海岸沿いの町ナトミー 2
「と、言う事なんだけど、なんか質問あるか?」
「ん〜と……今は無い……かな……」
長い睡眠から目を覚ました由利は、今、ここに至るまでの概要をアルハから聞き状況を理解した事で、少しだけ表情が柔らかくなっていた。
「悪いな、由利。 一番安全な判断だったとはいえ、お前の意思に関係無くこんなとこまで連れてきて……」
「ううん、私も……なんでか分からないけど、アルハさんといると……その……落ち着くから…………いっしょにいれて嬉しい……!」
「そっか。 そう言ってもらえてよかった」(ラドジェルブで強制的に心を落ち着かせているなんて口が裂けても言えないなこれ……)
「あ……。
そういえば、私より少し背の高い、黒髪に青色の混じった女の子は……?」
「ん? ああ、マノの事か?
アイツなら夕方までこの町を駆け回ってんじゃないかな」
「……えっ? なんで……?」
「晩飯までに腹を空かせたいらしい……バカだよなぁ……」
「…………」
部屋の窓から外の景色を静かに眺める由利。
「由利も行ってみるか?」
「えっ?」
「散歩。
夕方にみんなで飯食いに行くまで時間あるし、少しぐらいは外の空気を吸うのも悪くないじゃないのか?」
「っ…………」
アルハからの提案に口ごもる由利。
「……どうする?」
「…………わ……たし…………は……」(外には……きっと……怖い人が…………)
「よし、行くかっ!」
「へっ?」
由利が言い切るよりも先に手を握り、部屋を出ていくアルハ。
「あ……あ、あ…………の……」
「私は外の空気吸いたい……だろ!
あるはしゃんは頭が良すぎるから分かるっ!!!」
「あ…………いや……ち……が…………」
「とりあえず軽いランニング行くぞー!!」
見当違いの判断で一気に町を走り回るアルハ。
しかし、由利の表情は曇り、町の中心地まで来た頃にはアルハの背中にしがみつくように隠れていた。
「………………」
「由利、そこまで怯えることないだろ?」
「……………………私は……行きたく…………」
「行きたくなかったんだろ? 知ってるさ」
「っ!? じゃ……どうして…………」
「それじゃ何も変わらないだろ?
今のお前に足りないのは知恵と人情と勇気」
「知恵?人情……?勇……気……?」
「そ。 お前に何があったのかは知っているし、俺から聞こうとは思わない。
でも、それは、いつまでもお前を殻に籠もらせる理由にはならない」
「…………」
「嫌なら目を閉じて、俺の背中におんぶされるも良し、肩車でも良しだ。
だから、少しずつ外の世界に慣れようぜ?」
「…………いや……だ……」
「おねが〜い! あるはしゃん、なんでもするから〜!」
「……………………」
低い体勢で手を合わせるアルハと、それを怪訝そうに沈黙を貫く由利。
その光景は傍から見れば明らかに変な雰囲気なわけで……。
「ねえ、君……」
「はい? なんでショウタイム?」
「その子、嫌がってるみたいだけど……家族じゃ、ないよね?」
アルハはまんまと自警団から職質を受ける事となった。
「いや、だから、俺と由利は兄弟というか……その……」
「へぇ……銀髪碧眼西洋風の顔立ちをした君の妹さんが黒髪の東洋人だと……」
「いや……えっと…………」(どうする……神王の瞳でここいらの人間全員を洗脳するか? でも、そんな事で神王の瞳使ったらクロノスに怒られるし……)
「とにかく、一度、近くにある自警団の詰所まで来てもらえるかな?」
「えぇっ!? ちょ……俺は無実だァーー!」
興奮したアルハは自警団の若い男と揉み合いになりながら詰所の方へと引きずられていく。
「あの……!」
そんな折、二人の前に立ち、由利か行く手を阻む。
「お嬢ちゃん、どうかしたのかい?」
「あ……え…………と……。 その人……は……」
「あー、大丈夫! この変質者は、お兄さんがちゃんと……」
「私のいとこなんです!」
会話慣れしていない由利の声は場違いな程に大きく、本人もその声の大きさを自覚し、恥ずかしさのあまり顔を伏せる。
「っ…………」
「いとこ……」
「そうそう、いとこなんだよ!」
アルハが自警団の男の腕を振り払い、由利の元へと寄っていく。
「俺と由利の父親が兄弟で、俺は母親似なの。
だから似てなくて当然! おわかり?」
「……そ、そうでしたか。失礼しました……」
ふんっ!と鼻息を荒くするアルハ。
「あの、一応、身分証明書の確認をしても……」
「ん? ほい、どーぞ」
「お嬢ちゃんも良いかな?」
「へっ? 身分証明……?」
「左ポケットに入ってるだろ?」
「左……ポケット……?」
アルハの言葉に従い、左のポケットへ手を入れる。
「……あ、これ……ですか……?」
「……はい。 確認が取れました。
では、これで失礼しますが、身内とはいえ喧嘩は控えてくださいね。 特に最近は物騒な事件もあるので」
「ヘイヘイご苦労サヨナララバイ〜!」
アホ面でアホな別れ言葉を告げるアルハ。 やはり素肌を乗馬用の鞭で打たれるぐらいの拷問を受けるべきだっただろう。
「ありがとな、由利」
「…………なんでも……」
「ん?」
「なんでもするって…………言ったよね……?」
哀願の眼差しでアルハを見つめる由利。
彼女が彼に言い渡した要望とは……。




