路地裏の神隠し 1
「酒場、酒場……たしか、この辺だったけど……」
「ここじゃないか?」
「ん? ああ!そこそこ!」
マノの水明世界での情報を集めるために酒場へと赴いた二人。
道中、アルハが女性をナンパしたり、老婆に痴漢扱いされた事もあったが、それはまた別のお話である。
「ガチャ……」
「声に出して扉を開ける奴がいるとはな」
「え、言いたくならない!?ならない!?」
「ならない」
「あ、いらっしゃいませ〜!」
入店した二人を可愛らしいメイド姿のウェイトレスが出迎える。
「二名様ですね、空いている席へどうぞ!」
「フッ……ありがとう。 ところで君、ラ○ンやってる?」
「ライ……?」
「すまない。 彼は少し頭の病気を患っていて、たまにおかしな事を言うが気にしないでくれ」
「は、はい……」
その場を後にするメイド。 アルハはメイドが去ったあとも尚、格好をつける。
「何がしたいんだ」
「志遠……男にはな、やらなきゃならない時がある」
「そうだな。 でも、今はナンパをする時じゃない」
「それな! メイドさ〜ん!」
「は〜い! ただいまお伺いします!」
アルハの呼びかけで先程のメイドが水とおしぼりをお盆に乗せてやって来る。
「ご注文は?」
「フッ……」
指をパチンと弾き、メイドを指差す。
「君で……」
「ドリンクを適当に二つ、スペアリブ一つ、それから海鮮サラダ一つ」
「かしこまりました!」
アルハの注文を受け流し、志遠の注文を受け取ると、キッチンへオーダーを送るメイド。
「フッ……照れ屋さんなのかな?」
勘違いも甚だしい。
「しっかし可愛いメイドさんだな〜」
「……お前、本気で言っているのか?」
「え? ああ、背丈的にはマノと同じぐらいだけど、男だって話だろ?」
「分かっていて、よくそんな対応するな」
「可愛いに性別なんて関係無いんだぜ?」
「言ってる事は良い事かもしれないが、お前が言うだけで犯罪臭がするな」
「何でだよ! 志遠きゅんヒンドーイ!」
顔や体を志遠へスリスリと擦る。
「ウザい、近い、ウザい」
そんなこんなで酒場の雰囲気を楽しみながら(アルハの一方的な)会話をしていると、メイドの少年が飲み物と大きめの皿に乗ったサラダをお盆に乗せやって来る。
「失礼します、ドリンクと海鮮サラダです」
「お、ありがとん!
おお〜!美味そう……てか、魚介多いな!
え、これで、この値段!? 三倍ぐらいの値段でも赤字な気がするけどな〜」
「…………」
一人賑やかに騒ぐアルハとは対象的に、チラチラとキッチンの方を見て静かにソワソワする志遠。
「お客様、どうかしましたか?」
「え、あ、う……いや」
「ん? あー!スペアリブか!」
「…………」
分かっているなら聞けよ。と言わんばかりにアルハを睨む志遠。
「っ! そんな怒んなよ!
メイドさーん、スペアなリブさんはあとどれくらい?」
「そうですね……かなり大きいので火を通すために後十分ぐらいは必要かと思います」
「十分だってさ」
「っ…………」
志遠は了承したと言わんばかりに首を縦に振る。
「よろしいですか?」
「オッケオッケオールオッケー!
楽しみにしてるってシェフに伝えといて宜しクレメンス!」
(よろし…?)「はい! お時間を要してしまい申し訳ございません」
二人の元を後にし、周りの席の空いた皿を片付けていくメイド。
「…………」
志遠はムシャムシャとサラダを食べながら、ちびちび飲み物を口にする。
「コミュ障め」
「これが普通だ」
「な訳あるか!」
「お前にとっての普通と俺にとっての普通は違うんだ」
「やーい内弁慶〜!」
「やかましい八方弁慶。お前が異常なんだ」
アルハと志遠、仲良く口喧嘩をしていると。
「おい、聞いたか……」
近くの席から聞こえてくる話し声、、、
近くの席に座っている上は裸体にハーネスベルト、下ジーパンという某RPGの荒くれ者を彷彿とさせる見た目の男は知り合いであろう片足を棺桶に入れかけのハゲジジイに話を振っていた。
「昨日の夜、また十代前半の男が、この近くで神隠しにあったらしいぞ」
「「??」」
その内容に二人の視線と耳は荒くれ者へと向けられる。
「また、年端も行かぬ少年か……」
「俺の見立てじゃあ、神隠しの真実は隣国の女王サマの名により誘拐してる……みたいに思ってんだが、ジイさんはどう思うよ?」
「どう思う……か。
思う事があるのなら、この様な意味の無い人さらいを……」
「志遠、今の……」
「ああ、聞こえてる」
「あのザ・荒くれ者!みたいな見た目、なんなんだろうな」
「そこじゃないだろ、今、ツッコむのは」




