノの言葉に口元を手で覆いながら静かに笑うバアル。


「面白いギャグですねぇ! 今度、それ使っちゃおっと!」

「それで、どうなんですか?」

「う〜ん……どうだと思いますぅ?

 私が悪魔か……はたまた悪魔以外の何かか……。

 マノさん的に、私は悪魔以外なら何に見えますかっ?」

「何にも見えません」

「……」

「だからこそ、悪魔を自称しているのが嘘だと思ったんです」


 マノの出した答えがバアルから気味の悪い笑みを払拭する。


「何にも見えない……ですかぁ」

「すみません。 でも、侮辱しているつもり無いです」

「ああ、そこのところは重々承知之助なのでご安心を〜! ただ……」


 二人より外側に充満している霧の一部が生き物の様にバアルの手元へと集まりだす。


「敵に回すとだいぶ厄介になる子を早々に処分しなかったベリさんの罪は重いなと考えていただけなのでお構いなくっ!」


 バアルの手元へ集まった黒い霧はマノが手にしていた真っ白な槍と対を成すようにその形を黒い槍へと変える。


「……逃がしてはくれないんですね」

「軽めの口調だから話せば分かる……て、思っちゃいました?」

「話せば分かるとは思ってないですよ。 なんせ……」


 マノが背後へ向け、横薙ぎの一撃を振るう。


 そこにはバアルと同様の槍を持ち、マノへと襲いかかろうとするベルフェゴールに酷似した人影が……。


「ア……ァオ……」


 人影はマノの一撃で上下に切断され、肉体の固定を維持不可能となり、一瞬の呻吟(しんぎん)の後に崩れ去る。


「端っから不意を突こうとする人が話し合いでどうにかなる相手とは思ってないので」

「……あはっ、バレちゃってたかぁ……。

 じゃ、死んでもらっちゃいますねっ☆」

「っ……!」


 バアルがマノの元へと一歩踏み出す。

 瞬間、黒い霧がマノ達のいる場所に充満し、視界を奪う。


(しまった!)「聖奥解放!」


 グングニルウィルガニドで自身を中心に一回転して霧を払い飛ばすマノ。


(彼女は……!)

「おや、結構速い動きも取れるんですねぇ」

「っ!」


 斜め右後方の至近距離から黒い槍を構えるバアル。


「でも、この距離じゃ防げませんよねっ?」

「くっ……!」(槍の威力によっては金剛の魔宝石で防御力を高めれば無力化出来るかもしれないけど、呪いみたいな人体へ有害な力が含まれていたら硬いだけの金剛は有効的じゃない……なら!)


 刹那の中、金剛の魔宝石により白い光を放っていたマノの腕輪は、その輝きを青色に染め変えていく。


「ッ――――!」

「っ!」(ウソぉ!?)


 サファイアの加護で自らの敏捷性能を向上させ、バアルからの槍の一撃を躱し、体勢を立て直す。


「……」

「うわぁ……スッゴい力だなぁ……。

 その腕輪、大罪の悪魔としてパンデモニウム居た頃には持ってなかった力ですよねぇ?」

「それがなにか?」

「いや〜単純に気になっちゃいましてぇ!

 私の知り合いが言うには、大罪の悪魔の実質的リーダーのベルゼブブ様や、転生を阻止して永遠に殺され続けているアスモデウス様の記憶にはその腕輪の情報無かったんですよねぇ……」

「…………え」


 バアルの言葉に頭の理解が追いついていないマノ。


「今……なんて……」

「はい? あ、だから、その腕輪の情報は私の知り合いの持ち合わせてない……」

「そうじゃなくて!

 アモちゃんが……アスモデウスが永遠に殺されているとかなんとか……」

「…………」(これは、チャンスですかねぇ)


 マノの切羽詰まった表情を前に、バアルは自然と口の端が上がっていた。


「何、笑ってるんですか……早く答えてください!!」

「……はい。 殺され続けていますよ。

 彼女は隔離された空間に閉じ込められ、殺される直前から絶命するまでの数分だけの時間の中にいます」

「そんな……だって、アルハさんが……」

「はい。 魔転化や支配者の権能といった力の使い過ぎで朽ちて死ぬだけだったアスモデウス様をアルハさんは転生聖奥と呼ばれる神の御業で擬似的に救いました」

「だったらアモちゃんは……」

「でも、ちょっと違うな……って、思ったんですよね」

「……は?」

「だって、悪魔ですよ?

 忌み嫌われるのも、朽ちて死ぬのも、悪魔として当然じゃないですか?

 なのに、人に転生して幸せになろうだなんて、おこがましいと思いません?

 ま、一番は私の言う事を聞かなかったからなんですけどねっ!」

「……それじゃまるで、アナタがアモちゃんを殺したみたいな……」

「? はい」


 何を言ってるんだと不思議そうに首を傾げながらバアルは答える。


「私が殺しましたよ?」

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