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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
四章 魔剣使徒編
131/175

anūL(ア・ヌール)

「どうして、殺さないんですか」


 マノは疑問を投げかける。


「……私は人間と仲良くしているマノちゃんが嫌いなのであって、マノちゃん単体の事は好きだから。

 だからマノちゃんだけをつまらなく殺そうとはしなかっただけ」


 口端を上げ、穏やかな笑顔で答えるレヴィアタン。

 この笑顔は自身の疲労を隠すための偽りの笑顔かもしれない。

 でも、この言葉はそうは思えなかった。

 殺すと言い、それを実行できる程の力を持ち、それでも尚、殺そうとしなかったのがそれを裏付ける事実であり、何よりマノ自身がそう思いたかった。


「マノちゃんこそ、どうして紫の魔宝石で避けようとしなかったの? 他のみんなと逃げれば良かったのに」

「……紫の魔宝石は緑の魔宝石とは対照的に使用者本人には使えない魔宝石なんです」

「そんな秘密があったんだ。 隠しておけば私を撹乱出来たかもなのに正直者だね、マノちゃんは」

「隠したところでレヴィさんならすぐに気付きます」

「あ、可愛げないぞ?」

「……」


 二人が見合う間、大地は鳴動し、空はチリのように純白の虚無へと消えていく。


「私の神討魔剣で加速度的に世界は完全消滅が進んでいる。

 持って後十分ってところかな?」

「十分もあれば、アナタを負かしてここから脱出するには充分です」


 金剛の魔宝石に指を翳し、槍と鎧で身を固める。


「充分か……。 なら、世界が終わるその時までマノちゃんとの時間を楽しんであげる」

「!……」


 崩壊現象とは異なる振動、レヴィアタンの神討魔剣からだ。

 魔剣からは先程より一本分の少ない魔力が放たれる。


「威力はさっきより落ちていても防げないよ?」


(武器の性質を考えると、アタシの魔宝石を無力化させるためのレーバテイン、その無力化を成功させるためにティルフィングで命中、そして、四魔剣最高火力と言われてるダーインスリイフの三刀……。

 使う魔剣にもよるけど、二本分までなら紅宝聖剣でもギリギリ相殺できる。 でも、三本分の威力じゃ絶対に勝機は無い)「使うしかない……」


 諦めるようにため息をつき、槍を手放す。


(? 槍を手放した?

 負けを認めた……それともまだ最後のとっておきでも……)「あれ? 降参かな?」


 勘繰るような戯け混じりの問いかけをするレヴィアタン。


「…………」

「っ……!」


 そんな事はありえないと言わんばかりの迫力だった。

 最後の最後までマノは諦めの素振りを一切見せず、瞳からは覇気を放っている。


(そっちがその気なら……うん。 良いよ、絶対な力の前じゃ、思いが無意味だって事を教えてあげる)「邪奥解放……神討魔剣」


 魔剣から流れ出る大量の魔力が空を薄汚く染めるも、崩壊現象を覆す事はなく、黄昏色のの空は白い虚無に飲み込まれていく。


「…………」


 だが、邪奥が放たれる時すら、マノは不動の状態を崩すことなく迎え撃つ。


(聖奥を使ってこない……。 私が踏み込んだタイミングでカウンターを仕掛けるつもりなのかな?)「なら、そんな事も出来ずに終わらせてあげる」


 雫が滴る音。


「っ!」(消えた!? 違う……これは人魚の!)


 瞬間にレヴィアタンはマノの眼前から姿を消し、マノのすぐ近くにある水溜りから姿を現す。


(マノちゃんならどういう能力か分かるよね。 でも、残念。

 この距離からじゃカウンターは出来ないし、防御も取れない。 万に一つの可能性でこれを相殺できる聖奥があっても、力を発揮する前にこっちが倒す……!)「バイバイ、マノちゃん」


 神討魔剣はマノの左腕と胸部の間へと入っていく。


 服が裂ける。

 皮膚が裂ける。

 肉が裂ける。

 骨が裂ける。

 斜めに切り上げられた斬撃がマノの左肩から頭部を胴体と切り離す。


「やった……()()()……。 ふふっ……。

 殺した!殺した殺した殺した!ふふふっ……ふ?」


 喜びを見せていたレヴィアタンから笑顔が消える。


「あれ? なんか変だな…………。

 …………あ、ヤダ……殺しちゃった……。

 何で何で何で何で何で!? 私、どうして……」

「まあ、凄い」

「っ!」


 錯乱状態で頭を抱えていたレヴィアタンが顔を上げる。


「……え。 マノ……ちゃん……?」


 たった今、自らが切り殺した少女は微笑みを浮かべる。 しかし、おかしな点があった。


 少女の髪色が真っ黒だった事。

 少女の瞳が白というか黃というか、これを端的に表現するならば月の色に酷似している事。

 そして「まあ、凄い」という言葉の選び方。

 レヴィアタンの知る中で、マノがそういった言葉遣いをした事は無い。


「ワタクシの月狂幻想(ルナティック)下で自らの異常に気付くなんて……。

 神に近い存在故、無下にするなと仰っていたお父様の言葉は強ち間違いではなかったんですのね」

「…………まさか。 でも、どうして……」


 黒髪に月色の瞳をしたマノ?の左手には真っ白い弓が握られている。


「!? その弓、やっぱり……。 でも、一体どこに――――」


 弓の弦を弾く。

 途端、レヴィアタンの右腕は神討魔剣と共に消し飛んだ。


「っぐ!?」

「バケモノの分際で、誰の許可を得てワタクシに問答をしているんですの?」

「う……あ…………っ」


 消し飛んだ腕の断面は皮膚で覆われ、元々右腕が無いような状態になっているも、当の本人は腕を失い、激痛に苦しんでいる。


「アナタはワタクシという存在を認識しなかった時点で敗北していたんですのよ?

 それを勝利を確信したように何度も不愉快な笑みを浮かべ……。

 やはりバケモノ、道化以外の価値はありませんわね」

「っ……。

 はぁぁぁぁっ!」


 蒼と黒の螺旋状に魔力を放出するレヴィアタン。

 だが、その魔力は先程の半分以下の量だった。


「片腕と神討魔剣を失い、それでも月光世界の管理神に挑むつもりなんですの?」

「元管理神……でしょ?」

「…………」


 嘲笑うレヴィアタンだったが、月光世界の元管理神は一切の関心が無いのか、周辺の確認をする。


「後、五分といったところ……。

 リドゥフェイズなどという未完成な時間逆行の異能力を使えば崩壊現象が起きるのは当然ですが、人間に罪はありません。

 もし罪があるのなら、使わざるをえない状況を作ったアナタにあるのでしょう」

「じゃあ、なに? 私の事、殺すの?」

「?

 何を仰っているんですの?」


 手を裏返し、人差し指をレヴィアタンへ向ける。


「……え?」


 レヴィアタンが視線を下ろす。


 体中に赤い線があった。

 赤い線は広がり、亀裂となり、弾けるように血液が飛び散る。


「人の身では神の最奥は難しいので、この子の魔宝石と合わせて聖奥を生み出してみましたけれど、それなりに利用価値があるようで安心しました」

「…………」


 ヒュッ……と、喉の傷口から息が溢れる。


「あら? まだ生きているんですの?

 アナタ、蛇ではなくゴキブリではなくて?」

「ハ…………あ……」(そっか……。

 マノちゃんが出会った相手って、あの女神だったんだ……。 だから、団長さんすら知らない知識を……)

「聖奥解放、ゲネシスフルムーン」


 元管理神が触れた第六の魔宝石の魔力で生み出された月。

 その月の端がチリとなって消えながら、ゆっくり、ゆっくりと空より落ちてくる。


「この聖奥は一つの世界。

 満月(これ)が誕生したことで、崩壊現象の対象は月光世界ではなく満月へと変更されました」

「なッ!?」

「そして崩壊現象は対象が失われる事で自然消滅する。

 ……ですが、ただ、ワタクシの作り出した月だけを対象にするのは少し無駄なので、こうしてアナタにも近くでお見せしようと思いましたの」


 月が落ちる速度はゆったりとしているが、今のレヴィアタンにとって遅い速いなどは関係無い。


(なに、それ……。

 そんなの……デタラメすぎるよ……)


 月の落下被害を避けるため、上空へと移動するマノに憑依した元管理神。


「デタラメ? 神と戦っておいて、そのような稚拙な言葉が出るなんて……」


 呆れ顔で首を横に振る元管理神。


(動け……! 動いて……!!)「ぐっ…………」


 切り傷だらけの体を必死に動かすレヴィアタン。

 しかし、体中につけられた傷は深く、力を入れようとするだけで止まっていたはずの血が滲み出る。


「アナタもこれぐらいの事をしたでしょう?

 当然の報いです」

「……うん。そうだね…………悪魔である私が、恐ろしいと思うぐらいには、貴女は神とは思えないよ……」

「ワタクシは人さえ幸せならそれで構いませんもの。

 天使も、獣も、ましてやバケモノなんて存在意義の無い命に手を差し伸べる理由はありませんもの」


 聖奥により落ちる月との距離が約半分になる。


「ふふっ……可哀想。

 創造神の父としての愛情はオーディンに奪われて、男としての愛情はアマテラスに奪われて、なら創造神が見初めた種族を愛して思いを誤魔化そうだなんて……。

 本当に可哀想な神様……ふふっ……」

「…………」


 レヴィアタンの挑発に何かを想ったのか、元管理神の眉がピクリと動く。


「ふふっ……癪に障った?」

「……ええ、とても」


 上空から見下ろしていた元管理神は、飛行魔法で聖奥よりも早くレヴィアタンの元へと降り、金剛の魔宝石から生成した槍を手に……。


「だから、これは例外です」


 口へと突き刺した。


「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛ッ゛ッ゛!?!?!?」


 歯が飛び散り、顔は血で真っ赤に染まる。

 絶叫は槍で塞がれた事で獣の鳴き声にも思える。


「今のアナタは人間の女性の肉体を利用しているので、あの聖奥で魂のみの消去を試みるつもりでした。

 ですが、アナタがいけないんですのよ?

 ワタクシが愛されていない? 思いを誤魔化す?

 バケモノに侮辱されるなんて思いもしませんでしたわ」

「オ゛っ…………」

「あら、なんですの? ワタクシの逆鱗に触れたというのにまだ何か言いたげですわね?」


 レヴィアタンの口から槍を引き抜く。


「アっ……う…………」

「特別に話す許可を差し上げます。

 さあ、ワタクシに対して言う事があるのなら聞いてあげましょう」

「………」


 返り血で赤く染まった槍を携え、レヴィアタンの言葉を待つ元管理神。


「…………か……わい…………そ……う」

「…………そうですか」


 レヴィアタンからの言葉を受けた元管理神は目を閉じ、槍の穂先を先に自らが発動した月へと向ける。


「聖奥解放」


 元管理神の詠唱に呼応し、槍にゲネシスフルムーンのエネルギーが集まりだす。


「人殺しだとは思わないでくださいまし。

 これは、救済です」

ご覧いただきありがとうございました!次回投稿日は12月25日12時です。

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