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動物好きから人間好きへ

「久保田タク(仮名)ちゃん、診察室にお入りくださ~い」

今日子は診察室と待合室を隔てるドアを開け、元気に患者を呼んだ。

「は~い、先生こんにちは」

久保田タクと呼ばれた黒いラブラドールレトリバーとその飼い主の女性が、診察室に入ってきた。

「こんにちは、お待たせしました。じゃあ、今日も体重から測りますね」

今日子は40kg近いタクの身体を軽々と持ち上げ、体重計にもなっている診察台の上に乗せた。

久保田タクは、初診から今日子が診ている患者である。

口腔内メラノーマという悪性度の高い腫瘍…つまりガンであった。

健康診断で発見し、即手術、抗がん剤治療となった。

それでも口腔内メラノーマの場合、すぐに再発して死亡する例が多く、院長も余命半年の見立てだった。

ところが、タクは頑張っている。

すでに腫瘍が発見されてから、2年が経過しようとしているが、未だに再発もなく、元気に過ごしているのである。

現在は、定期検診のみなのだが、タクの飼い主は必ず今日子を指名する。

今日子に早期発見してもらったという思いが強いのだ。

ただ、今まで再発を免れてきたのは、手術を担当した獣医師の腕と、抗がん剤等の治療をアドバイスした院長のサポートと、さらに幸運が重なっての事なのだが。

「はい、タクちゃん今日も元気そうだね。おうちでの様子はいかがですか?食欲不振や下痢はありませんか?」

今日子は順番に問診していく。

問診は、まず飼い主ではなく、患者である動物に話しかける事から始める。

巷で動物に話しかけていたら、変人扱いされてしまうが、ここ(動物病院)でなら、‘優しい獣医さん’で通ってしまう。

不思議なものだ。

動物に話しかけて、自分も飼い主も一呼吸おき、緊張をほぐしてから診察に入るのが、今日子のやり方だった。

今日子は問診に続き、聴診、視診、触診をしていく。

特に口腔内の視診と触診、耳下腺リンパ節の触診は丁寧に行う。

「はい、異常ありません。次は胸のレントゲンを撮りましょうね」

レントゲンは肺転移の有無を確認するためである。

幸い今回の検診でも、転移再発は認められなかった。

「よかった~!もう検診の度にドキドキしちゃうんですよ」

「そうですよね。でも、今回も異常なくてよかったです」

タクは飼い主の女性に連れられて、帰っていった。


今日子は今、バイトの扱いで雇われている。

睡眠時間の維持がどうしても不可欠な今日子は、夜勤を免除してもらうかわりに、正社員の待遇ではなく、給料面でも他の獣医師とかなり差をつけられている。

でも、それは本人も納得済みだ。

そんな事より、獣医師として働けることが嬉しいのだ。


今日子はもともと動物好きであったが、人間嫌いの気があった。

しかし、動物を通じて、人間とふれあう事で、対人関係も変わっていった。

時には、理不尽な怒りをぶつけられる事もあったが、人と接することの喜びも知っていった。


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