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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第二章 教会の真実
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回りだす運命の歯車


 ハルカとジョッシュ。2人が旅立って行ったあと、彼は部屋で部下の報告を聞いていた。



「……手はず通り、2人は国境を抜けて『合衆国』へ向かっているようです。」


「ふ~ん、まぁ予想通りだねぇ。……で?君の人形の方はどうなの?ちゃんと働いてるのかなぁ?」


「無論です。私の人形は『指示された事を完璧にこなすことができる』作りです。」


「そっかぁ……取り敢えず一安心かねぇ。よくやってくれたね~。……こっちへおいで?ご褒美を上げよう♪」


「私は、そんなつもりでは……。」


 そんな部下をお構いなしに、彼は部下を引き寄せて抱き寄せた。

 部下はなされるがまま、彼の胸の中で目を瞑ってもたれ掛かった。

 彼はそんな部下を愛でるように、頭を優しく撫でた。


「……よくやってくれたね、ボクだけのファン。」




------------------------------------------------------------




 2人が旅立って一週間程経った。

 相変わらず私の方でも元孤児院組を探しているけど、さっぱりと消息を掴めない。死んでいるのかもしれないとも思ったが、死んでいるとしても死亡した通知が出回っていないのもおかしな話だ。私たちは確かに不思議な力を持っているかもしれないが、戸籍のあるれっきとした人間なのだから。

 だからというわけではないが、死んでいるという可能性は除外して探していた。

 今日も何も無しか。そう思いながらも、どこか期待していない…それが当たり前の結果だと思い始めている自分がいた。それに、ジョッシュさんとハルカさんが探してくれているということで、どこかで安心している自分もまたいた。



「(……馬鹿。探す手は多い方が良いに決まってるのに)。」



 だが、と思う。もはや探し始めてかなりの月日が過ぎていた。個々人で探すのならば見つからないのも頷けるが、ジレェ卿の力を使った「組織」単位で探しているのだ。もう見つかっても良いと思うのも確かな話だった。


「セリア、有力情報よ!」


 そんな中、リタが珍しく慌てた感じで私のもとに来た。


「リタ。見つかったの?」


「どうしたのよ、全然乗り気じゃないのね?…………また悪い癖が出た?」


 リタの言う悪い癖。それは、私がややネガティブな考えに陥ること。リタが言うには、それは私が真面目すぎるからだと言うのだが。


「だって、全然見つからないし……あ、それで有力情報っていうのは?」


「そうそう。あのね、最近東の街道で緑の髪の毛をした双子の少年の目撃情報があったの!」


「!!、それって!?」


 緑の髪の毛。それは、孤児院の時によくリタと4人で一緒に遊んでいた双子…クリスとアポロの特徴だった。

 私は、今までのネガティブな思考のスパイラルから一気に抜け出した。


「目撃されたのはつい先日よ。まだ近くにいるかもしれないわ。」


 そう言って、リタは地図を取り出す。


「『王国』側から『合衆国』へ向かっていったそうだから、移動時間を考えて…………この辺りね。」


 『王国』から『合衆国』。つまり、魔族の国側から人間の国側へ向かったことになる。リタが指差した辺りは、ちょうど王国でも合衆国でもない中間部分に位置する自治区のエリアにある街だった。


「行ってみましょう!」


 私たちは急いで準備をして、ジレェ卿の手配してくれた車に乗り出発した。




------------------------------------------------------------




 車に揺られること3時間。私たちは目的の街に着いた。


「着いたわね。ジレェ卿が予め派遣してくれた調査員と合流しましょう。」


 リタの言葉に従い、私たちは手分けして探すことにした。リタとは離れても、ジレェ卿の持たせてくれた携帯通信機により連絡を取ることができる。

 私は、リタと反対方向に向かって探し始めた。




------------------------------------------------------------




 私はセリアに予め派遣されている調査員と合流する旨を伝え、それとなく私と反対方向へ探しに行くように仕向けた。多分、調査員なんて見つからないだろう。

 何故なら、それは私の吐いた嘘だからだ。


 移動中の車の中で、私は着いてからの行動を打合せするという名目で、セリアに嘘を吹き込んだ。セリアは私を信用してくれている。だから、私に関することで危険なことでもない限り、「予知」で確かめたりしないだろう。

 信用を逆手にとって騙すようなことをして心が痛む。本当なら、そもそもこの街に一人で来るという選択肢もあったが、あの子が必死になって探している情報なのだ。教えてやりたいという気持ちが勝ってしまった。


 実のところ、双子の目撃情報は東の街道ですらない。この街なのだ。そして居場所までも突き止めているのだ。


 私は知っている。かつて私が辿った歴史においても、この街にセリアと仲間を探しに来たのだ。その時、確かに孤児院の懐かしいあの2人に再会しているのだ。

 だが、それは待ち望んでいた再開とは程遠いものだった。

 あの時、私とセリアは…………。



「……ここね。」


 私は彼らの居場所に辿り着いた。それは街外れの古い家。忘れもしない、あの時もここで再会した。

 そして、そこから私たちの運命は地獄へ落ち始めるのだ。二度も同じ轍を踏んでたまるか。

 決意と覚悟を胸に、私は目の前の扉を開けた。







「………………久しぶりね。クリス、アポロ……。」


「やあ、本当に久しぶりだね。5、6年ぶりくらいかな?」

「…………。」


 そこには、茶色いフード付きマントを被った「双子」がいた。

 クリスは不気味なくらい笑って返事をする。アポロはこちらを向いてはいるが、目は虚ろで何も返事をしない。

 

 あの時と同じ。

 私はどこかで期待していた。昔のように、ちょっと理屈っぽい感じのクリスとぶっきらぼうなアポロ。それでも私たちにすごく優しく温かく接してくれた双子。その頃と同じような2人に再会できることを。



 どうやら、それは無理なようだ。




「あれれ?セリアはどうしたの?一緒じゃないのかい?」


「生憎だけど、セリアは今ここにはいないわ。……知ってるわよ?セリアを連れて帰るつもりなんでしょ?」


 時間も限られているし、話を早く進めたい。私はそう思い、核心を述べた。

 その瞬間、クリスの態度が変わる。ニコニコしていた顔から、目を見開きぎょろりとこちらを睨み付け、


「……何故お前が知っている?この作戦はお前たちには知らされていない筈だが?」


「あんたが知ってる情報が全てじゃないのよ。私にもね、伝手くらいあるのよ。」




「……ふん、まぁいい。お前に用はない。何の力もない、出来損ないめ!!」



 その瞬間、マントの奥から何かが私に向かって飛び出してきた。

 私はそれを、体を横に捻って躱し、同時に腰のホルスターから銃を抜きクリスへ発射していた。



 魔族の持つ「魔術」と人間の科学の真髄である「魔法」。この2つの技術を集めて作られた「魔砲」と呼ばれる銃は、小型軽量であり、発射時の反動もない。それに、持ち手のチャクラを弾丸に換えて発射するため、弾切れという概念がない。

 私は、「この日」以降待っているであろう戦いの日々に備えて、ジョッシュ兄さんから銃の扱いと体捌きを習っていた。

 過去の私は、「能力」も「戦う力」も持っていなかった。でも、今は違う。



 初撃は「経験済み」だ。だから、躱しながら攻撃を加えた。狙い、タイミング共にベスト。私が放った弾丸は、正確にクリスの心臓部分を貫く……はずだった。







 だがそれは、いつの間にかマントを脱ぎ捨て射線上に出ていたアポロに簡単に弾かれてしまう。


「ふぅーん、アポロを動かすなんて。中々やるね。なら僕も、本気でやろうかな?」


 そう言うと、マントの下からミミズのような触手が4本出てきた。


「(あれがあったからクリスはマントを取らなかった?あれがクリスの能力で、アポロの能力は『硬化』ってところかしら?)」


 私は頭の中でおおよその推測を立て、そこから相手の戦い方を予測する。多分、私は絶対に勝てる保証はないが、「負け」はしないだろう。


「2対1だと思って油断してると、後悔するわよ?」


 私はもう一丁ある魔砲を抜き、二丁拳銃をそれぞれ一丁ずつ各々に向ける。


 私がそれぞれに連続して発射するのと、4本の触手とアポロが同時に襲いかかって来るのは、ほぼ同時だった。

 元「家族」同士の、血も涙もない戦いが始まった。




------------------------------------------------------------




「っ…………!」



 不意にヴィジョンが見えた。

 これはリタ…………それに、クリスとアポロ?

 どうなってるの、何で、リタとクリス達が戦ってるの!?

 リタ……危ないっ!!



「(どこ?どこにリタは行ったの!?)」


 早くリタのもとに駆けつけなければ。

 私は来た道を急いで引き返し、リタの向かった方向へ走り出していた。




------------------------------------------------------------




 触手が正面から風を切って襲いかかってくる。

 真正面から来たそれを、私は右手に持った魔砲を1発放ち軌道を逸らせる。


 正面に向けて撃ったばかりの右側から私の心臓めがけてもう一本触手が飛んでくるが、私はそれを体を触手の軌道からずらす事で回避し、そのまま左下から迫ってきていた触手に、今度は左手の魔砲を3発お見舞いし弾き飛ばす。そのまま先ほど躱した触手を、今度は右手の魔砲の射出口から刃を形成させ、切りつけた。触手から鮮血が飛び散り、切りつけられた触手は下がっていく。

 弾丸は弾かれるが刃は通じるようだ。

 そう思ったのも束の間、私は殺気を感じて咄嗟にジャンプし下から足元を狙っていた触手を躱す。

 だが、それは誤った判断だった。


「(しまった!)」


 肉薄していたアポロの拳がまだ宙に浮いている状態の私に容赦なく向かってくる。私は空中で咄嗟に両手の魔砲の刃を出して、それを交差させて拳を防いだ。


「ぐ……っ…………!」


 直撃こそ防いだが、私の体は後方に大きく吹き飛ばされ、背中を強かに打ち付けた。

 口の中に広がる鉄の味。それを外に吐き出し、呼吸を必死に整える。


「(痛…………ヤバい、直ぐに立ち上がらないと……。)」


 アポロは勢いよく拳を直接刃に打ち付けたにも関らず、その拳にはうっすらとしか傷がついていなかった。

 しかも、凄まじい速さで再生していく。


「嘘……能力者だからって、身体能力まで特別なわけ…………。」


 私は起き上がりながら、目の当たりにした出来事を見て思わず呟くと、クリスが答えた。


「リタ、君の言うことは最もだけど。もしかして何か勘違いしてないかな?まさか僕らの能力が『触手』と『硬化』だなんて思ってるわけじゃないよね?」


「えっ……!?」


「アッハハ、隙だらけだよー!!」


 触手を今度は不規則な軌道で私めがけて飛ばすクリス。先ほど切りつけた触手もすっかり再生しているようだ。

 私はまだ痛む体を必死に動かし、4本の触手が私の体に近づいて来たタイミングを見計らい、横に飛んで避けた。

 受身など考えていなかったので、地面にヘッドスライディングするように体を打ち付けてしまう。触手はそのまま誰もいなくなった空間を通り、壁を貫いた。


 飛んで行った先には、先ほど私を吹き飛ばした膂力を持つ男が待ち構えていた。

 地面に伏せている私に向かって、無慈悲に拳が振り下ろされる。


 その様子を、私は驚く程冷静に眺めていた。

 どの道この態勢からでは反撃どころか回避も無理だろう。

 


 だから、



 私はゆっくりと目を閉じ、







 「力」を発動させた。




------------------------------------------------------------




「!?、馬鹿な!?」


 クリスの驚く声。それもそうよね。


 さっきまで伏せていた地面には、『何もない床』を拳を埋没させながら破壊しているアポロと、


 さっき触手で貫いた壁を背に立っている私がいるんだから。



「貴様……何をした?」


「手品よ。…………隙だらけね!!」


 呆気に取られているクリスに向かって、私は両手の銃を連射して放った。


「グッ……。」


 クリス自身には銃は有効のようだ。何発か弾を食らい血を流している。残念ながら急所は外れているらしく、出血量は対したものではない。


「…………!!、………、………!!。」


 アポロも床にめり込んだ拳が抜けないらしく、クリスの援護に回れないようだ。



「悪いけど、このまま勝負つけさせてもらうわよ!!」


 私は更にクリスに向かって連射を続けた。触手でガードしようとしているが、到底全て捌ききれるものではない。何せ狙いは急所。おまけに連射しながら少しずつ色んな箇所に撃っている。これでは正確な防御など不可能なはずだ。

 必死にクリスは防御を続けるが、私は攻撃の手を緩めない。その甲斐あってか、一、二箇所ずつであるが少しずつ傷を増やし、出血も増えていく。そしてそれが増えるたび触手の動きも鈍っていった。


「(いける!このまま続ければ勝てる!!)」


 私はもっと勢いを増してクリスへの攻撃に拍車を掛ける。




「く……おのれぇ…………だが、無駄、だ、ぞ…………。」


 そう言いながら、クリスは倒れた。触手も動かなくなり、そのまま床にへばって動かなくなった。

 恐らく、死んでしまったのだろう。見ると、目を開いたまま生気を失ったように倒れている。


 それだけ確認すると、私は今度はアポロに向き直り、両手の魔砲を刃を生やして突きつけた。


「後はあんただけね、アポロ?セリアを救うために、あんたにも死んでもらうわよ。」


 私はアポロに向かい刃を振り上げ、切りつけるために走り寄った。

 もう少しで間合い。そう思った時、私に対して話しかける者がいた。


「待てよ、リタ。」





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