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400文字小説

猟期

作者: 船生龍之介

 血の跡は下生えの葉に点々と垂れて、深い

山林の奥まで続いていた。ライフルを肩に背

負った男はヒゲを濡らす汗を手の甲で拭きな

がら血を辿る。山は静まり返っていた。鳥の

さえずりも、虫の鳴く声もない。ただ男の荒

い息遣いと、枝を折り葉を踏みながら進む足

音だけがある。男は山の斜面に足を取られて

膝をつき、苛立ちのうめき声をあげた。

 半矢にしたことは長い猟人生で何度もある。

しかしなぜ仕留め損なったのかわからないの

は、今日が初めてだった。男はそのことにひ

どく苛立ち、混乱していた。今日の俺が昨日

の俺とどうちがうのだろう、と男は自問した。

答えは返って来ない。代わりに、膝が笑った。

 ようやく、切株の根元にうずくまった雄鹿

の姿が見えた。血を流し続け、やっと力尽き

たらしい。男はその大きな三つ又角に手を添

え、静かに撫でて悟った。「よくもここまで、

遠くへ来たもんだ」既に日が暮れかかり、夕

闇が男と鹿を覆い始めていた。

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