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はじかれ者は復讐しない。  作者: 桜守
復讐しないはじかれ者と復讐したい魔剣
2/5

 はじかれ者と迷宮

 その後も僕らの能力の鑑定は続き、他にもとても貴重な《ギフト》を持った女子生徒が現れたりとかしたけど人気者で勇者らしい彼、神之木 勇翔(かみのき ゆうと)さんみたいなかなり《ギフト(チート)》と数値を出した人はいなかったし、僕みたいに全体的にしょぼい人もいなかった。


 各能力を調べ終え、僕たちに王様はささやかだが歓迎の宴を設けた。今日は楽しんでくれと述べるとどこかに行ってしまう。


 僕たちは兵士やローブを着た人達に連れられて謁見の間を後にその会場まで行くとそこには大勢のドレスやスーツを着た人たち、多分この国の身分が高い貴族の方々がいて皆、歓迎します勇者様方ようこそと口をそろえて歓迎の言葉を送られ持て囃さられた。

 

 その中でもクラスでも人気者で勇者としであるだろうと言われている神之木さんと他の能力の評価が高い人達の周りにはすごく人が集まり、逆に僕の周りに人が寄り付かなかった。まぁ、人に気を遣わずにいられるので良かったのだけど。


 ◇

 

 次の日から僕たちの訓練は始まり。

 城内にある兵士や騎士の訓練所に集められた僕らは、まずは基礎体力の向上と軽い運動としてランニングという名のフルマラソンと木剣で素振りを300回から始まり、その後僕らは魔法に秀でた《ギフト》、近接戦闘や武器を用いた《ギフト》それぞれの能力に合った訓練内容に別れて訓練を開始した。


 ただ僕は、数値面でも《ギフト》でもクラスの人達と違い劣っているし魔法の適正もなかったので取り合ず近接戦闘の訓練に割り振られた。だけど、元々運動神経は良い方ではなく体力も少ない僕はマラソンと素振りだけで精一杯で次の訓練に移る時にはもうヘロヘロな状態だった。

 

 そんな僕を見てクラスの人達や城の人間は、ヒソヒソと小声で「異界人なのにだらしない」「やはり、はじかれ者はダメですな。」「うわ、誰にでも出来てるのにダメじゃね」「はぁ~お荷物がいるとやる気無くすわぁ~」と好き勝手なこと言って、笑っている。


 同じ訓練が1日、2日と続き一向に成長を見せない僕に対して扱いがどんどんと酷くなっていく。


 最初はクラスの男子数名と同じ簡素な作りベットが置かれていた大部屋にいたのだけど、途中から僕一人だけ移動となり物置部屋みたいに小さく窓もない部屋に押し込められた。もちろんベットなんて物はなくって石の床にボロボロ敷物があるだけ。

 

 それだけじゃなく食事も初めはみんなと同じものを食堂で食べていたのだけど、どんどんと量と品数が減りしまいには物置部屋みたいな自室で食べる事を言い渡され訓練が終わって戻るとガチガチの硬いパンが1つ床に転がっているだけ。

 正直に不満を言っても取り合ってもらえないどころか兵士の人に「なに生意気な事を言ってやがる!このはじかれ者がぁ!!」と言われ殴られ。


 悪辣な環境で生活すること約2週間ほど続いたある日、唐突に僕たちの訓練を見ている騎士団長が僕らにこれから近くの町にある迷宮区(ダンジョン)に行ってもらうと伝えて来た。


 ◆

 

 迷宮区(ダンジョン)―――それはいつから存在しているか、何の目的でそこに在るのかも判っていない建造物であったりただの洞窟のような外見であったり、塔の様に高くそびえ立っていたりと様々な形で存在している。ただどの迷宮区にも共通して階層があり、宝が様々な場所に隠されており、多くの魔物と呼ばれる凶悪な生物が生息し迷宮区に入った者を襲うという事だ。


 ルーベェリア聖王国の王城がある聖都ルグリアから馬車で2日程かけた町にもその迷宮区は存在している。そこは、冒険者と見習いの兵士や騎士たちが実戦的な訓練の場として使われている迷宮区なのだがそこを攻略した者は未だ一人もいない。


 何故ならば、この迷宮区は上層、中層、下層の三層で数えられていて上層に出てくる魔物は弱い分類の魔物が多く中層もその魔物たちより少し強いぐらいの魔物しかでない。なら下層も同じでは?と考える者も少なくないだが、事実は違う。


 下層に出てくる魔物たちは上層、中層の魔物と比べその強さは段違いでゴブリンやワーム、ブラットバットなどの生物系の魔物が主な上層、中層なのに下層は、ゴーレム、ガーゴイル、ストームウルフ等の身体が岩でできた無機物系の魔物が下層に満遍(まんべん)無く配置されていて下層に入った者を容赦なく襲う。

 

 下層の頑強な魔物たちは並武器では歯が立たず、魔法も効きづらいく倒しにくいのに更に下層のあちらこちらに居る他の魔物も戦闘気づき集まって来る。


 そんな下層が存在している為この迷宮区は、いまだに攻略者はいないのだが下層に眠っている宝やゴーレムが取れる貴重な部品などを求め冒険者は下層へと潜り続けていると云う。


 と騎士団長から聞かされた危険な迷宮区に僕らは行くのに少し浮かれいた。


 それもそのはず僕たちは召喚されてから約半月もの間、城から一歩たりとも外に出してもらえなかった。テレビやインターネット、漫画にゲームなど最新の娯楽もない町などに行くこともできず外部との接触を断たれ城の中で訓練ばかりでストレスがかなり溜まっていた。僕としても劣悪な環境の城からわずかない間だけど出れること喜んだ。


 次の日、僕らは狭くて座り心地の悪い馬車にぎゅうぎゅうに詰められながら初めて城から出る。移動中も警備の関係で馬車の窓にはないし余り馬車から降りる事も無く、小休止や夜で降りてもどこかの森の中だったりと僕らは町を見ていないし余り景色も楽しめず、解ったことは地球と比べ道の整備も乗り物も最悪だったという事。


 そんなこんなで城から2日程かけて目的の迷宮区がある街にたどり着き、そこの町の領主の館で一泊したのちに僕ら迷宮区に入った。



 明かりも無い暗く、埃っぽい空気が漂っている場所で僕は目を覚ました。


 ここは何処だろう?どうして僕はこんな所にいるんだ?目覚めたばかりのぼやけた頭で考えるがうまく思い出せない。

  

 辺りを見渡すけど灯りなしではよく見ない、でも暗闇に大分目が慣れてきて天井らしきものがはるか上にあるしここは多分大きな部屋みたいな空間だろう。


 じゃあ何故僕はこんな場所に…っと再び考えると


 「……あっ!そうか。」


 頭が冴えてきたのかフラッシュバックの様に僕はこれまでの記憶を思い出す。

 

僕らはここ一週間ほどこの迷宮区に出入りして実戦訓練を積んでいた。


 初めは木剣を持って訓練をしただけの現代の高校2年生が魔物とまともに戦えるはずも無く、周りに多く護衛の騎士たちが見ている中で一匹の魔物を大勢でリンチにしてとどめを刺す。という感じから始まった。


 それでも当然生き物を殺す事に嫌悪感を抱くものが多かったけど、クラス全員一度は魔物を倒すようにと騎士団長は僕らに言い出来なければ終わらないし迷宮区を出る事はも許さなかった。


 逃げ道のない僕らは仕方なしに一人一匹づつ魔物を倒す事になり、顔色を青くしたり泣きながら行う者もいた。そのことでクラスの雰囲気が暗くなりかけたがあの神之木 勇翔さんが周りを鼓舞して、泣いている女子を支えていたりしたおかげでそこまで暗くなずに済んだ。僕もその彼が鼓舞している中そっと一匹魔物を倒していた。


 全員が魔物を倒し終わると次は本格的な戦闘訓練をする為に6人ほどで1グループに別けられ、それぞれに護衛兼指導役として騎士が2名付いて迷宮区を探索する事になり、僕も適当なグループに割り振られたのだけど当然、何の役にも立たない僕に対して他のグループメンバーは露骨に嫌そうな態度だったが周りの他のグループはどんどん迷宮区の奥に進んで行くし、僕らのグループに付いた騎士も「おい!さっさと行くぞ!」とせついて来るので僕の事を不満に思いながらも仕方なく迷宮区の奥に行くのだった。


そんな感じで一週間ぐらいだろうか迷宮区に潜り続け戦闘訓練を続けて全グループが中層まで潜れるようになった頃で「本日で迷宮区での訓練を終えて城へと帰還する。」そう騎士団長は僕らに伝え、さらに本日中に各グループで迷宮区の中層まで行き帰ってくる事で今回の訓練の締めとすると課題を出した。


 しかも早く帰れた分だけこの街を見て回っても良いと褒美をつけて。今までは必要以上に外部との接触させなかった彼らがどういう心変わりなのか解らないけど、初めて異世界での観光らしき事が出来ると言われれば全員喜ばないはずがない。

 

 やる気を出した僕らは手早く準備して足早に迷宮区に潜った。今回は最終訓練ということで騎士の人はただの付き添いらしく一切手を出さないらしい。

 それでもこの一週間、毎日迷宮区に潜り続けたおかげか問題なく中層までたどり着く。


 「っらぁぁしゃあ、よし終わったぁ。んじゃ津賀野、後ヨロシク!」


 ゴブリンを切り倒した男子生徒はそう言うと切った剣を振り、血を飛ばしてから鞘へとしまい他の所に行ってしまう。そして僕の目の前には無残なゴブリンの死骸が転がっている。

 

 「……」

 無言で腰に差したナイフを取り出し目の前のゴブリンの死骸に突き立てお腹辺りを引き裂き、切り口を広げそこに手を突っ込んだ。

 まだ死んだばかりだからか妙に生温かい死骸の中をかき回しながら目的のモノを取り出す。

 

 それは、無色透明な石でファンタジー系によく出てくる魔石と言われているモノで魔法の触媒やいろいろ材料としてよく使われている物質だ。

手のひらサイズの魔石を取り出すと担いでいた大きめの麻袋にしまい込んだ。


 戦闘能力がない僕は戦闘に参加する事がない代わりに荷物持ち兼倒した魔物の体内にある魔石を回収する役割をしている。……と言うよりも押し付けられている。

 まぁ、戦闘が出来なのだからしょうがないけれど、倒れたばかりの死骸の気持ち悪さやにおいが最悪だし、しかも遅いと鈍間とかクズ扱いグループの邪魔者呼ばわりされるのは良い気分じゃない。

 

 でもこれで中層の探索は終わりで後は帰るだけ、今日でグループは一時的に解散で気が楽になるけどお城に戻っても良いこと無いしなぁ。なんてぼんやり考えて下を向きながらゆっくり歩いていると。


 「…オイ、はじかれ者!」

 

 鋭い声に顔を上げると睨み付けるように付き添いの騎士が僕の前に立っていた。


 「貴様は、はじかれ者のくせに私の言葉を聞いていないのか!」


 目の前で突然怒りを露にしだす騎士に困惑しながらも辺りを見るとグループのメンバーは誰も居らず、僕と目の前騎士2人だけだった。


 「あれ?ほかの人は?」

 「貴様!一度ならず二度も私を無視するとは!……まぁいい、こっちだついて来い!」


 目の前の騎士は僕に言い捨てるように言うと1人で迷宮区の細いわき道に入ってしまう。


 元来た道とは別の方進む騎士に疑問を持つけどはぐれてしまう方がまずいので急いで騎士の後を追いかける。

 

 「…よし、ここだな。」


 少しすると前にいる騎士が急に道の真ん中で足を止め、何かを確認したのちこちらに振り返り。


 「おい!荷物をそこに全て置いて前に進め!」

 「はい?」

 「口答えする気かぁ!さっさとやれ!さもなくば…」


 ジャキッと金属音ならし腰から下げた剣を鞘から引き抜くと刃を僕に向ける。

 有無を言わせない剣幕に僕は慌てて持っていた麻袋そこに置くと「腰に下げたナイフも置いていけ!」と命令され、唯一の武器であるナイフも麻袋の上に置くと剣で先に行くように促され恐る恐る両手を上げながら騎士の前に移動する。


 「ほら!さっさと進め!」


 再度、騎士は脅すように剣を僕に向け、仕方なく騎士を見ながら通路をゆっくりと後ろ向きに進む。


 「こ、こんな事していいですか!」


 剣を向けられた恐怖で声が上ずりながらも騎士に訴えかける。


 「いいんだよ!国からの命令だからな!」

 「なっ!」

 「はじかれ者は邪魔なんだよ!」

 

 騎士は剣を構えながらニヤリと笑い、じりじりと僕を通路の先に進ませる。


 「だ、だからって殺すまで行かなくても。」

 「生きているだけで目障りなんだよ!…まぁ、俺が直接お前を殺すわけじゃないだけどな。」

 「えっ?」

 「一つ教えてやるよ、迷宮区のどこかには罠が仕掛けてあってそれを踏めば……」


 ドンっと突然、騎士によって突き飛ばされ後ろに倒れ込むと僕を中心に地面が淡く輝きだして。


 「下のどこかの下層まで強制で飛ばされちまうんだとさぁ、じゃあなはじかれ者、せいぜい下層の凶悪な魔物のオモチャになるだな!」


 愉快そうに笑う騎士の姿を最後に周りの光が強く光りだし、体が何処かに飛ばされる感覚を味わいながら僕の意識はそこで途絶えた。

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