表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

Act.1 海風の道

突然のことだった。

20XX年5月6日、北海道は地図から消滅した。

理由は誰も知らない。正確にいえば、一部の人間は知っている。

だがその情報も捻じ曲げ、改変され、本当の理由を知っている人間は誰一人として存在しない。既に北海道が地図から消えて40年。政府の情報操作の甲斐もあって北海道のことを覚えている人間は完全に消え去った…




「これで本当に夏かよ。東京なんかとは比べものにならないぜ」

北国の夏は涼しい。

ここ青森は真夏でも気温が30度前後だ。世界的に温暖化が進んだ現在、ここまで涼しい夏を味わうことは

そうそうできない。

「ところで本当に『島』に行くのか…」

「仕方ないだろ。上の命令なんだから。」

桟橋で話す二人組。上は白シャツ、下はスーツのよくあるスタイルだ。

「神枝、お前は知ってたのか?」

「噂程度でな。突如地図から消えた島があるっていうことぐらいさ。」

神枝という男は懐からライターを出すと煙草に火をつけ、煙を大きく吐いた。

「なあ五十澤( いそざわ)、お前は…」

神枝がそう言いかけたとき、一昔前の4気筒エンジンの音がして、旧式のバイクが目の前に停まった。

バイクから降りたのは初老ぐらいの男。年は50、55ほどと思われるが、若々しく、目にはなんとも言えない怪しい眼光が揺らめいていた。

「乗れ」

低く、少しかすれた声で呟くと、彼は再びバイクにまたがった。

大型バイクの中でもかなり大きいバイクだ。これなら余裕で2人乗れそうだ。

「…お前が『島』への案内人だな」

神枝が問う。

「…」

彼は何も答えない。手筈通りだ。

バイクはそのまま国道280号へと向かっていく。現在『島』への定期船は無い。そもそも存在を隠蔽している時点で無いのは当たり前だが。

なら漁師に頼んで乗せてもらえばいいという方もいるだろう。確かにここ津軽の漁師達は『島』の存在を知っている。だが、政府によって『島』への上陸は固く禁じられ、さらに、「『島』に入ると一生出られない」とか「『島』には得体の知れないなにかが住んでいる」などといった根も葉もない噂が立ち、いつしかこの事を話すのは禁忌( タブー)となった。

だが今回、神枝と五十澤は「調査」という名目で『島』に向かう。彼らが勤めている国土産業省が主導となって行われる極秘計画だ。調査期間は2カ月。その間に『島』に上陸、生態系や遺構などの調査を行う。

だが彼らに伝えられたのは簡単な調査の概要、調査期間、青森に着いたらバイクに乗った老人について行けといった至極簡単な事だけだった。

バイクは国道280号線を快走する。「蟹田まで15km」という看板を通り過ぎる。

この辺りは日本国内でも比較的漁村の風景が残っている地域だ。最新技術による開発が進み日本の国土の半分以上が都市となったこの時代、このような風景は希少だ。

五十澤がぼそりと呟く。

「海風なんてこの時代にまだ体験できたんだな…」




その時だった。バイクが少し揺れたかと思うと思い切り車体が傾く。

タイヤの擦れる音。衝突音。ガラスの割れる音。そして体を貫く重い衝撃。

「…!」

声が出ない。

「ぁ…」

ここでようやく気がついた。

バイクがガードレールに衝突し、粉砕されたことに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ