Luna
ゲネシスフルムーンが粒子状に変換され、元管理神が手にする槍の穂先へと集まる。
(…………。
…………。
…………あれ? アタシは何を……)
「あら? もう意識が戻ってしまいましたの?」
(へっ?! カ、カグヤさん!? 何してるんですか!!)
「何……と言われましても。
アナタの要望通り、このバケモノを滅するつもりで……」
(アタシが言ったのは戦えなくするで、殺してほしいなんて一言も言ってないです!
動かないでください……ぐぐぐぐぐ…………)
「精神体でどれほど力んでも無駄ですわ」
意識を取り戻したマノだったが、肉体の主導権は完全に元管理神に奪われていた。
「折角です、バケモノの最後……その目で確りと見届けてくださいまし――――!」
「っ! ぐっ……!」
元管理神が繰り出す槍の攻撃に目を伏せるレヴィアタン。
「…………。
…………っ?!」
槍はレヴィアタンの直前で留まり震えている。
「な、何故!? ワタクシは女神ですのよ!
ただの人間にワタクシを上回る力があるわけが……」
「あるから……止めたんじゃないですか……!」
真っ黒な髪と月色の瞳は左半分だけとなり、右半分は本来の青みがかった黒い髪と瞳に変色していく。
「マノ……ちゃん……」
「ごめんなさいレヴィさん。 ホントは全部カグヤさんにお任せしようと思ったんですけど……ぐぐぐ…………。
この女神さま、人間以外が嫌いすぎなので、もう体を返してもらおうと思います!」
「返してもらう……? 人間であるアナタが女神であるワタクシに逆らうと言うんですの?」
「……やっぱりアナタは、人を愛しているわけじゃないんですね」
「黙りなさい! アナタのような人でも悪魔でもない混じり物に何が分かると言うんですの!
ワタクシが! ワタクシこそ!お父様の愛を受けるべき子であり女であるというのに……!
あの幼神が、あの第二世代がワタクシが受けるはずだった愛を奪ったんですのよ!?」
「そんなくだらない理由が人を利用して、レヴィさんを傷付ける理由にはならないじゃないですか!」
「なんですって……!」
「カグヤさん、アナタは愛を受けるべきは自分だったと言いました。 けど、それは違う気がします。
愛って、お互いに思い想うから愛なんだと思います。よく分かんないけど……。
でも、アナタは自分ばかりが求めて、誰かが自分を求める事を拒んだ。
アナタがレヴィさんの言葉を、思いを拒絶しなければ、七つの大罪の嫉妬は生まれなかったかもしれない。
アナタがルイさんも、ステラさんの事も好きになっていれば、創造神はアナタの事を愛していたかもしれない。
なのに、アナタは自分が愛されるための手段を自分で捨てたんですよ」
「…………」
フッ……と、マノの体から抜けていくように元管理神の姿を反映した状態だった左半分は白い弓に吸収されるように還り、マノはミオの姿を取り戻す。
「っ……。
はぁ〜〜〜〜っ……元に戻れた……」
胸を撫で下ろし、白い弓を手放す。
「…………」
「あ! レヴィさん大丈夫……なわけないですよね!
えっと……どうしよう……」
「どうして?」
「へっ?」
「どうして、私を殺そうとしないの?」
「どうして……と、言われても……」
少し悩み、マノは納得したように口を開く。
「死んでほしくないからです!」
「っ……。
私は、酷い事をしたんだよ? 魔剣使徒を、マノちゃんの大切な人を殺した。 マノちゃんは私が憎いはず!」
(? 憎いはず?)「確かにレヴィさんはアタシ以外の全員を殺しましたし、アタシも何回か死にかけました。 けど、犠牲者は誰一人いません」
「それはマノちゃんが身に着けていた腕輪の力があったからで……!」
「なら、それで良いじゃないですか」
「え……」
「腕輪の力があったからみんな助かった。 結果オーライです!」
「…………ふふっ」
屈託のない笑顔につられて頬が緩むレヴィアタン。
「でも、今はまだ傷を負っているから何もしてないけど、もし治ったら、またマノちゃんやマノちゃんの大切な人を傷付けるかもしれないよ?」
「…………」
試すように自らが敵であることを示す発言をするレヴィアタン。
しかし、、、
「そうなったら、今より強くなって誰も悲しまないよう、レヴィさんがこれ以上罪を重ねなくても良いように、なんか色々頑張ります!」
「っ……!」
すぐにハツラツとした声で答えるマノにレヴィアタンの戦意は失われていた。
「……本当におバカさんだね、マノちゃんは……」
「バカでも人助けはできるんです!」
マノが誇らしげに胸を張る。
元管理神の聖奥により、崩壊現象は模造された月を対象にし、先刻から五分以上経過しても影の月光世界が崩壊する事は無くなり、その間にレヴィアタンの肉体も回復される。
「さて……。
私はもう完全復活したから、第二回戦……」
「うェっ!?
ちょ、ちょっと待って下さい! アタシも回復を――――」
「と、言いたい所だけど、マノちゃんとはもう戦いたくないかな」
「え……」
「流石に命の恩人を殺そうとは思わないよ」
「レヴィさん……」
「私の正体を知った上で、まだその名前で呼んでくれるんだね」
「当たり前じゃないですか。
アタシにとって、レヴィさんはレヴィさんです」
「ふふっ……マノちゃんは優しいね。 本当に美徳の聖者とは思えないぐらいに」
「美徳の聖者?」
「昔、創造神アフラ・マズダ・スプリウムが七つの大罪の悪魔への抑止力として生み出した七人の人間の事だよ。
美徳の聖者は人を騙す悪魔から人を守るために戦い、特に大罪の悪魔を酷く忌み嫌ってた。
なのに、マノちゃんときたら私を見て、見惚れてたでしょ?」
「うッ……!」(気付かれてた……)
「マノちゃんがルナの支配から抜け出せたのは、創造神の子であり美徳の加護を持ち合わせていたからなんだと思う」
「なるほど……」(…………ん?)
マノは突然出てきた名前に首を傾げる。
「あの、レヴィさん。 ルナって誰ですか?」
「誰って……さっきまでマノちゃんの体に憑依していた月光世界の元管理神だよ?」
ご覧いただきありがとうございました!次回投稿日は12月28日21時です。
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