第三話 差し出された手
~二十分後~
「けんじー!
やっと見つけたと思ったら、バケモノに食われかけで大変だったんだからね!」
少女は、綺麗に一つに束ねられたストレートの黒髪を揺らしながら、宮代さんの腕を揺すった。
「ああ。ありがとうな、月夜。
助かった。」
宮代さんに褒められて、少女は左右色違いで少し吊った目を細めた。
腰には、ケルベロスを切った際に使用した、鞘に竹の模様が施された片刃の剣を携えていた。
「あっ、あの?どうして僕を……?」
助けてくれたのですか?って聞こうとしたが、宮代さんは僕が尋ねるより早く、
「そりゃあ、帰るあてもなく飛び出されたら、心配するだろ。」
と答えた。
――帰るあてもなく……か。
僕はその言葉に再び不安を覚え、顔を伏せた。
「何メソメソしてるのよ。女々しい男ね!
どうせ、迷子になって困ってるんでしょ。
安心なさい。帰る方法なら、私たちが探してあげるわ!」
黄色と青の瞳が宮代さんから僕に移った。
「いつまでもそんなんじゃ、こっちも困るのよ。」
「そんな。いいのですか?わざわざ僕のために」
「いいに決まっているだろう。
そうだ。帰る方法が見つかるまで、ここに居ればいい。」
いいんですか?
僕は昨日酷い態度をとってしまったのに。
けれども、宮代さんたちのその提案は帰る方法もわからず、休む場所もない僕にとってはとても魅力的に見えた。
わからない、どうして?
どうして、宮代さんたちはこんなにも親切に接してくれるのだろうか。
「昨日はあんなに失礼な態度をとってしまったのに、なんでそんなに僕のためにしてくれるのです
か?」
僕はずっと、疑問に思っていたことをにこやかに笑う宮代さんに尋ねた。
「失礼な態度のことについては、俺も悪かったと思ってる。
あんなに早く帰りたがってたのに、帰る方法がないだなんて、酷なことを言ってしまったな。
早く帰りたがってたのには何か事情があるんだろ?
話せる範囲でいいから話してみろ。
ちょっとは楽になるかもしれないぞ!
それと――別に俺は兄ちゃんのため云々とかいう理由じゃなくて、ただ、これは俺に課された義務
なんだ。
だから、兄ちゃんが心配することじゃない。」
宮代さんは、笑いながら、しかしキッパリとそういった。
義務?なんだろう?
しかし、そんなに詮索してほしそうな雰囲気ではない。
「わかりました。教えていただきありがとうございます。
――失礼ながら、まだ名乗っていませんでしたね。
僕の名前はレオン=スペランツァ。
スペランツァ王国の第一王子です。
お言葉に甘えて、ここまでの経緯を話させていただきます。」
それから、僕は王国や僕の身に何が起きたかを二人に話した。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「そうだったのか。それは――レオン。大変だっただろうに。
そりゃあ、ご家族が心配で早く帰りたいだろうに。
俺も随分無神経なことを言っちまったな。」
宮代さんは申し訳なさげ顔をして僕に謝った。
「いえいえ、気にしないでください。
僕も考えが浅はかでした。すみません。」
「ふーん。あなた、王族だったのね。
道理で言葉遣いがバカ丁寧だと思ったわ。
でも、これからしばらくの間は一緒に暮らすんだから、敬語はやめて頂戴ね。」
――私の名前は竹取月夜よ。よろしくね。
そういいながら、オッドアイの少女――竹取月夜は僕に右手を差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします。」
僕は、右手で差し出された手を握り返した。
すると、月夜は手を振りほどいて、
「違うわ。敬語は禁止よ!
もう一回!」
と、叫んだ。
「よ、よろしく……。」
僕はオドオドしながら、再度差し出された手を握り返した。
「月夜ー。あんまり、レオンをいじめるなよ?」
宮代さんは、笑顔のまま月夜をなだめた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
宮代家で暮らし始めてから一週間が経とうとしていたときだった。
僕は泊めてもらう代わりに宮代さんが営む八百屋の手伝いをしていた。
「レオーン!
今日はもう店じまいだ。」
「はーい。お疲れさまでした!」
僕が返事をすると同時に、
「たっだいまーーー!」
元気のいい挨拶と共にパツンと切りそろえられた前髪を揺らしながら、月夜が現れた。
胸元につれた青と緑のタータンチェックのリボンが似合っている。
「おお。おかえり、月夜。
今日は、学校どうだった?」
「ちょー―楽しかったよ。
明日は、美穂とクラブ見学に行くつもりなんだー!」
宮代さん曰く、月夜は片喰学園高校に入学したばかりらしい。
「そうか、それは楽しみだな。
――明日からはレオンも学校に通うことになるから仲良くな!」
「えっ、ほんと?
レオンも一緒に学校行くの?」
月夜は黄色と青の瞳をキラキラさせて、僕にきいてきた。
……えっ。ええー?
「どういうことですか!?宮代さん!
聞いてないですよー!」
僕は驚きを隠せずにのほほんとした宮代さんを問い詰めた。
「だって、レオンも年齢的に高校生だろ?
それなら!って思って、学園長に掛け合ってみた。」
子供のいたずらのような顔をした無精ひげの四十代のおじさんは、唐突に爆弾発言をしたのであった。