アメジスト 4
「ルイさんが……自分を殺すために……」
「そう。 もしも、自分が道を踏み外し、月光世界に害を及ぼそうとした時に、人が神と袂を分かつためにと作った剣……それが、この神討魔剣。
といっても、グラムとダーインスリイフも融合させないと神を倒せる程の剣にはならないけど、貴方達ニンゲンを殺すのなら、これでも十分……でしょ?」
「ざっ……けんなッッ!」
苦しそうな息をこぼしながら怒声を上げるガイム。
「だったら尚の事、テメェが持っていて良いモンじゃねーだ……うぷっ!?」
魔力を高め、攻撃へと移ろうとしたガイムだったが、突然の吐き気で中断してしまう。
「ガイムさん!?」
「……ふふっ。 肉体から魔力を分離させるレーバテインの影響を受けちゃったみたいだね。
と、なると、もう一つの必中効果は……」
「まさか……」
レヴィアタンの目の動きに合わせ、マノの視線がイオへと向けられる。
「…………」
イオの胸部にはポッカリと穴が空き、そこから体内の臓物がズルズルと外へ垂れ落ちる。
「そん……な……」
「イオ……」
「あーあ……副団長さんがさっさと殺しておけば、ここで死に顔を見ずに済んだのに……。 ガイムくん可哀想」
「ッ……!」
楽観的で客観的なレヴィアタンの態度はガイムを焚きつけるのには充分すぎた。
「許さない……。
テメェだけは……絶対に――――」
ガイムの言葉が途切れ、次にベチン……と、地面に打ちつけられるモノ。
「……!」
音のする方へとマノの視線が動く。
「ふふっ。 油断大敵……だね」
「ガイム……さん……」
頭部が切り離された事も知らずに、ガイムの体は起立していた。
「これでマノちゃん以外の五人全員、ホントのホントに死んじゃったね!」
「…………」
残酷な事をしていると理解した上で、嬉々とした表情を見せるレヴィアタンに対して、マノは何も言わず、何もしなかった。
「さ、最後はマノちゃんだけだよ?」
「……がい…………ま」
「? 何か言った?」
マノの言葉を確認しようと聞き直すレヴィアタン。
「おね……い……み……さま……」
「?……」(今、何か変な魔力を……)
「…………」
奇妙な魔力を感じ取り、僅かに警戒するレヴィアタン。
(イヤな予感がする……すぐに殺しちゃった方が……)「邪奥解放!」
「お願いします神様、アタシに力を分けてください!」
次の瞬間、腕輪に埋め込まれた六つの魔宝石の一つ、アメジストが閃光を放ちながら妖しく煌めく。
「ッ――――」(まさか、紫の魔宝石の力は、本当に覚醒していたの……?!)
「紫の魔宝石よ、我が願望のもとに、反転せよ!」
マノの言葉に呼応したアメジストの光が、周囲にある遺体に分散して重なる。
(まさか! あの魔宝石の能力は蘇生!?)「邪奥解放! 四魔剣一つとなりて、常世に終焉を齎せ!」
世界全体に吹き出した濁った黄色の風は、目に映るもの全てを不気味な色合いへと染めていく。
が、魔宝石の腕輪を持つマノと、アメジストの光と重なった五人の遺体は濁った黄色に染まらずにいた。
「うそ……どうして……。 だって、この魔剣は……」
「世界を終わらせる魔剣……ですよね。
なら、通じませんよ」
「っ!」
「紫の魔宝石アメジストは、全てを反転させる力を持っています。
だから、世界を終わらせる力を受ければ、世界が続く力として捉える。 要は、ただ普通の世界にいるだけなんです」
「そんな能力って……」
「それ以外にも表と裏を逆転させたり、力の優劣を逆転と……あらゆる事象を反転させます。
……そして、これは一人の人間に一度だけの効果ですけど、現状を打破する最大の一手もあります」
紫の魔宝石に翳した指へ更に魔力を加える。
すると、その魔力に応じ、倒れている五人に付与されたアメジストの光もより一層の煌めきを放ち……。
「!? そんな……どうして……」
レヴィアタンは自分の目を疑った。
体が真っ二つになった志遠も、認識改竄で首を切り落とすように促したエナも、目を突き刺すようにしたアリアも、ティルフィングの効果で絶命したイオも、不意を付き殺害したガイムも。
「なんで……なんでなんでなんで!!」
誰一人、傷一つ無く生き返り、意識を取り戻していたのだ。
ご覧いただきありがとうございました!次回投稿日は12月19日21時です。
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