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アヌス・オブ・アヌビス  作者: ディ・オル
第一章 前編
21/51

グリフォン討伐作戦

作戦はこうだった。グリフォンが空から出現する時、専用の登場エフェクト――急に雨が降り出し、空が暗くなり、やがて雷雲が渦巻き始める――が掛かる。なので、湿地帯フィールドで空に稲光が走ったら、まず俺はその場からさっさと離れる。これで、グリフォンが着地した時の全方位攻撃“衝撃波”をかわせるだろう。

ルーシアにはその場に残ってもらい、回避するか防御するか……まぁ何とかしてもらおう。そして、ルーシアにはグリフォンから付かず離れずの距離を維持しながら囮になってもらい、俺は背後から回り込んで接近して、グリフォンの懐にダイブする。ダイブした俺は斬撃を畳み掛ける。

グリフォンはHPが三分の一になると一旦飛んでから再度衝撃波を放って来るのだが、これは身代わりの盾で耐える。ルーシアには……まぁ回避するか防御するか何とかしてもらおう。再びグリフォンの背後から懐に飛び込んで、連続攻撃。サヨナラだ。


「……」


――――とまぁ、以上がグリフォン討伐作戦の概要である。俺が説明し終えると、何故だかルーシアは憮然とした様子であった。半眼になって俺を見つめると、溜め息を吐いたのだった。

ハハッ、照れるな。……よせよ。俺の天才的な頭脳に惚れてしまうのは理解できなくはない。それに、この作戦を思いついた時、俺も自分で「俺って策士だな」とか思った。だが口にしなかった。雄弁は銀、沈黙は金だからだ。英国の思想家“カーライル”の言葉だったか。まぁ、今回だけ、特別に俺の胸に飛び込んで来てもいいん――


「ちょ、ちょっと待って」


腕を組みながら一人納得していた俺は、ルーシアに制止された。

何だろう。この完璧なオペレーションに綻びなど無いが、何か意見があるのだろうか。


「シグレさん、アタシに遠まわしに『死ね』って言ってるの?」


「いや、そんなつもりは――」


「だって、そうじゃない! 昨日戦った時、確かに“衝撃波”は耐えられたけど、結構ギリギリだったんだからね!? そこからグリフォンの全攻撃を回避しながら二回目の衝撃波にも避けるか耐えろですって? 無理ゲーにも程があるわよ!!」


「お、落ち着け。衝撃波だが、落ち着いて真上にジャンプすればかわせる」


「あんなもん、初見でかわせる訳ないでしょ! 大地がバリッバリに裂けて迫ってくんのよ!?」


俺の立案した作戦が余程気に入らなかったのか、ルーシアが憤慨してしまった。ぷりぷりと俺を捲くし立てて、皿に残っていたハムを串刺しにする。従業員の女性や店主らしき人物が心配そうにこちらを窺っているのが、チラリと見えた。

そんなルーシアだったが、「おやおや、奥さんは朝から元気だねぇ」という隣のテーブルで紅茶を飲んでいたジジイの鶴の一声で大人しくなった。


「……大丈夫だ。俺はグリフォンの攻撃パターンを全て見切っている。避けるタイミングは全て、チャット機能で合図を出す」


俺はアヌビスゲートで超有名な廃人プレイヤーだからな。全てのモンスターの攻撃、行動のパターンを熟知している。かわすなんて造作もない。

本当はこの俺自らが囮になってやりたい所だが、この異能じゃあな……。

だが、この瞬間、趨勢は決した。ゲームのシステムや本来のセオリーだけではなく、プログラムの欠陥、バグにも知悉している。


「もう少し、その短気なクセを直した方がいいと思うのだが……」


俺は一言だけ、ルーシアに苦言を呈するのだった。

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