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偽典ハムレット(二次創作ラノベ)  作者: 月山青雲
前編 絶望のハムレット
1/28

砂浜

<登場人物>

 ハムレット:デンマーク国の王子。

 ガートルード:デンマーク王妃。ハムレットの母。

 クローディアス:デンマーク新国王。ハムレット叔父。

 先王:デンマークの前国王。故人。ハムレットの父。

 ポローニアス:デンマークの新宰相。

 レアティーズ:ポローニアスの息子。

 オフィーリア:ポローニアスの娘。

 カール:オフィーリアの従者。

 ホレイショウ:宰相府、主計課の役人。

 フォーティンブラス:ノルウェーの王子。

 グスタフ公:スウェーデンの王族。

 エリック:スウェーデンの王族、グスタフ公の息子。


 晩秋の夜。エーレ海峡から吹いてくる潮風は冷たい。砂浜を吹き渡る寒風が、笛の音のように響いてくる。


 デンマーク王都、ヘルシンゲルの東端、クロンボー城の脇に広がる海浜にハムレットは立っていた。

 青白い月光が波間に揺れている。


 ふと王子が夜空を見上げると、星々の間を一筋の流星が落ちていった。刹那、ハムレットの胸中に寂寥が広がった。国王の訃報……父の死を聞き、留学先の英国から一四〇〇キロの海路を経て、母国デンマークに帰ってきた。

 父は、暗殺されたのだ。多くの政敵を抱えていたがゆえに。


 ハムレットは眼前に広がるエーレ海峡の海原を見つめた。


 暗殺の首謀者は何者だろうか? やはり叔父のクローディアスであろう。

 先王の死後、未亡人となった母、ガートルート王妃と結婚し、新王として戴冠し、玉座に就いた。そればかりか、自身の腹心であった侍従長のポローニアスも、今や宰相にまで成り上がったのだ。異例の出世である。

 叔父がポローニアスと結託し、先王を殺し、王位を簒奪した。そう考えて間違いないだろう。

 庭園で昼寝をしていたところを毒蛇に噛まれた、などと宮廷侍医は言っていたが、父はそのような愚鈍の輩ではない。遺体を見ていないので確証は無いが、おそらく手練の刺客が、毒針でも用いて殺したのであろう。


 ハムレットは眼を閉じた。

 潮騒……海水が砂浜を滑り、染み込んでゆく音、泡沫が弾ける音が聞こえる。その音に混じって、何者かが砂を踏みしめる音が聞こえてきた。足音と殺気が近付いてくる。


 父は謀殺された。次は俺の番ということか。


 王子は豁然と眼を開き、佩剣の柄に手を掛け、抜剣した。

 刃風が鋭く鳴った。何かを斬り裂く音。

 波濤。飛沫が上がった。

 眼前に、黒塗りの剣を持った黒装束の刺客が四人。そのうちの一人が、呻き声を上げて砂浜に倒れ込んだ。


 ハムレットは残りの三人を睨み、構えた。下段。切先は、地に着きそうなほど低い。月光を受けた刃が光る。

 留学先の英国を離れる際、貿易商から譲り受けた剣だった。東の果てにある島国で打たれたものだ。片刃、僅かな剃り、刀身に浮かぶ波のような紋様。独特の形状をしているが、王子は気に入っていた。柄には、絹糸が丹念 に巻かれており、手に良く馴染む。


 月に、雲が掛かった。光が翳り、闇が濃くなってゆく。

 二人が王子に切り掛かった。刹那、闇の中に閃光が走った。

 雲が流れ、再び月光が砂浜を照らした時、二人の刺客はゆっくりと砂の中に倒れ込んでいった。


 残りの一人……小柄で細身の刺客だった。やはり黒装束を纏い、フード付きの外套を被っている。顔は分からない。一言も発せず、炎のような眼光でハムレットを睨んでいる。

 刺客は殺気立ち、黒塗りの剣を上段に構えた。

 他の三人よりも、動きに隙がない。じりじりと間合いを詰めてくる。かなりの遣い手だろう、とハムレットは思った。

 王子は地摺りに構えていた剣を上げ、青眼に構えた。

 風が強まる。波が岩に当たり、砕け、飛沫く。両者の間合いが徐々に詰まる。


 ふと、遠くのほうで、いくつかの光が揺曳しながら近付いてくるのを王子は捉えた。村人だった。松明を持った村人たちが、こちらに近付いて来るのだ。刺客もそれを察知したのか、剣を納めると、素早く身を翻し、風のように去っていった。


 ハムレットは追わなかった。誰が放った刺客なのかは、十分に分かっている。捕縛や尋問の必要はなかった。

 切先を鞘の鯉口に当て、白刃を静かに納めてゆく。光は鞘に吸い込まれ、そして消えた。


 晩秋の潮風が、笛の音のように響いていた。

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※史実(当時の北欧史)とは異なる記述があります。

※厳密な歴史考証、時代考証などはしておりません。

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