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自分自身を客観視する中で

今日子に広汎性発達障害の診断が下ったのは、社会に出て5年、30歳の頃だった。


診断が下ってからの今日子は、意識して己を客観視するようになった。

自分の事をもう一人の自分に観察させていると言えば、良いだろうか。


お気付きかもしれないが、この物語の主人公‘今日子’のモデルは、筆者自身である。

筆者が観察し続けた‘自分自身’が‘今日子’なのである。


自分は何が苦手で、何が得意なのか。

自分には何が出来なくて、何が出来るのか。

そして、自分は他人から見ると、どう見えるのか。


そうして、自分自身を観察していく中で、変わっていったものがいくつかある。

そのひとつが、文字だ。


今日子はひどいクセ字であった。

発達障害であるが故にクセ字であったのか、それともそれがもともとの今日子のパーソナリティーであったのかは、わからない。

だが、筆者の主観ではあるが、発達障害を持つ者に、クセ字のひどい人間は多いように感じる。


高校時代、本人以外ほとんど読めない今日子の文字を矯正させようと、両親がペン習字の通信講座をやらせた事がある。

しかし、今日子は手本通りに文字を書く事に苦痛を感じてしまった。

自分の書きたいように書けないからだ。

手本を真似て書くと、自分の文字が自分の文字に思えず、違和感しかなかった。

その結果、今日子のクセ字は更に悪化したのである。


これは、発達障害の診断が下る前の話だ。


診断が下り、己を客観視するようになって、今日子は初めて気付いた。

自分の文字は、自分以外の人間には、ほとんど読めない事に。

そして、他人に読めない文字を書く事が、自分の不利益に繋がる事に。


そうして、今度は自分の意志で、高校時代には何の役にも立たなかった通信講座のペン習字に再挑戦してみたのである。


そうすると、今日子の文字はみるみるキレイになった。


文字というものは、他人に読んでもらうためにある。

ただ、その事に気付くか気付かないかの差だった。


それに気付いた上で、練習を重ねれば、字はキレイになる。


そうして、今日子の「社会生活のしにくさ」が、またひとつ解消されたのである。

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