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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
五章 水明世界編
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霧夜事変 1

「マモン……」

「っ……」


 魔宝石の腕輪で武装をし、ベルフェゴールと睨み合うマノ。


「悪いな、マノ……」

「いえ、都合上、神皇の瞳が使えないのはルイさんから聞いているので安心してください。

 それに、アタシはこの腕輪のおかげで聖奥の使用間隔とか気にしなくても良いので」


 ルイの奴、そんな事まで言ってたのか……。


「裏切り者が私の邪魔をするつもり?」

「それに関してはごめんなさい……でも!

 なんと言われようが、アタシはアタシの信じる事をしているだけです。

 ベルフェゴールさん、願いの成就だかなんだか知りませんけど、今すぐ大罪魔法を解いてください」

「ふっ……」


 マノの要求を嗤い飛ばす。


「よくも偉そうに言えたものね? 邪奥解放!」


 フェニックスがレイピアの刀身を包む。


「その技はもう見切っています。 聖奥解放!」


 純白の槍に風の魔法を重ね、先程と同じ技の対面になる。

 だが今回は、投擲としてではなく正面から受けてたとうとしている分、威力が分散される事は無いためマノの方が有利。


「リコリクス……」

「グングニル……」


 両者の得物から魔力が迸り、今かという時。


「ラズリ・オヂティス……」

「……っ?」


 槍を構えるマノの左腕が地面に落ちる。

 ベルフェゴールの技が先程と違ったわけではないし、マノが聖奥を制御出来ず自傷したわけでもない。


 こちらからは死角だった。ただ、マノの背後から弧を描いた魔力の刃が振るわれた事だけは何となくで理解した。


「アアアアアアアアアアアッッッ!?」

「マノ……!」


 激痛と片腕が切断され、バランスを崩したマノがその場に倒れ、悶絶した。

 横たわるマノの腕輪からは緑の魔宝石だけがボヤのように弱く光を発している。


「どうして……」


 ベルフェゴールの視線はマノの後ろでエピリスの影響を受けていたはずの飯島璃空に向いている。 ただし、この時の彼は両足で立っていた。


「ぐ……ぁ…………」

「……」


 ミミズのように地面を這うマノの姿を一瞥するも、さして興味無いように目を背け、ベルフェゴールを見据える璃空。


「貴方がここ最近の神隠し事件の犯人ですか」

「…………」


 ベルフェゴールは璃空に敵意を向けられているというのに蕩けた微笑みを見せていた。


「アイツ、やっぱり……」

「っ……。 他の人はエピリスの影響で口すらも動かせないのに、あなたとマノさんは少し事情が違うみたいですね」

「大丈夫だよ、璃空! 邪魔をするこの二人も私が今、殺して……」

「聖奥解放、ラズリ・オヂティス!」


 璃空は間髪を入れずに弧を描いた魔力の刃をベルフェゴールを襲撃する。


「グワェェェ!」


 コマの要領で体を中心とし縦回転に斬撃を放つも、レイピアの刀身から分離したフェニックスが障壁となり、ベルフェゴールを守る。


「っ……!」(硬い……いや、死んでも即座に復活している……)

「どうして……どうしてこんな事を……」


 璃空からの聖奥を完封したベルフェゴールだったが、自身が強い想いを抱いていた相手から攻撃を受け、悲嘆に暮れる。


「あなたが願いを成就させたいと思うように、僕にも救いたい人がいる……。 それだけの話です」

「救う……? 誰を?

 璃空は何もしなくて良いの! だって、璃空は誰よりも……」

「……分かったような事を言わないでもらえます?」

「えっ……?」


 冷淡で、それでいて強められた語気にベルフェゴールは言葉を詰まらせる。


「聖奥解放……」


 大きな弧を描いていた剣、その形状は弓へ変質し、璃空自身の魔力で作り出された蒼色の一矢を弓にかける。


「アローレイ・ラピスラズリ」


 矢は瞬く間にベルフェゴールを射抜かんと射出される。


「グワェェェ――――!?」


 蒼い魔力は正反対の属性であり火の鳥を蒸発させる。


「っ!」(私のフェニックスが……)


 ベルフェゴールを守る物が無くなり、矢が彼女の鼻先を掠めるかけた瞬間。


「邪奥解放っ! ダークネスミスト!」


 真っ黒な霧が店内を……ナトミーの町全体を包み込む。


「今の声は……」


 攻撃の邪魔をした相手の声に聞き覚えがあるのか、視界を塞がれている状況下で、必死に気配を探る璃空。

 名前通りなシンプルな技だが、魔力感知を出鱈目にするその性能は大罪の悪魔が使う邪奥と遜色無いほど強力だ。


「どういうつもりですか!」

「あはっ☆ どうもこうも、こんなにあっさり終わっちゃつまらないじゃないですかぁ……」

「この口調……まさか!」

「はいっ! そのまさかだったりしちゃいますっ!」


 溌剌とした声の主は璃空が思い出した事に喜びを示す。


「っと、それは置いといて……。

 この霧はしばらく町に残るので、私やベルフェゴールさんを追いかけようとは思わないでくださいねっ?」


 軽口を叩く女の声はそこで終わる。


「待て、逃げるなっ――――」


 追いかけようとする璃空。 しかし、黒い霧は行く手を阻む様に酒場の出入り口を厚く覆う。


「くっ……! どうすれば……」

「聖奥解放、グングニルウィルガニド!」

「!?」


 瞬間、純白の槍が旋風を起こし、酒場の黒い霧を全て吹き飛ばす。


「ふぅ……視界良好!」

「そんな……だって、さっき腕を……」

「っ?」


 璃空の眼前には左腕が元通りになったマノがケロッとした顔をしていた。


「璃空さん、追いかけるんですよね? 早く行きましょ!」

「でも、僕はあなたを……」

「アルハさん!」


 璃空の発言を無視し、こちらに指示を仰ぐマノ。


「俺の事は構わない。 現時点での最優先事項はベルフェゴールの動向だ」

「……と、アタシの方のトップが言ってるので理屈っぽいのは無しです。 早くしないと見失っちゃいますよ!」

「……はい」


 璃空は自らが傷付けた相手故に少し申し訳無さそうにしながらも、マノと共にベルフェゴールを追跡する流れとなった。

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