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はじかれ者は復讐しない。  作者: 桜守
復讐しないはじかれ者と復讐したい魔剣
4/5

 はじかれ者と魔剣2

 「うっ、ぐっ」


 握った瞬間、両手を通して黒いナニかが身体中に入り込んでくる感覚が襲ってくる。

 それが濁流の様に暴れ、僕の意識を飲み込んだ。


 「…くっくく、よもやここまでうまくいくとわなぁ。」


 僕じゃない僕が喋りだすと魔剣の赤い宝石が輝きを放ち、絡まる鎖にひびが入り、すぐさま砕け散った。

 

 鎖の破片が力なく落ち、解放された剣を見ると僕は軽く力を籠めて引き抜いた。

 抜いた剣を片手に持ち替えるがまるでその重さを感じさせず、その柄は僕の手に吸い付くみたいにジャストフィットしている。


 「ようやくだ、ようやく…」

 

 慈しむ様に剣を眺め、語りかけるように話していると後方からドンと崩れる音が響いて、そちら振り向くと先ほどであった巨大な石の扉が周囲の壁と共に崩れて土煙を上げていた。


 「あぁ、そうか忘れていたよ。」


 おっとりとした口調で土煙が上がる方に話しかけると煙の中か黄色く輝く八つの玉が浮かび上り。


 「「「「ギョォアアァアァ」」」」


 煙の中から多重の咆哮が上がり、煙を霧散させその姿を現した。 


 そいつまるで金属のみたいな光沢の白い鱗で体を覆い、恐竜のような胴体をしっかりとした四本の足が支え、四つもある長く太い首の先に蛇の頭を持つ巨大な魔物、ゲームや物語とかではヒュドラと呼ばれたいた化け物がいた。


 「ふむふむ、こう相対するのは初めてだったな。」


 僕はそんな魔物を前にしているのに吞気に腕を組み、博物館のはく製を眺めるみたいに頭を軽く上下させて観ている。


 そんな悠長に観てて良いのか!いや、マズいだろ!と心の中で焦るが身体は動かず、静かに観ていた。


 「焦るな、なにたかがでかいだけのトカゲ?ヘビ?のモドキでは無いか。我にとっては雑魚よ。」  


 勝手に喋りだす口には、自信のほどが窺えるが雑魚扱いされたヒュドラはそれを聞くとたぶん先程よりも鋭く怒りを含んだ視線を向けて来てる気がする。


 「ギョアァア」「ギィイイ」「グゥアァアア」「ゴァァア」


 いや、完全に怒っているようだ。

 四つの頭がそれぞれが怒りの咆哮を上げ今にも襲い掛かろうとしていた。 


 「吠えるなモドキ!」


 そう僕が一喝するとヒュドラはその気迫に圧倒されたのか押し黙る。


 「しょせん貴様はあれらに創られた紛い物、このような姿に成り果てたが真なる我に勝てると思ったのか。」

 

 高圧的な態度をとる僕に手を出しずらいのか中々攻撃を仕掛けて来ないヒュドラを観ながらゆっくりと祭壇の階段を降り、その真ん前に僕は躍り出た。


 間近で見るヒュドラはその全体の大きさの迫力も然る事ながら、蛇の頭一つ一つが僕を簡単に飲み込む程の巨大で先ほど頑丈そうな石の扉を叩き破ったはずなのにその体には傷一つ付いては無く、磨かれた金属の様に白く輝いてる。


 ヒュドラの姿をみて某狩りのゲームを僕は思い出した。


 あぁ、あのゲームの中のプレイヤーは毎回こんな化け物を倒していたのか。…玉が出ないとか逆鱗が落ちない言って何度も繰り返し戦わせてホントごめん、今だから分かるけど無理だわこれ。

 まず、自身とのサイズが違いすぎるし、鱗は堅そうだし、剣の長さ的に斬れないだろ。

 

 無理だな、死亡確定、ゲームオーバー賭けに負けたな、ハハハ。


 「…はぁ、男ならもう少しだなぁ、…よい、我が力を少し見せてやろう。」


 そう言い終えると僕は目の前のヒュドラに持っている剣を挑発的に構え。


 「おい、モドキよ試し切りしてやるから掛かって来い、光栄に思えよ我に斬り捨てられその命を散らすことに。」

 「ギィ、…「「「ギィョアアァァァアア」」」」


 気圧されていたヒュドラだったが、流石にここまで挑発され怒りを顕にして蛇の四つ頭が僕にお襲い掛かる。

 ヒュドラはその大きさと四つもある頭を利用して四方から僕を囲むとそのまま勢いをつけ僕を頭で押し潰す気でいる。

 

 やばい、死ぬ。


 ものすごい勢いで四方から迫る白い頭に体をよじらせ逃げ様としたのだが、身体は動かずその場にとどまり続け。

 

 あっ。

 

 もう眼前に広がる白い頭に逃げる余地はなく死を覚悟した瞬間。


 「フッ」


 軽く息を吐く音と共に、目の前すれすれまで迫っていた白い蛇の頭は消えた。 


 その数秒後、ドシャッと頭の上から四つのモノが落ちた音が響き、それをよく見れば先ほどまで迫っていた四つの蛇の頭だった。


 は?


 意味が解らない。え?あれ、僕は死にそうだったんじゃないか?蛇の頭が目の前にあって…へ?終わったの?僕は助かったのか?


 余りに突然の事で脳の処理が追い付かない。死に瀕していたはず僕は無事にその場に立ち続け、殺そうと迫っていた蛇の頭は四つ全て斬り上げられ地面を転がり落ちている。


 「落ち着け、それによく見よ、まだ終わっておらぬ。」

 

 静かに僕は告げると剣で頭が全て斬り落とされ、まだ少し残る首と胴体を方を指す。


 ん?なっ!


 頭を失い普通の生き物なら死んでしまうはずなのに、残るヒュドラの胴体はしっかりとした足で残る胴体を支え続け、残る首も切り口ら血では無く、白い泡が噴出し徐々に斬り落とされた首と頭を復元させて行く。


 「中々しぶといのぅ、がしかしこれで終いだ。」


 高らかに漆黒の剣を掲げるとそのまま目の前の再生途中のヒュドラに真紅の線を残しながら振り下ろした。

 空振りしたのかと思うほど手応えは無かったのだがヒュドラの頭を再生しようとしていた泡は空中へと霧散して残る胴体に縦の赤い線が走り、その線から巨大な胴体は真っ二つに別れてそれぞれ左右に崩れ落ちた。


 もはや理解不能だ。触れてもいなはずの胴体を真っ二つにした?いや、物理的に不可能でしょ!切り口も剣の長さから考えておかしい!はぁ、なにこれ!…あ~もうファンタジーすごいね、僕は早く地球の現代日本に帰りたいよ。


 現実離れした現象の数々に心の許容量を大きく超え、僕は心の整理と安寧の為にファンタジー世界だから仕方ないよね!という一つの結論を出し、それと共にとても故郷である現実的な日本を恋しいと感じていた。


 「うむ、久々だったが悪くない。…さて、試しも終えたことだ。」


 くるりと体を捻らせて。


 「これより地上に出て…」


 祭壇まで勢いよく駆け上り。


 「人族全てを我が手で斬り…」


 両手で剣をしっかりと持ち、そのまま勢い良く祭壇に突き刺す。


 [殺してやにゅううぅ?!] 


 「ふう、上手くいったな。」


 語尾が変になった魔剣を放って置き、自分の賭けが上手くいった事に喜び奥にある転移の為の魔法陣を見ると、光を放ちいつでも起動しそうな状態だった。


 「よし、これで地上まで帰れそうだね、とりあえずここを出て…」

 [ま、まてまて!なんじゃどうなっとる!?其方は我に完全に支配し、身体の自由は乗っ取ったはずであろう!なぜ、我は祭壇に刺さっている!?]


 確かに先ほどまで僕は、あの魔剣の言う通り自分の意思とは関係なく魔剣の意思の元で勝手に喋り、動いていた。

 そう、まるでFPS(主人公の一人称)やVRゲームをプレイしているみたいな感じでいたのだけど、僕が貰った《ギフト》のお陰でこうして自由に動けるように戻りって無事にあの魔剣を祭壇に刺す事が出来た。

 

 僕が貰った《ギフト》それは、《状態異常完全無効》というモノだった。


 初めは、毒や呪い等の状態を無効にするだけの何でもない力だと思われていた。いや、正確に言うと戦闘能力がある人間や権力者が持てばすごい便利なんだろうけど、僕にはそんな戦闘能力も権力も無く完全にハズレ能力だと思っていたのだけど実際はそうではなかった。


 この《状態異常完全無効》はさっき実際に使ってみて分かった事なんだけど、これはとんでもない代物だ。

 毒や呪いにならない事はもちろん病気にもかからないここまでは普通、ここからが異常、体のどこかが怪我もしくは無くしても元通りになる。というか、僕が異常と感じたものを無かった事にできるというデタラメなものだった。

 

 つまり、僕はこの世界に来て体の頭以外の何処でも斬り刻まれ、破壊されても直ぐに治す事が出来るし老いすらもやろうと思えば異常としてみる事も出来てしまう。

 その結果僕は、限定的な不死の存在になった。

 もちろん弱点もある、一瞬で意識も残らずに殺されたり、跡形も無く消されればアウトだし僕自身の戦闘能力は0だから普通に戦えば死ぬ確率が高いのはあまり変わらない。


 それとこの《状態異常完全無効》は僕の意思次第でオンオフができる。だからさっきまでは、オフにして僕の代わりに魔剣に身体を乗っ取られて状態にして戦って貰い、身体が自由に動かないフリをして油断した所をタイミングよく体の自由を取り戻して魔剣を元に戻したと。


 それでも本当に危険な賭けだった、この《ギフト》の力がこんなにデタラメだと思いもしなかったし、魔剣が実はヒュドラよりも弱かったり、《ギフト》能力が魔剣に効かなくても、どれか一つダメだったら僕はここで死んでいたのかもしれない。そう思うと背中に寒い物を感じる。


 こんな危険な綱渡りはもうこりごりだよ。


 「じゃあ、そういう事だから…」

 [いやいや、まだ何も話てはおらぬではないか……わかった、どうやって解いたかは聞かぬ。]


 魔剣は僕が説明する気がない事に気づき、質問する事やめて別の話に切り替える。


 [なぜだ、なぜ我をここに置いてゆくのだ。先ほど、力は見せたではないか、何の不満があるというのだ!]

 「いや、人の身体乗っ取る時点でどうかと思う。…それに僕的には平穏無事に暮らせればいいので、そこまで力に固執してないからかな。」


 むしろ、あんな化け物を一振りで一刀両断にする剣なんて持ってたら、なんかのトラブルを招きそうだし、いざという時に身体を乗っ取れない僕を魔剣が裏切る可能性もかなり高いからね。


 [うぐ、た、たしかに勝手に乗っ取ったのは済まぬ、だが、汝は一つ忘れていないか。]

 「うん?」

 [汝は、国の意思、それを実行した騎士の手によってここに落とされたのであろう。]

 「あ。」

 [ならば、汝が望む平穏無事とやらは今のままでは無理ではないか?仮にこのままこの迷宮区を出てば国が許すとでも?気づけば刺客を送るやもしれぬし、国を出るにしても力の無い汝はすぐさま屍を晒す事になるぞ?]


 くっそ、そうだった。僕が無事に迷宮区を出たなんて情報が流れたらこの国は僕を放っていてくれるか?いや、ここで殺す予定だったのだからそれは無いだろう。

 この国を出ようにも地理の知識が無いし、ファンタジー世界は町や村以外の場所で、いつどこで魔物と出会すか解らない状況で戦えない僕が1人でいるのはマズイな。


 くっ、ここは魔剣の言う通…うん?あれ?まてよ、なんでその事を知っているんだ?

 ここで僕は、とある疑問に気が付いた。

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