白昼夢 【月夜譚No.44】
最初に聞こえてきたのは、笛と鼓の音だった。ゆったりと温い空気が攪拌されるような音に、そっと瞼を押し上げる。しかし目の前にあったのは、楽器でも奏者でもなかった。
床が高くなった舞台のような場所で、数人が踊っている。華やかな着物の丈の長い裾が床を引き摺るのも厭わず、何処からともなく聞こえてくる音楽に合わせて、盆踊りにも似た緩やかな動きで舞台上を舞う。それをどんな気持ちで踊っているのかは、皆目見当もつかない。何故なら、彼等の顔には半紙が貼り付いて表情が見えないからだ。半紙には、顔のような文字のような、とにかく意味不明な模様が描かれている。
不可解な状況にぐるりと首を巡らせてみると、舞台の正面には客席が並んでいた。舞台以外は薄暗くてよく見えず、一体何処まで客席が続いているのかは確認できない。そしてその何処にも、人影らしきものはなかった。その客席の一番前に、自分は座っているようだった。
椅子に座り直し、再び舞台に目を向ける。曲は相変わらず単調で、踊り手は疲れる様子もなく踊り続ける。
不意に、踊り手の一人の紙の面がひらりと捲れた。そこから一瞬覗いた瞳は鮮やかな緑色で、それと目が合った途端、意識がぷつりと途切れた。