認識の支配者 5
「……」
「……」
ニルプス城一階。
地下への階段を探しにエナと志遠は東西に別れ、シラミ潰しに部屋を見ていった。
「ここでもないのか……」
「……おかしい」
そんな折、ふと、違和感に気付くエナ。
「?……。 どうしたんだ」
「地下への階段がどこにも無い……」
「? だから俺達は探して……」
「いや、そうじゃないんだ。
城の地下があった事は覚えているのに、地下へ通じる道や階段は無かったような気がして……」
「? 地下はあるのに、そこに通じる道が無い?」
「自分でも何を言ってるのか分からない……」
「それが、認識の支配者による認識改竄、なのか?」
「うむ。 その線も有り得るだろう。
だが、分かったところで認識の改竄を解く術が無い」「レヴィアタンが地下へ行かせたくないんだろうな。
なら、行けるところから行ったほうが良いかもな。
……この城から出るのも無理そうだし」
「何?」
そう言って城の入口を見やる志遠につられ、エナもそちらへと目線を送る。
「!! 大扉が、消えている……」
「まさか、認識改竄がここまで厄介だったなんてな」
「……すまん、シオン殿。 この様な面倒事に付き合わせてしまい……」
「構わないさ、俺も自分の意志でここまで来てるんだし。
でも、こうなると俺達を仲違いさせるための認識改竄をしてこないのが不自然だ……」
「能力の性質上、特定の条件下でない者への認識改竄は効果が薄い。 もしくは、ただ楽しんでいるだけかもしれんな」
「前者であってほしいよ」
「ハハッ……同感だ。
…さて、ここにいても進展は無い。 不本意ではあるが、まずは上の階へ行くとしよう」
「っ……」
首を縦に振り、肯定の意を示す志遠。
二人は大広間中央の階段を上がり二階へと進む。
「……あまり代わり映えしないな」
「王の意向でな、この城は先代の王がデザインした配色や装飾を今もそのまま利用しているらしい」
「先代? それは誰なんだ?」
「分からない……。 何故かその記憶は抜けているんだ。
俺も、月光世界全ての人々からも、スッポリとな」
「……」
エナの話を聞きつつ、壁の模様や統一間隔で立てられている置物などを歩きながら観察する志遠。
「……」(この模様、どこかで……)
「シオン殿、どうかしたのか?」
「……なんでもない」
その後、二階も一通り見て回った二人だったが、地下へ続く道の手がかりは掴めず、やはり当然と言うべきか、彼等が最後に辿り着いたのは上へと続く階段だった。
「おやおや、これは……。
シオン殿はどう思う?」
「アンタと同じ考えだからノーコメントで」
「ハハッ……意地の悪い事を……」
自分達を玉座の間へと誘導するための工作。
奇しくも二人の心中は一致していた。
「でも、今はこれ以外に選択肢も方法も無い」
「同感だ。 勝負云々はさておき、リバイアサンと相見える事で何かしら糸口が――――」
「エナっっ!!」
「「!……」」
不意に聞こえた振り絞る女性の声に二人の動きが止まる。
「アリア……」
「エナ……やっと会えた……」
エナの瞳に映った桃色の髪の女性、ニルプス騎士団副団長アリア・フィジュカは涙を浮かべながら再会の喜びを表していた。
(なんだ……あの口は……)「おい、エナ……」
だが、この雰囲気の中で一人。 志遠だけは恐怖を抱いていた。
「アリア……」
アリアの元へ、自然と足が進んでいくエナ。
「何やってるんだエナ! 彼女は……」(聞こえていないのか!?)
「無事だったんだな…!」
「!!」(まさか…!)
ただ一心に進んでいくエナの姿で、エナのその一言で、志遠は確信した。
彼の視界には、なんの変哲も無いアリア・フィジュカという女性だけしか映っていないこと。
志遠……普通の人の視界に映る血と茶髪が何本か絡んだ剣を手にした返り血塗れのアリアが認識出来ないこと。
悠長に言葉を発してはいるが、その実、口元自体は顎が外れるぐらいに開いている事に気付かないこと。
「言っちゃ駄目だ! エナっ!!」
、、、、、
「感動の再会! おめでたいね。
さてさて、マノちゃんはどんな調子なのかな〜?」




