認識の支配者 3
「……」
マノがニルプス城へと向かい十分程度の時間が流れた頃。
未代は彼女を追うか否かで逡巡していた。
(今すぐ向かえばマノと合流して、ガイムという人物の救出に助力できる。 でも、レヴィアタンがどんな罠を仕掛けているか……。
最悪、ヤツ本人が囚われているガイムの側にいるとなると……)
「…………ぅ」
「!……」
そんな最中、マノのついでにと助け出した魔剣使いの一人、イオが目を覚ます。
「……」
「……」
何を言えば良いのか分からない男とどういう状況かを理解していない女は膠着状態に陥る。
「……」(え、敵? でも魔力は怖い感じじゃないし……。
……あれ!?)
おもむろに背に手を伸ばしたイオが違和感に気付く。
(私の魔剣、どこッ!?)「あ、あのー……つかぬ事をお訊ねしますが……」
「……」(つかぬ事…? 俺はマノからもオーディンからもこの娘の事は何も聞かされていない。
なのに、つかぬことを訊ねられても困る。 こちらの知識でどうにかなる質問であれば良いんだが……)
と、考える未代の目つきと人相が悪くなる。
(ヒィィィィィーーーーーーッ!!!!! さっきよりも顔が怖いィィィィ!! やっぱ聞くんじゃなかったぁぁぁ!)「あ、やっぱりなんでも――」
「俺が知り得る限りの事なら答えよう」
「……」(あ、これ何か言わないと指詰めるやつだ……)
どんな世界観だ。
「じゃ…じゃあ、お言葉に甘えて……」(下手に……当たり障りの無いような聞き方を……)
「……」
「あのですね、私が背中に背負っていた剣をご存知ないでしょうか?」
「剣……?」
「はい。 魔剣と呼ばれる凄く貴重なモノで……」
「魔剣……?」
怪しげな名称に未代の目が鋭くなる。
「なんでもないですっ!!」
何でもあるから質問をしたイオだったが、未代の眼圧…というか顔圧に怖気づいてしまい、そこで話を終わらせて、、、
「それなら多分見かけた」
終わらずに続く。
「どっ…! ドドドドドドどどどこで!?!?!?」
未代へと詰め寄るイオ。
「……海底神殿に落ちていた」
「海底神殿? それってどこに……!?」
「……!」
魔剣の在り処を知る未代に興奮した面持ちで尚も詰め寄るイオ。
「どこなんですか!? 教えて下さい!」
「お、おい……」
「あの剣は、凄く大切なモノなんです! だから――」
「よせ、イオ」
未代がたじろぎだした時、意識を取り戻したエナがそれに待ったをかける。
「団長……」
(団長……この男がオーディンの言っていたニルプス王国最強の騎士、エナ・グォリースか)
頭を振るいながら頬を叩き、意識をはっきりとさせて立ち上がるエナ。
「始めまして。
俺はニルプス王国騎士団団長、エナ・グォリースだ」
「未代志遠。 俺は……マノの友人とでも思ってもらえれば」
「未代……そうか、君がマノの言っていた境界の守護者か」
「団長! 私の魔剣が……!」
「分かっている。 が、シオン殿の言っている海底神殿はすでに崩落している。 今から探すのは……。
…………」
「……団長?」
「シオン殿」
「?」
「シオン殿は、イオの魔剣が海底神殿に落ちていたと言ったな?」
「ああ」
「その近くに虫…トンボはいたか?」
「ああ。 数え切れないほどには」
「そのトンボは、剣に触れていたか?」
「? ああ。触れるぐらいなら……」
「…………」
「それが一体どうしたんだ?」
「海底神殿でリバイアサンが言っていたんだ。
俺たちが奴の眷属を屠った時、眷属は主であるリバイアサンの肉体へ戻ると……。
そして、その眷属達は奴の指示一つでそれぞれが持つ能力を好きなように扱えるらしい」
「!……」
「もしもーし……私、なんにもわからないんですけど……」
「人魚の能力には、水を通して別空間へ転移する能力がある」
「え、そんな能力があったんですか!?」
「イオ、君もその異能の対象になったはずだ。 今より前の、最後の記憶を思い出してみろ」
「……あ! あの聖域で…」
「そうだ。 あれが人魚の能力だ。
リバイアサンの事だ、あの剣を見逃すほど視野が狭いとは思えん」
「じゃあ、私の魔剣は……」
「回収された魔剣は、ニルプス城にいるリバイアサンの手元にあるだろう。
……そういえば、マノの姿が見えないな」
「っ! ……」
「……そういうことか」
目をそらす志遠の仕草でおおよその事を理解したエナ。
「? ?? どういう事です???」
「イオ、アリアが目覚めたら、そこのシオン殿と共にこの世界を脱出しろ」
「え、脱出!? この人、そういう力があるんですか!?
というか、団長はどこに!?」
何も知らないせいで、またしてもアホな子状態のイオを尻目に、エナもニルプス城へと向かうのだった。
「俺は……」
「あのー……」
「っ……」
「詳しい事情は分かりませんが、マノさんのためにこんな世界に来たんですよね? だったら、今は何も考えず、助けに行くのが最善何じゃないでしょうか?」
「…………」
(うわ……また怖い顔してる……)「ご、ごめんなさいっ! 大切な人だからこそ必死になっ――」
「ありがとう」
「へっ?」
「イオ……で、あってるよな?」
「あ、はい。 イオです、イオ・ノウミーク」
「きみのおかげで決心がついた。 ありがとう、イオ」
「は、はぁ……」(私、何か良いこと言ったかな?)
「俺はマノを救いたい。 でも、そうなったら、きみやもう一人の女性を避難させる事が出来なくなってしまう」
「あ、それならお構いなく! 私も魔剣を取り戻したいと思っていたので」
「そう、か……。
いや、分かってる。 君みたいな小さな女の子に気を使わせてしまうなんて……」
「いや、私、十九歳ですから!! いうほど子供じゃないです!!」
「え…………」(この子は……そんな嘘を吐いてまで、俺の女々しさを払拭しようと……)
単純にイオが小柄なだけである。
「分かった。 そういう事にしておく」
(そういう事……どういうこと?)「あ、シオン様は先にニルプス城へ行っていただけますか? 私はお寝坊さんな副団長を起こしたらすぐに向かうので」
(様……)「分かった」




