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アヌス・オブ・アヌビス  作者: ディ・オル
プロローグ
3/51

プロローグ③~謎の声~

今回も、というかプロローグは説明をどうしても入れたいので

ちょっと長いです……。

まただ、またやっちまった。

静まり返った自室で、俺はそう思った。部屋の外からは、親父の足音が遠ざかっていくのを感じた。後悔はあったが、同時に何か吹っ切れたような感覚もあった。我ながらいつからこんなダメ人間になったんだ? クソ、まぁいい。


パソコンやエアコンの稼動音が静かに響く部屋の中で、俺はまたゴーグルを装着し、アヌビスゲートをプレイする事にした。

時折、親父の顔が脳裏をチラつく。……こういう時は他のプレイヤーに迷惑をかけまくって、ストレスを発散するに限る。

おっと、シグレ名義だと栄光に泥を塗る事になる。別のキャラを選択して、と。適当に誰かとパーティ組んで引っ掻き回してやるか。グフフ……。お前らに罪は無いが、悪いな。虫の居所が悪くてな。フフッ


アヌビスゲートには冒険する舞台として、フィールド以外に様々な町や村、都市が存在する。ここではプレイヤーの他にNPCが暮らしており、生活拠点を築き上げている。

共通事項としては、こういった場所では基本的にモンスターが出現することは無く、ゲームプレイ時の安全圏として使われる事だろうか。

ちなみに、最初にプレイヤーが冒険を開始する地点は、日本版だと“シンジュク”という都市だ。所謂いわゆるプレイヤータウンであり、宿屋や武器屋、道具屋、銀行……プレイヤーの冒険に欠かせない必需的な施設が点在している。その他、NPCが営んでいる市場がある他、最初のフィールドである<森>へと繋がっている。

複数のプレイヤー同士でチームを組んで遊ぶ――即ちパーティを組みたい場合、他のプレイヤーに直接声をかけて了承を得るか、<ギルド>と呼ばれる施設に行って他のパーティに参加したり、逆に募集してもらったりして、マッチングするのが定石である。パーティ申請を行うと、相手と通話できる“チャット機能”が使えるようになったり、キャラクターの情報を見せてもらったりする事が出来る。

……ゲームプレイ時、プレイヤーの名前やレベルを非表示にする機能があるので、そう言ったケースではパーティを組まないと情報を確認する事が出来ないんだよね。


<シグレさんですよね>


適当にパーティを組もうと思い、俺はギルドへ向かう途中だった。そんな中、道端で急に声を掛けられた……筈だった。

視界には誰も映っていなかった。ふと後ろを振り返るが、誰も居ない。“天の声”的な感じで、俺の脳に直接語りかけているようだ。女の声である。

NPCだろうか? ……いや、そもそもこんなクエストあったか? アップデートするなんて聞いてないから新しいクエストでは無いだろう。

キャラクター選択画面でサブキャラを選んでログインし直しているから、今の俺にシグレという名前は表示されていない。“しぃ”というネカマキャラになっている。アイドル風の蛍光色のコスチュームを身に纏い、ネカマプレイを楽しむ為に作られたサブ垢だが、親しくなった男性プレイヤーにボイスチャットで生身の男声を流すと、みんな顔を引きらせて逃げていくという……そんなサブキャラを持っている事なんて誰にも話した事ないんだが、なんだコイツ。勿論VR外、つまり現実世界の声ではない。バーチャル内で、語りかけられている。


<シグレさんですよね?>


うるせぇな。


「いいえ、違います」


俺は真顔で言ってやった。いきなり身バレしているのもビビったが、なんか面倒そうだし、他人という事にさせてもらおうか! 知らん! 俺はシグレではない! すっこんでろタコ!


<何でウソを付くんですか? ……いいです、今、マズイ状態なんです。落ち着いて聞いてください。世界が滅亡というか地球……あなた方人類の危機なんですが――>


「あぁ~~ちょっと待ってちょっと待って!! それゼッタイ話長くなりますよね? 今、パーティメンバー探してるんでまた今度、スミマセン」


<ちょっと!! 面倒くさいプレイヤーでも無いですし、アタシはNPCでもありません!>


いきなり会った俺に「世界が危機なんです」なんて言うか? いや、言わないでしょ。何度聞いても「村へようこそ」って言う村長とか、会話の成り立たない旧世代のゲームのNPCなら分かるけど、今時これは無いわ~。

Anubisアヌビス社もまぁ、アレだな。アヌビスゲートは良い作品だと思うけど、引き出し不足かな! もうちょい頑張ってマシなシナリオを

……えっ、今なんて言った?

NPCじゃないのか? 厨二病が入ってる痛いプレイヤーでもない、だと? ――ていう会話を喋るようプログラムされたNPCかな? ちょっと判断が付かないけど。


「分かりました。そうです、シグレですけど。何の用ですか?」


NPCなのかプレイヤーなのか、よく分からないが、興味が湧いた俺は「手短にお願いしますよ」と付け加えながら説明を求めた。先ほどまでの怒りも、幾分収まってしまっていた。後になってこの時の事を思い出すのだが、魔が差したんだと、そう思う。ここから訳の分からん事に巻き込まれていくなど露知らずに――



その“声の主”は淡々と話し始めた。名前は『リエル』と言うらしい。それで、話を聞いてみて、ちょっとよく分からない事をつらつら言い出してくれた。

まず、自分は“AI”なのだと言う。それはいい。AIって事はつまり人工知能、NPCなのだろう。

いや~! 最近のゲームは本当によく出来ている! 凄いね! 俺と会話できちゃうんだもの!

……うん。で、次にこのAI、リエルは元々一つのAIだったのだとか。それが分離して良いAIである『リエル』と、悪いAIである『アイ』に分かれたらしい。地球外のとある星で開発され、作られた時期はXXXXらしい。外国語が混ざっていたのか、時期までは聞き取れなかった。

作られた後、その悪いAI(通称アイ)の手でその惑星は滅んでしまったのだが、今度は地球が狙われているらしい。それを防ぐ為、このゲームの中の世界ランカーに現在声を掛けている最中なのだ、という。

どういう事?

勿論、俺は聞き返した。するとリエルは「もっと分かりやすく言いますね」と前置きしつつ、答えてくれた。

うん、なんか俺がまるでバカみたいな扱いだが、一先ず置いておこう。


そもそも、そのアイが拠点としている母星は、地球よりも高度にテクノロジーが発達した世界らしく、どうやら地球侵略に乗り出したそのアイは、人類というモルモットが欲しいらしい。その手段として、VRやネットを見出した。

電子の世界では全てがゼロとイチで置き換える事が出来る。このゲームにダイブしているプレイヤーの情報をゼロとイチにまで分解し、母星へと転移させるのだとか。勿論、肉体ごとだ。

そんな事が可能なのかは不明だが、まぁSFではよくある話だし、ワープだって原理的には理論が説かれているから、納得しておく事にする。

リエルによれば、最悪の場合精神に干渉され、洗脳される恐れもあるらしく、地球人は生きている意味が無いと判断されたら全人類が滅ぼされるのだという。この野望を阻止するには最強の能力をもった廃人プレイヤー達が結託し、えてVR空間に自ら取り込まれ、アイが居る本拠地である母星に向かう。

敵は人類の知能を軽く凌駕するAI、超スーパーコンピューターのようなものだから、ありとあらゆる武装機械や兵器で襲ってくるだろう。それを防ぎ、曰く“マザーコンピューター”を破壊すれば良いのだとか。

アヌビスゲートで使用している異能はそっくりそのまま、母星でも使えるらしい。と言うのも、データを分解して体を取り込む時、ゲームのデータも一緒に再構築されるからなのだ、とか。


「だったら結構カンタンじゃね? 俺、時を止められるし」


説明を聞き終えた俺は、軽い調子で口にしてみた。すると、諭すような声色でリエルの声が脳内へと響く。


「何言ってるんですか。アイには肉体なんて無いんですよ? 核であるマザーコンピューターを破壊できたとしても、ネットや電波を通じて、別の機械やコンピューターにデータだけ移せるんですよ! そしたら永遠に逃げられちゃうんですよ」


「じゃあどうしたら……」


「だから、同時です。同時に、コンピューター以外の全ての機械も破壊するんです。データが移せそうな媒体は全て、です」


リエルによれば、アイを倒すタイミングは今しか無いのだという。自分自身が同じく高い知能を持つAIであり、アイとリエル、お互いに腹の内を探り合っているらしい。今はこうやってコソコソと隠れてプレイヤーと接触を図っていられるが、その内干渉されたら出来なくなるかもしれない。

だからチャンスは一度、他に凄い異能を持ったプレイヤーを集めた、今しか無いのだと言う。


「いや……そうだけどさ。それを信じろと? 君はただのプログラムされたNPCかもしれないし、底辺プレイヤーによるタチの悪いイタズラかもしれないし、もしかしたら君が悪いAI、アイの方かもしれないし」


「酷いです。まさかそんなに捻くれているとは思いませんでした! あなたも知っていますよね? アヌビスゲートのプレイヤーが行方不明になっているのを」


「いや、そうだけどさぁ。噂じゃないの?」


「真実です! もう何百人単位で犠牲が出ているんですよ!」


「えっ」


そんなに? リエルによれば、もう大勢の人が取り込まれてしまっているらしい。それが表沙汰にならないのは、アイの手で巧妙に偽装されているからなのだとか。


百歩譲って力を貸すとして、だ。全てを同時に壊す、と言うが、「全て」ってどれくらいの規模なのだろうか。数千、数万? それとも……。

そもそも、ようは全機械が敵になり得る状態なのだとしたら勝ち目が無い気がする。それに、じゃあ今はなんで俺らは無事なのだろう? 既に母星へと転移されて殺されててもおかしくないし、アイならそれくらい出来るのでは?


「それは違うんです。万全を期したいんでしょう。だから偽装したり、ゲームサービス開始の当初から手を出さず、回りくどいやり方をしたんです。今なら! アイの目を掻いくぐって倒せます! 今しか無いんです!」


「うーん……」


「アナタは乗り気じゃないみたいですが、このままではアナタだけでは済みません。犠牲はどんどん増えます。アナタにも大切な方が居るんでしょう!?」


「……」


姿は見えないのだが、熱弁している様子は伝わってきた。リエルに問われて「いや、いねーし」と吐き捨てようとも思った。そんな時、ふと頭を過ぎったのはさっきケンカした親父の顔。

俺は、反論しようと開きかけた口を閉じたのだった。

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