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はじかれ者は復讐しない。  作者: 桜守
復讐しないはじかれ者と復讐したい魔剣
3/5

 はじかれ者と魔剣1

 暗い部屋の中、先ほどまでの記憶を取り戻した僕は自身に起きた現状を把握した。

 つまりここは凶悪な魔物が辺りをうろつく迷宮区の下層、何処かの部屋なんだろう。


 「…たぶん、魔物はいないみたいだね。」


 暗闇に慣れた目で辺りをしっかりと見渡し、どうやらこの部屋の中には自分以外の生物はいないことを確認する。


 運が良いのか悪いのか解らないけど今のところは急に命の危険が迫るほど切迫した状況ではないらしい。

 でもこの後が無い、今この部屋に魔物がいないだけで後に魔物が入ってきたら、武器の一つもない僕は簡単に死んでしまう……もし、仮に武器があっても変わらないと思うけどね。

 

 そしてこの部屋を出ても結末は同じだろう。迷宮区のどこかには必ず魔物がいる見つかればそこでアウト、魔物を避けて通る事なんて今自分がどこに居るのかさえ分からない僕には不可能だろう。

 ここがゲームであったようなセーフティーエリアみたいな魔物が来ない部屋だったとしても水も食料も無いから長くは持たない、あの騎士の言う通りなら国ぐるみで僕を殺そうとしているなら待っていても救助は来ないから餓死するだけ…


 詰んでいる。…どうしようもないくらいに終わっている、悪あがきをするならこの部屋から出て魔物から出来るだけ身を隠し、遭遇しても死ぬ気で逃げれば…無理か、他のチート持ちのクラスメイトならできるかもしれないけどこの世界で一般人より低い能力値の僕が逃げ切れる訳もないね。


 「…くっはぁ~異世界なんて来ても良い事なんて一つもない。」 


 どうする事もできない状況な僕は、手足を伸ばし再び地面に寝転ぶ。そして口から異世界に来てからの不満が漏れだす。


「大体さぁ、女神様から良い《ギフト》が貰えなく低い能力値だからってここまでする?あなた達が勝手に呼び出しておいてそれは無いよね。……あと、とてもご飯が美味しくない!!」


 思い出す初日の宴に出ていた料理、見た目は良いのに味はぼやけてたり薄いかなと思ったらものすごく濃すぎだったりと全体的に微妙だし、その後の食堂の料理も薄い味のスープにやたらと硬い肉と石かと思うガチガチのパンばかりだし…最後石パンだけになったけど、もう少しバリエーションとか無いの!って言いたかったよ。


 割とこの手の異世界転移ファンタジー系のラノベを見たりして魔物の肉美味しそうだなぁとか、異世界特有の野菜や薬草(ハーブ)を使ったスープや料理等を食べてみたいって思ったりしたのに、現実はアレなんだよ?やっぱりこういう異世界なんて本とかアニメで十分だね。

 

 グゥ~、さっきから食べ物の事を考えていたせいなのか腹の虫が騒ぎだす。

 

 そうえば、今日もろくにご飯食べてないだよね。あぁ、そういば駅前にある家系ラーメンの店うまかったなぁ、ラックのハンバーガーとかコンビニのジャンクフードが恋しいや。


 […クッ、クッハハハ、汝は、死かも知れぬ瀬戸際に言う事は食い物の事か!愉快な者だな!]

 「!だ、だれかいるですか!」


 誰もいないと思っていた部屋に突然に何者かの声が響き渡り、僕は驚いてその場からすぐさま飛び起きて辺りを見るが大分慣れたとはいえ、部屋が明かりも無く暗いため声の主がどこに居るのか分からない。

 でも、声の主は僕が探してるのが分かるのか。


 [フッフフ、我はここだ。]


 その謎の声に反応するように部屋の床や壁が明るく輝き辺りを照らす。

 

 明るくなった事で部屋の全体像が分かる。四角い部屋の隅、四方に柱が立っていて僕の目の前、部屋中央部はピラミッド型の祭壇らいき物がある。

 

 [さぁ、登って来い。]


 謎の声の主はどうやらこの祭壇の上に居る様だ。

 少し迷うけどここは、その声に従うしか道はなさそうだ。そう判断した僕は慎重にピラミッド型の祭壇を上る。


 「えっ!?」

 

 祭壇を上がりきると声の主だと思われるのがいた(・・・)。いや、在った(・・・)の方が正しいのか。


 祭壇の上には一本の剣が四方の柱から伸びる鎖で雁字搦(がんじがら)めにされ封じ込められる様に祭壇に突き刺さっていた。


 「もしかして、…魔剣?」

 [ほう、我の正体を見抜くとは中々の良い目を持っいる。]

 「いや、見た目そのまんまだし、こういうのはテンプレだしね。」

 [てんぷれ?]


 目の前にある剣は、グループのクラスメイトが持っていた片手剣と同じぐらいのサイズなのだけど片方にしか刃が無く、反りも無く真っ直ぐで刀身から持ち手まで殆ど黒く、(つば)の部分に血の様に紅い真紅の宝石が填められていてそこから刀身から血脈の様に紅い線が刃まで伸び、刃を紅く染め上げている。


 そんな禍々しい見た目で、いかにも厳重に封印してます。の鎖とよく見れば剣の刺さった場所を中心に地面に魔法陣みたいなものも描かれてるし意思を持って喋る剣……これはどう見ても魔剣だろ感が半端ないのにいい目も無いだろに。


 [ふむ、まぁいいだろう。汝、ちかr…]

 「あ、いやそういうのは結構です。」


 魔剣の声?に被せ気味に答える。

 

 「どうせ力をやるからこの封印を解けとかだよね、お断りですよ。だって、その後僕が無事かどうか怪しいからね。」

 

 こういう場合、封印を解いたら最期だろう。意思のない人形として剣に憑りつかれ剣の意のまま殺戮を繰り返して誰かに殺されるか、力に魅了されて性格がおかしくなり前と同じく殺戮した後で殺されるなんてオチが見えている。


 […そうか、ならばどうするのだ?ここは迷宮区の最下層、その最奥の間だぞ。 力無くしてどう地上まで戻るというのだ。] 

 

 へ?ここ迷宮区の最奥だって…なら、もしかして。


 「あ~魔剣さん聞きたい事があるんですが。」

 [なんだ、問か?いいだろう答えよう。]

 「ありがとうございます。じゃお言葉に甘えて、ここが最奥ならもしかして地上に戻れる転移的な何かありませんか?」


 ダンジョンものには必ず存在するだろクリアした人を地上へと帰す転移システムがこの世界の迷宮区に存在して迷宮区の最奥のこの場所ならもしかしてと一縷の望みを賭けて魔剣に問いかける。


 [ああ、アレかそれなら祭壇の裏にあるぞ。]


 魔剣からもたらされた朗報に思わずガッツポーズをして喜ぶが、[ただし!]と魔剣は続けて話す。


 [アレは、正規の(・・・・)攻略者(・・・)がこの部屋に来た時のみ起動するのであって、汝の様に飛ばされて来た者には起動せぬがなぁ!]


 魔剣のドヤ声にハッとしその場から祭壇の裏を覗くと地面には確かに魔法陣の様なものが描かれていたが光もせずにただ描かれてるだけで動きそうにない。望みが外れてショックを受ける。


 しまった。そうか、罠で飛ばされてのクリアは流石にだめだよな。…せっかくの簡単に脱出が出来ると思ったけど少し甘かったな。


 「…じゃあ、ここに入る為の入口はどこですか?」

 [ん?あぁ、それなら汝が先ほどまだ寝ていた後ろのだ。]


 くるりと後ろを振り向くと先ほど気が付かなかったけどそこには巨大な扉が存在していた。


 ありがとう。と僕は短く礼の言葉を魔剣に言うとそのまま祭壇を降り扉の前まで移動する。


 「随分と大きいな。」

 

 扉の前に立つと自然と感想が漏れる程大きく、僕の身長の6倍ある高さに鎖のレリーフが彫られた石造り扉が威圧的に存在している。


 [いったいどうするのだ?] 

 「えっと、少し外の様子でも見ようかと。」


 後ろから魔剣に問いかけられて重い石の扉の手を付き力を籠めながら、軽く答える。

 

 ここが最下層なら他にも、もしかしたら地上に出れる方法があるかもしれない。とわずかな可能性を信じ賭けてみる事にした。それに、この石の扉なら普通の魔物(・・・・・)ならたぶん通さずに閉めて籠る事もできるだろう。という思いもあった。


 [なるほどのう。…時に、先ほど伝えた正規の攻略者とはなぁ…]

 ゴッ、ゴッゴゴォ


 魔剣の言葉を最後まで聞き終える前に踏ん張って力を入れ押していた重い扉が少しだけ開き隙間からあちらを覗く事が出来るようになる。


 そして僕は、その隙間から隣を覗こうと顔を近づけると。


 ギョロリ

 「!?」


 まるで爬虫類の様なぬめっとした黄色く黒い縦線が入った巨大な瞳が僕と同じようにこちらを隙間から覗いていた。


 [あぁその、この部屋の守護者(ガーディアン)を倒した者の事を言うのだ。]

 「ギッィアアァアアァ」


 魔剣の言葉が言い終わると同時に僕の存在に気付いたそいつ(ガーディアン)は、けたたましい咆哮を上げると異物である僕を排除するために扉に体当たりしたのだろう衝撃と重音がなり、その衝撃に僕は吹っ飛び扉は再び閉まったのだが。


 「ギィ、ギョッアァア」


 扉越しでも聞こえてくる咆哮と、ドン、ゴッンと何度も石の扉が打ち付けられる音が響く。


 [さてはて、これはどうしたものかのう?]


 まるでこうなる事に予測していたかの愉快そうに喋る魔剣。

 

 くそ、転移できない事で頭がいっぱいになってここが最奥(イコール)宝部屋だという事に忘れてしまった。

 そうだよな、ダンジョンの最後の宝部屋の前には必ずボスモンスターがいて当然の如く侵入者()を全力で排除する事なんて分かりきっている事じゃないか!。


 自身の軽率な行動で起きてしまった事に強く後悔するが、既にあのボスは僕を認識して殺すために何度も扉を打ち破ろうとしている。

 何度も衝撃が扉に走る度に、ミシミシと嫌な扉の悲鳴が聞こえ。ついに、ビシリと石の扉にひびが入る。

 

 後数回の衝撃であの扉は崩れ、先ほどの爬虫類の様な巨大な瞳を持つボスモンスターが僕を蹂躙すだろう。

 もう残された時間は無い。残された生き残る可能性が高い手段は一つだけ。


 賭けるしかない!そう心の中で決意を固め再度、祭壇を駆け上がり魔剣の前に立つ。


 「…最悪だ。」

 

 ぽつりとこぼれた言葉はまさにその通り。今からする事は最悪中の最悪、何の策も無いただの運任せでベットするのは自分の命なのだから笑えない。

 

 [くっくく…さあ、汝は我をどうするのだ?]

 

 笑いながら喋る魔剣は、僕がこれからする行動を理解した上で問いかけているのだろう。

 この魔剣は性格が悪い。まぁ、魔剣に良い性格をした奴なんてそうそういないだろうけど。


 「…封印を解いてあげる、その代わりこの場を凌ぐ力を貸してくれ!」

 [フッ、フハハハハァ、よかろう我をつかみ取れ、さすれば封印は解け汝に力を授けよう。]


 僕は魔剣に従うようにその漆黒の柄を両手で掴み取った。


 その日僕は、最高で最低のめんどくさい選択をした。

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