表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

仕事を続けるべきか?

結婚の準備が大詰めを迎え、今日子は悩んでいた。


それは、仕事を続けるか否かである。


今日子は獣医を続けたいと思っていた。

貴司もそれは応援すると言っていた。


だが、貴司はこうも言っていた。

「今日子が望むなら、専業主婦でも構わないよ。」

と。


子供までは考えていない今日子と貴司であったが、2つ以上の事を同時進行するのが難しい今日子にとって家庭と仕事の両立は、他の既婚者と同様に、否、もしかするとそれ以上に、困難な道程である。


今日子の信頼する担当のカウンセラーが、結婚に関して今日子に出したアドバイスは、たった1つであった。


「全力疾走できると思わないで。常に6~7割の力で動くように。」


今日子の職場である動物病院は、慢性的な人出不足に陥っていた。

特に獣医師が足りない。

もっと言うなら、夜勤が出来る人材がいない。


実は動物病院というものは、夜間急患対応を行うと割に合わない。

人件費等の経費の方が、診療報酬を圧倒的に上回ってしまうのだ。


それだけではない。

夜勤を嫌がる獣医師は多い。

同じ給料なら、否、給料は低くても、夜勤のない病院に流れていく。


実際、今日子の勤める動物病院のある自治体では、夜間急患対応をやめる動物病院が増え、夜間に急患を受け入れている動物病院の負担が増すという悪循環に陥っていた。


それでも、院長が夜間急患診療にこだわったのは、「夜中に急に具合の悪くなった子を、何もできずに朝まで見守る飼い主」の辛さを思えばこそであった。

そんな院長の理念に付いて行こうとしているのが、この病院のスタッフである。


だが、その激務はブラック企業と呼ばれても、反論はできない。


患者のため、飼い主のため。

しかし、獣医師やAHTも人間である。

スタッフは皆、限界ギリギリのところで歯を食いしばっていた。


そんな中、今日子は夜勤を免除されていた。

更に、夜遅くなる事は多かったが、出勤は午後からで、パートタイムでの勤務であった。


勿論、正社員で夜勤もこなしている獣医師と比べれば、給料面で大きな差がある。

だが、給料は低くても、休みが欲しいという者も多いのが、この業界である。


今日子は自問自答していた。

自分がこの職場にいる意味である。


実は、今日子の他にもう1人、夜勤を免除されたパートタイマーの獣医師はいる。

彼女は幼い子供を抱えるママさん獣医師だ。

彼女は午前のみの勤務で、今日子と入れ替わるように午後に退勤する。


しかし、彼女には今日子にはない専門技術があった。

短時間でも、充分に職場に貢献しているように、今日子には思えた。


この頃の今日子の状態は安定しており、職場ではパニックになる事も減ってはいたが、皆無ではない。

急に調子を崩して休む事もある。

その度に、どれだけ職場に迷惑をかけているか?


掃除機の音、幼い子供の声。

今日子が過敏に反応する音を避けるため、他のスタッフがどれ程、気を遣ってくれているか?


他のスタッフが、全力で頑張る中、自分が6~7割の力で働く事にも、大きな罪悪感を抱いた。


今日子は悩み抜いた末、院長に相談した。

自分のような人間が、このままこの職場にいても良いのか?


それに対して、院長の答えは明快だった。


「夜勤ができないのなら、夜勤に入った先生の昼間の負担を減らしてあげて。できない事があるのなら、できる事を頑張って。迷惑をかけていると思うなら、他の誰かのフォローをしてあげて。」


また、今日子はこうも言われた。


「貴方にとって、この職場は居心地良い所かしら?もしそうだとしたら、皆、貴方を受け入れているのよ。」


今日子にとって、この職場は居心地の良い場所だった。

スタッフは、皆、今日子に優しい。

でなければ、卒後5年で6回も職を変えた今日子が、5年間も同じ職場に居ついたりしない。


「私は受け入れられているのかもしれない。」


そう思った今日子は、結婚後も仕事を続けると心に決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ