働きたくない…
一番困るのは、末娘の我が儘お嬢様である。
こんなのが、嫁げるの?
そう思わずには居られない
私の指導係であったエルダも寿退職し、メイド長も妊娠を機にメイド長をアリアに指名
アリアが完璧に仕事をこなせるようになると、にこやかに辞めていった。
問題はここからである…
この屋敷内の誰もが、お嬢様の我が儘っぷりを知っていた。
入ったばかりのお嬢さん方は、泣きながら辞めていくのだ…
結局はエルダの補佐でついていた私が一人でこなすしか無くなった。
お嬢様は我が儘だが、適当にヨイショしとけばチョロかった。
そんなお嬢様が私と同じように、かつて平和な日本に生まれていたと知ったのはごく最近の事…
そもそもこの世界がゲームの世界観に似てる…ではなくゲームの世界なのだ。
ジャンルは魔法学園での恋愛ものだ。
攻略対象が10数名だ…
確か王子だけで3人は確実に居た。
この国の双子と、同盟を結んでる隣国の王子が留学してきているのだ。
後は若く優秀な教授2人、爵位持ちや騎士、商人の息子だ。
あるイベントを起こさないと、攻略出来ない隠しキャラも居たのよね
そう言えば、ライバルも居たのだ…
ライバルで印象深いのが、侯爵令嬢アイリスと、その友人伯爵令嬢メアリー
アイリスの弟シリウスが攻略対象で、姉弟はブラコンでシスコンだった…
メアリーがどの相手に対するライバルか、解らないのよね
アイリスは双子王子の兄とシリウスルートで関わるけどさ
でも伯爵令嬢がこんなで、アイリス嬢もライバルらしく無いかも知れないな…
そんな風に思ったことも有りました。
入学…それすなわち、入寮である。
魔法学園は全寮制ですか?そうですか…
哀れむぐらいなら、誰か代わってくれないか?
「頑張って下さいアイルーさん」
頑張りたくねぇよ
校則に、『女子はメイド、男子は執事を連れても構わない』とあるが、これ王族および貴族の我が儘通っちゃった系の規則だよね?
ドナドナ気分で、魔法学園に向かった。
授業の際、お供は別室待機が常だ。
外で実技の際は、少し後ろに下がって…まるで授業参観である。
趣味になりつつある裁縫を黙々と進める。
隣のメイドは刺繍をし、その隣では執事が取れたボタンを縫い付けていた。
静かすぎて気まずい…
ちょっと音のずれたチャイムを聞き、お嬢様を迎えに行く。
今日の授業は、これで終了だ。
「きゃあぁぁ」
実験室から、絹を裂くような悲鳴がした。
一人の男子が、女子…もというちのバカ令嬢を羽交い締めにして抑え、一人の女子・メアリーが倒れた女子を庇う。
周囲の女子は巻き込まれたくないのか目を…顔を背けていたし、男子の数名はニヤニヤとイヤらしく倒れた女子を見詰めている
「ちょっと、上着貸して」
先程、ボタン付けしていた執事に言えば、すぐさま脱いで貸してくれた。
メアリーが庇う相手と予想だててはいたが、アイリス嬢とは…
どこまでバカなんだ
借りた上着をアイリス嬢にかけ、役に立たない生徒らに指示を飛ばす
なんなのこいつら、皆して指示待ち世代なの?
メアリーに医務室まで案内してもらおうと、アイリス嬢を抱き上げた
「アイルー、何をしているの?あなたは私の―」
「私は貴女が此処まで愚かだと、認識しておりませんでした」
医務室に付いてきたのはアイリスのメイドと、上着を借りた執事と、その坊っちゃんだ。
傷を治し、メアリーが教室から持ってきた服に着替えさせた。
「…盛大にやられたな」
「そうですわね…」
どうだっていいが、アイリス嬢のメイドの友好度はマイナスだろう。
目が『あんたら伯爵家のせいで、うちのお嬢様が…』って訴えてるもん
夜道には気を付けよ…
「どう、大丈夫?」
「大丈夫よ、メアリー」
「しっかし、驚いたよ」
バタバタと廊下を走る足音が聞こえる。
「二人とも、教室に戻れ
アイリスはここで話を聞くから、しばらく待機しててくれ」
駆け込んできた緋色
「じゃあ、僕達は教室に行くよ…ウィル」
その言葉にちょっと反応しかけた。
執事がウィルなら、主は隣国の王子…ランディだ。
事が事とはいえ、王族の側近の上着を平然と奪って何か…スマヌ
内心、恐々していた…が表情だけでは解りにくい位には隠せているだろう