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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第一章 動き出す運命
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別離、見えぬ明日

「2人とも!私たちを捕まえに来る人たちがこっちに向かってるわ!!」


 私が慌ててそう言った瞬間、ガチャリという音が聞こえた気がした。今の音は、教会の裏手の勝手口のカギが開いた音に似ている。


「ハルカ姉さん、シスターたちはカギを持って行った?」


「いいえ、持って行ってないわ。外泊するつもりはないと言っていたから、カギは私が預かってる。」


 リタとハルカ姉さんの会話を聞きながら、私は冷や汗が背中を流れ落ちるのを感じた。

 私の予知が間に合わなかった。そう思った私は、少しずつ近づいてくる足音に身動き一つ取れなくなっていた。夢で感じた恐怖はこれだった。

それは2人も同じだったらしく、息を殺して、じっと食堂の入り口を見つめている。


コツ、コツ、コツ…………。


 やや不規則に聞こえる音は、足音が複数あることを…来訪者が2人以上いることを示していた。もう駄目だ。ここで捕まってしまうんだ。未来を変えることはできなかったんだ。

 そう諦めかけていた時、食堂の入り口に人影が見えた。





 だが、以外にもそれは、


「久しぶりだな、3人とも。」

「本当。私はもっと久しぶり。しばらくぶりね。」


 ジョッシュ兄さんとファン姉さんだった。



------------------------------------------------------------



「ジョッシュ。それにファンまで。久しぶりだけど……2人揃っていったいどうしたのよ?」


「ああ、ハルカさん。本当はここで色々積もる話をしたいんだが、急いでここを出よう。今からならまだ間に合うから、ここを離れる準備をしてくれ。荷物はなるべく少なめに、必要なものだけにしてくれよ。」



------------------------------------------------------------



 それから私たちは、教会を脱出した。道中、ジョッシュ兄さんとファン姉さんの話を聞きながら移動した。

 2人の話によると、私たちはこの世界を支配している二つの種族である『人間』と『魔族』の両方に狙われていて、そのどちらに捕まっても悪い結末が待っているそうだ。

 

 15歳になって孤児院を出る資格を得たファン姉さんが最初にこの事実に気がつき、次に孤児院を出ることになるであろうジョッシュ兄さんと連絡を密かに取り合っていて、孤児院を出たジョッシュ兄さんと手分けして孤児院を調査した結果、孤児院を運営している人間側の代表たち『女神の朋友』から貴族の使者が超能力者獲得のために動き出したという事を突き止めたらしい。


「私がこの事実を知ったときは本当に驚いたわ。私も不思議な力を使えたけど、実は孤児院にいたみんなが不思議な力を持っていたなんて。」


 そういうのはファン姉さんだ。黒髪に黒い瞳に褐色の肌をしていて、キリッとした顔立ちにさっぱりした性格。モデルみたいな細身だけど気が強くて優しい。

私は、そんなファン姉さんがハルカ姉さんと同じくらい好きだった。ハルカ姉さんがお姉ちゃんみたいな感じだとすると、ファン姉さんは姉御って感じがする。


「俺もファンさんから話を聞いて最初は戸惑ったけど、講堂の通信教育用の端末から色々情報収集してたら、孤児院の話がちらほら出てきてな。信じるしかないって思ったよ。」


 そう言うと、ジョッシュ兄さんは話を続けた。

 今回2人が孤児院に来たのは、みんなを孤児院から逃がすためだった。理由は、『女神の朋友』たちに超能力者たちの力が渡ることを恐れた魔族の武闘派達が、私たちを抹殺するために軍を動かしたという情報があったから。


「私たちが持つ特別な力はね、『自然発生』したもので、特異な力をもって生まれる事が多い魔族たちでさえ獲得していない力なんだってさ。だから、あんた達が狙われたって訳なのよ。」


 事情は大体わかった。私たちが何故こんな目にあっているのかも、理由はわかった。でも、ファン姉さんはおかしな事を言っている。「あんた達」ってことは、ファン姉さんとジョッシュ兄さんは含まれないってことになる。


「ファン姉さん達も狙われてるんじゃないの?」


「私たちは多分狙われてないわ。戸籍上、死んでる扱いだからね。」


「え?何で…………あっ!?」


「気がついたみたいね。多分、セリアの考えてる通りだよ。」


 私が思いついたこと。それを説明するために、少しだけ時間を遡らなければならない。



------------------------------------------------------------



「荷物はなるべく少なめにしてくれよ。」


 ジョッシュ兄さんがそう言った時だった。

ファン姉さんが意味深に話しかけた。


「待って。その前に、やることがあるでしょ?」


「……ああ、そうだったな。身代わりを残さないとな。」


「そういう事。」


 私たち3人は、2人の会話に完全に置いてけぼりにされている。

 そんな私たちを見て、ファン姉さんはニヤニヤしながら、


「まぁ見てなさい。3人とも、私に触れてくれる?」


 言われるがまま、私たち3人はファン姉さんの手や肩に触れる。

 触れられているファン姉さんは、何もない空間を凝視したままだ。


 そのまま沈黙した時間が数秒ほど続いただろうか。不意に、ファン姉さんの見つめている場所に、人の姿のような半透明のうっすらとしたものが浮かび上がり始めた。

 そしてそれは、見る見る内に、見慣れたものへと徐々に存在を色濃くしていく。

 完全に姿を現したそれは、私たち3人そのものだった。ご丁寧に、服装やその汚れ具合まで再現された状態で。


「どう?これが私の超能力よ。こうやって『自分自身が何らかの方法で触れたもの』であれば、本物と寸分違わない存在を作り上げることができる。ま、『生き物』でないといけないし、『自我を持たない』から精密に作られた人形みたいなものね。精密すぎて、人間の基本的な構造はおろか、個人情報まで完璧にコピーされてるんだけど。」


 思わず言葉を失う。目の前に自分と全く同じ存在が現れた。しかもそれを、たったひとりの人間がやってのけたのだ。魔族たちが抹殺しようとするのも、少しわかる気がした。


「でもね、これも万能じゃないのよねぇ。『一度作った存在が現存しているうちは同じものを作ることは出来ない』し、『あらかじめ決定づけた行動をさせる』ことはできるけど、『決められていない行動は出来ない』し、『同時に10体まで』しか作れない。しかも作ったものを『自分の意志では消すことは出来ない』から、この世界に既に私の作った人形たちが10体存在してたらアウト。まぁ、『きっかり半年経つと消える』んだけどね。」


「でも半年も存在してるんでしょ!?それなら……。」


「そ。人形たちには申し訳ない気もするけど、身代わりに死んでもらうには打って付けなのよね。」



------------------------------------------------------------



「身代わりを作って、それを死なせたのね?」


「そうよ。流石に自分の姿をしたものに手をかけるのは気持ち悪いから、私は崖から飛び降りてもらったけど。」


「俺は、わざと自分の居場所をリークして、魔族武闘派の軍隊に襲わせた。」


 私たちを付け狙っている組織は大きい。これくらいの偽装工作はしていかなければいけないんだろうけど、何か違う。なんだろう、違和感がする。

 なんかこう、やけに軽い感じがするような。

 そう思っていると、ハルカ姉さんが、私の違和感に対する答えになる行動をした。


 おもむろに2人に向かっていき、ハルカ姉さんは2人に一発ずつビンタをしていた。


「2人とも、命をなんだと思ってるの!?」


「「……。」」


「確かに偽物かもしれないわ。神様が生みだしたものでもないから、生物じゃないかもしれない。でも、そこに生まれた瞬間は命があるのよ?この世に生まれてきた理由が誰かの身代わりに、それも自分自身の身代わりになって死ぬためなんて、あってはいけないわ!」


「「……………………。」」


 2人とも黙っていたが、やがてファン姉さんが口を開いた。


「……悪かったわ。でもね、今回のは責められる謂れはないわ。目的は『死んだと見せかける』ことじゃなくて、『みんなが助かる』ためなんだから。」


「…………ええ、そうね。それしか、ないものね……。」


 その発言に、戸惑いながらもハルカ姉さんは頷いた。



------------------------------------------------------------



 ドォンという轟音がする。

軍隊がやってきて、教会に攻撃を始めたんだと直ぐに気がついた。


「間一髪だったな。もう少し遅ければ、俺たち全員蜂の巣だったろうな。」


 今頃、私たちと全く同じ姿形の分身たちは、私たちの代わりに蜂の巣になっている最中だろう。




 誰もが無言のまま、只黙って歩いていく。

やりきれない気持ちの中、身代わりになってくれた分身たちの冥福を、私は静かに心の中で祈った。




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