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アヌス・オブ・アヌビス  作者: ディ・オル
第二章 後編
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少女リエルと失われた俺の記憶

少女は白いワンピースを着た純粋そうな女の子で、童顔に赤色の丸い目、髪は白色で長く、足元はサンダルを履いていた。年齢は小中学生くらいだろうか。自らを『リエル』と名乗った。聞き覚えのある名前の気がしたが、気のせいだろう。


済まないが、ルーシアという女性と待ち合わせをしている――と俺が告げると、リエルと歩きながら話す事になった。丁度良いから、ルーシアにも事情を話すのだという。




リエルは様々な事を話してくれた。だが、奇天烈な内容が殆どであった。

まず自分について。自らは“AI(人工知能)”なのだと言う。何年か前、こことは別の世界において、高度な文明を誇った都市が存在していた。その世界の住人達は、現代の科学技術を以ってしても到底及ばないような、超常的な知能を有するAIを作り上げた。それが<マザーコンピューター>とやらであり、自分はそのAIの一部だ、と語った。

AIが暴走した結果、元居た世界は民草共々滅びてしまったのだが、その後、AIは二つに分離して、良いAIである『リエル』と悪いAIである『アイ』が誕生したらしい。『アイ』は地球を狙っていて、アヌビスゲートを通じてプレイヤーを攫っているのだとか。

俗に言う“ロストテクノロジー”か。荒唐無稽な話ではある。


「成程な。で、その『リエル』というAIが、君という訳だな」


「……驚きました。以前お会いした時は信じてもらえなかったのに。何か精神的な成長でもあったのですか?」


成長とは心外な。

まぁ確かに、以前と比べて丸くなったというか。人の話に耳を傾けるようになったし、横紙を破くような事もしなくなったかな? ルーシアを始め、人との繋がりが俺を少し変えたのだと思う。勿論、意見を言う時は遠慮せずに喋るし、今も半信半疑だけどね。

えっ、ていうか、以前こいつと会ってるの?

それについて訊ねると、次に、リエルは俺の記憶喪失について指摘した。


「貴方は昨年のクリスマスにアヌビスゲートをプレイしていた。そこから五月の二十九日までの記憶が無い――そうですよね?」


驚く俺を尻目に、リエルは淡々と語り始める。クリスマスの夜から今日まで、何が起きたのかを。

ニナ、シン、そして俺――三名の勇者を集めて、リエルと共に黒幕『アイ』に挑んだ事。その結果、敗北した事。そして三人の勇者は都合の悪い記憶を抹消されてしまった事。

補足として、以前会った時の俺の様子についても語った。

以前会った時の俺は「君が悪い方のAIかもしれない」とか「世界の危機だなんて、そう簡単に信じる訳にはいかない」とか抜かしたそうだ。

うわぁ、言いそうですね。

でも、ここ数日間、様々な事を見聞きし、体験してきた。それら諸事情を勘案するに信頼できると思ったんだよね。それに数日前に見た夢の戦闘シーンが鮮明だったし、何か体が覚えているというか……不思議と嘘とは思えなかった。記憶喪失についても合点が行くし、一先ず信じるのが最良か、と俺は思った。


「成程な。それで記憶が無いわけか。俺の場合は異能すら変わっているんだが、何なんだ? それに何で俺だけ初期装備だったんだ?」


「それは貴方を危険視したアイが、異能や武器、アイテムなど、過去のデータを書き換えたからですね」


俺は押し黙って、話をただ聞いていた。

アイとの決戦後、敗北したそれぞれの勇者は各地で蘇生した。蘇生して、目が覚めた時――それが五月二十九日だったって事か。

という事は、クリスマスから暫く、リエルや他の勇者達と一緒に冒険の日々を送っていたのだろうか。

……全然記憶に無いな。

ちなみに、記憶を失った俺が蘇生してから今まで、リエルがその間何をしていたのかと言えば、アイとの攻防が延々と続いていたのだとか。その間、微力ながらも陰から俺らを手助けしていたらしい。

兎も角、この白い少女リエルとは以前一緒に旅をしていて、黒幕に他の勇者達と一緒に挑んで、それから記憶を失い神殿で蘇生した……。俺だけは設定も弄られて、最弱にされた……掻い摘んで話すと、こんな所か。


「その解釈で間違いありません」


うーむ。

ふと気になっていた事もあったので、俺はリエルに質問を続ける。


「……疑問に思ったんだが、このゲームには色々なバグがある。廃人や一部のゲームマニアしか気付けないようなものが殆どだが、強力なモンスターでも初心者が倒せるようなバグが、修正されずに残っている。それってもしかして……」


俺の質問に対し、無言で頷くリエル。俺はそれを、肯定と受け取った。

そうか、やはりそうだったのか。これは、俺に向けられた助け舟だったんだ。こんな推論は烏滸がましいと思っていたが、間違っていなかったんだな。

つまりだ。いつの日かアイとの決戦が来る。その結果、勇者が敗れる可能性もあった。破れて万が一弱体化してしまった時、もしくは再起不能になった時、アイを打破する為に力のある者が再起できるよう、アイの目を盗んで手配する必要があった。その手段としてバグが利用され、残されていたのだ。

……という事は相当昔から、つまりゲーム時代の頃から水面下で動き、根回ししていた事になるな。


それで、リエルは今でもアイと膠着状態が続いているが、隙を突いて、ここまでやって来たのだとか。アイを監視して妨害する傍らでキャラクターをクリエイトし、俺達への助力に参ったらしい。


「ニナ、シンについても全然思い出せないな……」


「ニナさんは<物質崩壊>という異能で、二点間を繋げた直線上のあらゆる物体を暗黒物質で消滅させるという能力で、シンさんは<瞬間移動>の異能をもっていました。お二人とも世界ランカーです」


何だと? 暗黒物質であらゆるモノを消滅させる異能だと? チートにも程があるだろ。いや、まぁ俺も<時間停止ステイシス>の異能を持っていた口なんだけどさ。

それから瞬間移動? あんな事やこんな事をいっぱい出来そうだな。悪い事にも使いたい放題だ! クッ、けしからん……!

いや、でも確かにランキングにそんな名前の人が居た気がする。

何で忘れていたんだろう……あっ、記憶を消されたからか。

そう言えば、昨日のカフェで空から降って来た茶髪のポニテ女子、クラーケンと戦闘していたようだけど、あの時の触手を一閃した“黒い稲妻”。あの異能って、まさか……


それからもう一つ引っ掛かるのが、時間を停止するチートと、絶対的な力で無に帰すチート、それから分身するチートが三位一体となったのに、最終的に負けたのか……? しかも、お膳立てしてもらっていたのに。そんな凶悪なラスボスを相手に、どう足掻いても勝てるとは思えないんだが……。


そんな事を懸念しながら、約束した待ち合わせ場所に到着した。――オキナワのギルドである。先に着いていたようで、金髪爆乳エルフがそこでは仁王立ちをしていた。

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