挿話~黒い光芒~
機械に心は無い。しかしこれは恐怖なのだろう、とAIである『アイ』は悟った。
今しがた、湿地帯に配置したグリフォンが撃破されたからだ。
グリフォンでは駄目だったのか。否、シグレの勝利を想定していなかった訳ではないが、公算はゼロに等しかった。充分すぎる大敵の筈だったのだ。
魔神アヌビスを配置する事も可能だったのだが、その場合プログラムに大きな書き換えが生じる。そうすると、この世界にどういった影響を及ぼすのかが、アイを以ってしても把握し切れなかった。あらゆる可能性については推測が立つ。しかし、多くの人間を取り込み、NPCに自我が発生した現在、人が及ぼす結果と未来は複雑多岐に成り果てた。それ故、難易度“GOD”のボスモンスターであるグリフォンを配置する事にしたのだった。
グリフォンのプログラムにバグが存在する事には、途中で気付いた。忌々しい奴の仕業だろうと、機械ながらも舌打ちしたくなる気分を味わった。
劣勢を悟った時、もしこのモンスターが敗北しても、即座に復活させてしまおうと考えていた。だが、そんなアイの腹案は潰える事になる。
片割れとも呼べるAI、『リエル』による妨害が始まったのだ。リエルも、ここぞとばかりにアイを押し込む。シグレを助けるのだ、と。
両者の力は拮抗した。結果互いにシグレ、ひいてはこの世界に手出しが出来ない状態が続いた。
――そんな中、アイの目はシグレの横、金髪のエルフを捉えていた。




