ラビットタワー
はぁ……はぁ……
「ここか」
息切れした声でツガマはカナに話しかけた、よほど急いで来たのだろう、汗を拭っている
ツガマは仕事帰りだったのか少し薄汚れたスーツ姿だった、服装も変わったせいか、以前よりも不気味さは感じない
「すいません、こんなことに協力して貰って…」
カナも息切れしながら申し訳なさそうにツガマに礼をした
「気にしないでくれよ、この前のお詫びもあるし」
憑き物が取れたような顔をしている、もともとのツガマは悪い奴ではないのかもしれない
ラビットタワーは10階建のビルで1階から5階までが商業施設で6階以降はオフィスになっているようだ
カナは悩んでいた
ここまで来たものの、どうやってアズを見つけるよう……
カクミもラビットタワーのどこにいるかまではわからない、まずはスパやゲームセンターを探してみるしかないか
でもアズは制服だし……この時間にスパやゲームセンターにいたら補導される可能性もあるだろうし……
そんなリスクは流石に犯さないだろうから、6階以降を見たほうがいいのかな……
「見つけた」
ツガマがつぶやいた
何を見つけたんだろう?
カナがツガマの方を振り向くとツガマはスーツ姿の男の後をつけていった
あっ
オーラをまとっている!
ツガマはラビットタワー近くにいる『選ばれた人』を探していたのだった
この人思っていたよりも頼りになるかもしれない!
カナはツガマに置いていかれないように後をつけていった
スーツの男は予想通りラビットタワーに入って行った
やはり、この男はアズを連れ去った人と関係してる
ツガマとアズに緊張が走った
男に見つからないようにラビットタワーに入り尾行を継続していると、男は職員用出入口に入り階段で地下に降りていった
ラビットタワーは最近できたばかりの建物で職員用通路にはまだ建設資機材や建設用足場が建てられていた
「こんなところで、隠れるように何かをしている奴らか……危険な組織かもしれないな」
ツガマがつぶやいた
前にいる男に見つからないように集中した
ツガマとカナが男にバレないように階段を降りようとした時だった
「誰だ!」
後から声がした
前の男にバレないように気をとられすぎて背後に人がいたのに気づかなかった……
振り向くと追いかけていた男と同じようなスーツを来た男が立っていた、この男もオーラをまとっている
最悪だ……いきなり見つかってしまった
「わ、私達、人には言えない交際をしていて……人目につかないところを探していたらこんなところに来てしまって…」
ええっ⁈
カナはツガマの発言に白目になった
……
男は少し考えた
「こんな時間に、偶然オーラをまとっている2人が偶然我々の拠点に間違えて行こうとしている、そんな偶然が重なるものなのかねぇ」
誤魔化せなかったようだ
男は右手にオーラを集めだした
「お前ら何者だ?」
オーラが敵意に変化してきた
もうやるしかない
ズオッ
男に向けて衝撃波が放たれた
飛ばされて男は壁にぶつかった
男の正面で、カナが右手を伸ばして構えていた
カナから汗がしたたり落ちた
「アズを助けるために逃げるわけには行かないんです」
カナは必死の表情だった
「ああ、あの娘の友達か」
男は埃を払うようにスーツ上衣をはたきながらつぶやいた
ほとんど無傷のようだ、男は何事もなかったかのように話し出した
「我々は公的な組織になるんだ、危険な能力者を裁く権利が与えられている、いきなり能力を乱暴に使用し出したその娘は危険だと判断する」
カナは泣きそうな表情になりながら
「アズを連れていったのだって能力じゃないですか!あなた達はよくて私はダメなんておかしいです!」
と言った
「代表は大義をなすためやっているんだ、これからの世の中のためだと思ってあの娘のことは忘れるんだな」
サンゲンのことを代表といい、信仰しきっている様子だ、男は表情1つ変えなかった
「こういう人に理屈で言っても無駄だよ、無理やり突破しよう」
ツガマも臨戦態勢に入った
「安心しろ、命を取るつもりはない」
男は凝縮したオーラをテニスボールくらいのサイズに収め右手に握りしめた
こうなったらしかたない
ツガマは鎌のようなオーラを男に向けて放った
男もそれに合わせて右手で握ったオーラをツガマに向け放り投げた
ボシュッ
男のオーラにぶつかりツガマのオーラは消滅した
ツガマのオーラと衝突しても、男のオーラは勢いを落とさずツガマに向かってきたが、大きく体を仰け反り、間一髪で避けた
威力は負けるかもしれないが、速度は見切れないわけじゃない
ツガマは間を空けずに鎌のようなオーラを出そうとした
ボンッ
なんだ!?
右足?
ツガマが右足のふとももに衝撃を受けた、かなりの威力だ、ツガマは立てずに地面に手をついた
跳弾か……
男の放ったオーラの当たった跡が壁についていた
「抵抗しなければ何もする気はない」
男は近寄ってきた
動けない状態のツガマは決死の表情で男に何発かオーラを放ったが全てかわされてしまった
「ツガマさん!」
カナがツガマに駆け寄った
「観念しろ、お前の吹き飛ばす能力じゃ俺は倒せない、となりの男も敵わないってわかったろ?」
男が言い放った
「そうです」
カナは男に正対した
「私の能力じゃあなたを吹き飛ばすことくらいしかできない」
男に右手を抜けた
「でも、吹き飛ばすことはできるんです」
ガシャシャシャ
男の後方にあった建設用の足場が崩れ出した
男にかわされたツガマのオーラは足場を破壊するために放ったものだった
男の体が浮かび上がり、崩れる足場に向けて吹き飛んでいった
ラビットタワーが揺れたような気がした
すごい音だった、男は足場の下敷きになり、気を失っていた
「ごめんなさいツガマさん…こんな目に合わせてしまって…」
カナは泣いていた
かわいい…ツガマはすこしときめいていた
「骨は折れてないみたいだ、素早い行動は難しいけど、歩くのは問題ない、早くアズちゃんを助けに行こう」
カナはコクンと頷いた