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民主主義を嗤う

作者: タイプ猿

文字を書く練習

革命前夜

貴族と市民の対立が明らかになって久しいころ

ある国のある広場で、民主化を求める群衆と

貴族やら、国軍やらがにらみ合っていた

両者一触即発、今にも掴み掛らんばかりである


そんな群衆を見るひとりの男がいた



「ああ、お前らはなにもわかってはいない」

広場を睥睨する将軍像の座の上

烏合する群衆の上に立つ狂人が高らかに嘲笑す


「民主制、立憲君主制、封建制」


「ああ、下らぬ、どれも下らぬ、等しく下らぬ」


「民主主義の愚かさを見よ!!」


張り上げられた声にマスケットを担いだ貧相な人々が反応する

どういうことだと問い詰める声や、狂人をなじる声が段々と大きくなり

群衆は上方に坐す狂人を引き下ろそうと像をよじ登ろうとし始める



「それ見よ!!貴様らが崇め奉る民主主義の精神とやらは、結局のところ自分と意見を異とする少数派に対しての弾圧の口実に過ぎないのだ」


狂人はよじ登ってきた若者の胸倉を逆に掴み上げると、詰問する


「今っ!!貴様はここへ上ってきて何をしようとしたのだ!!言え!さぁ言ってみろ」


予想外の言葉に目を白黒させる若者は揺さぶられながら言葉を何とか絞り出した


「いや、俺は、俺たちを馬鹿にしたあんたを黙らせようとしただけなんだ」



「はっ!!馬鹿者め!!大バカ者め!!

 お前らは民主主義の代表者か?代弁者か?違うね!違うとも」



「一己の暴徒が民主主義を否定するものを武力をもって否定する

それは民主主義的に非ず、結局のところそれは多数による専制政治となんら変わるところがないのだ!!」


受け止めろ!と警告してから狂人は若者を台の上から突き落とす

狂人はざわめく群衆を意に介さず続ける、彼自身の狂気ゆえに




「底が見えたりデモクラシー!そこにあるのは統治者の変化という物以上の意味はない!!」




「フラテルニテとは、博愛とは、結局自らが認知し、許容しうる範囲のものにしかあてはめられないのだ!!

それは結局聞こえのいい大義名分に過ぎないのだ」



「リベルテを思え、暴力と公的秩序によって容易に制限されうるそれを!!

汝らの言うそれは結局、既存の秩序に対する革命の理由付けでしかないのだ

貴様らは革命ののち自らの都合のいいように自由を定義し、制限し、自らの外にあるものから奪っていくだろう

かつて自らの上方に座した階級の者たちからやったようにだ!」




「エガリテを見よ、汝らの背後に隠れて眉目秀麗な理想論を振りかざすブルジョワジーの姿を!!

汝らの次の支配者を!!」


狂人が指さすそこには貧相な恰好の群衆とは明らかに異なる装いの者たちがいた

彼らは街路の暗がりに潜んで金貨の袋とマスケットを群衆に配っている

群衆の陰に隠れていた彼らは指摘されたことに驚いている様子であった



「そら!彼らが望んでいるものはなんだ!

人権の平等か!?階級の平等か!?政治的権力の平等か!?

それとも………商売の平等か!?」


「どれでもあって、どれでもない!

彼らが望んでいるのは特権階級から特権を奪うことであって

それを万民に均等することではないのだ」



「彼らは民主的合理性と民主主義の一員という大義名分をして貴様らの主人になるだろう!!」



「彼らを見よ、貴様らの新しい主人を!!」




「ああ、聖なる愚か者どもよ!!!!

相互理解と相互の尊重のない民主主義がなしえるものが政治的混乱と対立だけだということがわかる日が貴様らに来るであるだろうか?

民主主義を理解せぬ烏合の衆が主張する民主主義といものが幻想であるということを認める日が貴様らに来るであろうか?」




この物言いにさすがの群衆も鼻白んだと見えて静まり返った



その沈黙を快く思ったのか

スイス人傭兵に身を守られた貴族が喝采を上げる

耐え難い騒音に狂人はまたしても声を上げる

彼が狂人ゆえに


「愚か者め、時代遅れの愚か者どもよ


 お前らの時代は終わったのだ」



「しかし、今、あなたは民主主義を奉ずる群衆を笑ったではありませんか?」

年若く、利発そうな貴族が困惑した様子で狂人に問う


「はっ!相手が馬鹿ならお前は賢者か?

愚かさと賢さは相対的なものであるが、それはお前らとあれらを区別する理由にはならない!!

お前らは等しく愚かであるのだ!!」



「おお、汝らの君主の龍声を顧みよ

かつて天上天下に響き民草の隅々まで伝えられたその声は

今やファクトリーの上げる産業機械の騒音にかき消されて聞こえない


かつて王国の端々まで届いた王の手を思い返せ!

今やそれが届くのは貴族とモノを知らぬ無知な農夫だけである


黒煙を上げて労働者と資源を食い尽くして役に立たぬ大量生産の某を作る社会形態を見よ

かつて主人に首輪を付けられていた奴隷たちは、自らの社会と自らの生活のためにタイをつけるようになるのだ


名状しがたき化け物を見よ、リバイアサンを見よ!!

もうすでに変わってしまった社会形態と常識と力関係を見よ!!


今やお前らの思想の根幹にあるものが幻想と回顧の他にないことに気が付く時が来るのであろうか?

もし、そうであるとしたらそれはギロチンの下の木桶の血だまりに自らの顔を映し見た時であろうさ!!」



今度は貴族たちも押し黙ることになった


狂人は黙るということを知らない

狂っているからである


「愚か者どもめ、愚か者どもめ、大馬鹿者どもめ!!」


一層声を張り上げる狂人にいら立った誰かが銃を抜くと、狂人の胸を過たず撃ち抜く

哀れ、狂人

ふらりと揺れて舞台から崩れ落ちる


その場にいた誰一人として彼の身を案じるものはいなかった

彼の意見は自らの好むところではなかったからであった


唯一、舞台から落とされた若者が駆け寄って狂人の末期をみとった


「民主制や王制が駄目なら、賢者による寡頭制がいいってのか?


あんたこそ、時代遅れの古典派じゃないか」



狂人は一つ血塊吐き出して答える


「愚か者よ、だがお前の愚かさを私は許そう

愚かさは若者の特権であるから


政体が問題ではないのだ、それに関わる人間の質こそが問題なのだ


王はもはや政治的主体になるだけの力がない

であればそれは民衆のものになるであろう

しかし、それは民衆が賢明な政治的主体であることを意味していないし

民主主義という考えは愚かな民衆のはるか千年先を行って見えない


誰かがそれを啓蒙しなければならない

誰かはそれを啓蒙されなければならない


おお、自らの愚かさを顧みない人々よ

一切衆生を殺しつくして初めて自らの愚かさに気が付くことであろう


敵を殺せ、存分に殺せ、自由と平等と博愛の名の下に」



狂人は息絶えた

若者は再び沸き立ち白熱する群衆をしり目に広場を離れて彼を安置すると、物思いに耽る


言いたいことを言って、呪うだけ呪って彼は死んだ

しかし、若者は生きていかなければならないのである


呆ける若者の思考を銃声と怒号が貫く

どちらが撃ったのだろうか


違うと、思い直す

重要なのはそこではないのだ


どちらかが、撃ったのだ


若者は懐のピストルを捨てると、騒乱する広場に足を進める


数多くの人々が死ぬだろう

今日も、明日も、その先も

下らぬ理由で、崇高と信じる思想を理由に

寿命を理由に


だが、それでも我々は、明日を生きなければいけないのだ

熱を持つ青年の瞳には狂人と同じ色が宿っていた

なーにいってんだこいつ(困惑)

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