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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第一章 動き出す運命
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得た真実と代償

 私は、その日は嫌な予感がしていた。

 ジョッシュ兄さんに口止めされていた「夢」。それを見てしまった。

 夢の内容は、孤児院のみんなが、見たことのないお金持ちそうなおじさんと一緒にどこかに行って、帰ってこないこと。

 話してしまいたい。でも、話してはいけない。ジョッシュ兄さんの手紙のことがあるからというのもそうだけど、何より私は段々と「夢」について理解し始めていた。

 これは、普通の人にはありえないことで、私にしかわからないことで、それはとても危険だということ。漠然としか理解していないが、私にはそれで十分だった。普段から夢を見るときは妙に胸騒ぎがしたけど、今は前よりも酷い。胸騒ぎというより、どうしようもない感覚がする。例えるなら、これから死ぬとわかっていて、しかも何時何分何秒に何が起こるかまで正確に分かっていて、それでもどうしようもないような……。

 だから、私は必死に駄々を捏ねた。


「きっとそのおじさん、騙してるんだよ!だから行っちゃ駄目!」


 リタは嫌な予感がしたのか最初から私と一緒になって反対してたし、最終的にはハルカ姉さんも残るって言ってくれた。でも、クリスとアポロは留まってくれないし、シュウ兄さんとシスターに関しては私の話を全く聞いていなかった。

 結局、4人はそのまま行ってしまった。



------------------------------------------------------------



 今、教会には3人しかいない。考えてみれば、こんなことは初めてかもしれない。私と、リタとセリアの3人だけ。

 とても静か。こんなに教会って広かったんだ。

 夕食の時間にはまだ早い。2人に話を聞いてみなきゃ。


「ねぇ、2人とも?どうしてあんなに断ったの?いつもはそんな風に意地になったりしないでしょ?」


 2人とも黙りこくっている。余程警戒していたのかしら?

 どう話を聞き出そうか思案していると、リタが話し始めた。


「……あのねハルカ姉さん。私が今から話すこと、信じてくれる?」


「ええ信じるわ。でも、お話してくれないとわからないわよ?」


 私は笑顔で答える。心を開いてくれたようで素直に嬉しかった。


「ありがとう姉さん。でもその前に……セリア、教えて。あなた、今日の事……見たの?」


 リタが言う「見た」とは、セリアの夢のことだろう。ジョッシュがいなくなってから、セリアは夢を見なくなったと言っていたが、今回はどうなのだろう。

 セリアを見ると、こちらを伺っている。何を警戒しているのだろうか?


「セリア?何を怯えているの?」


 私が問いかけると、体をびくりとさせ、俯いてしまった。

 余計に警戒心を与えてしまったのだろうか。


「……怯えてるわけじゃないの。ただ、リタと同じように……私の言うことも、信じて欲しい。そして、ほかの誰にも言わないでほしいの!お願い、姉さん!」


 そういうことだったのね。2人とも、最近孤児院が色々騒がしいから疑心暗鬼になってたんだ。ならすることは簡単。

 私は、2人に話し始める。


「2人とも、私を信じて?私は貴女たちのお姉さんで、貴女たちは私の可愛い可愛い妹たちよ。もっとお姉さんを頼ってくれていいのよ?」


「うん、ありがとう……。」

「うん、ごめんなさい……。」


 どうやら2人とも話してくれそうね。


「それで、まずセリアから教えて欲しいんだけど、どんな夢を見たの?」


「うん。あのね、お金持ちっぽいおじさんにみんながついて行って……誰も帰って来なくなるの。」


「じゃあ外れね。今ここに3人もいるじゃない?」


 私はわざと明るく前向きな捉え方の返事をした。そうでなければ、この子の不安を取り除くことは到底できないだろう。何せこれまでこの子の夢が外れたことは、ほぼ全てと言っても良い位無い。


「うん……でもね、」


 セリアが続きを話始めようとした時、それを遮りリタが話し始めた。


「セリアが見る夢は『予知夢』なの。これから起こることを夢で見るのよ。」


「っ!?……リタ、知ってたの!?」


 彼女の言葉に驚いて言葉を返すセリア。しかし、リタは話し続ける。


「うん、知ってたよ。もっと言うと、セリアの夢は『一番可能性の高い』夢だから、行動次第で夢の内容を現実で変えることができる。」


「「……………………。」」


 これには私も驚いた。セリアも同様といった反応だ。でも何故そこまでリタは知っているのだろう?


「姉さん、セリア。私が今からいうことを、信じた上で、誰にも言わないって誓える?」


「私はさっきも言った通り。信じるし、約束は守るわ。セリアはどう?」


「私も信じるよ!親友だもん、私たち。」


 私たちがそれぞれ決意を述べると、ようやくリタは話し始めた。


「ありがとう。……あのね、私は未来から来たの。ううん、正確に言うと、今ここにいるのは『過去をやり直してる』状態なの。わかりやすく説明するとね、私は『時間遡行』……過去に遡る事ができるの。これが私のもつ力だよ。…………どう?この話、信じる?」


 これには私も驚かざるを得ない。でも、私は、


「ええ、信じるわ。かなり驚いたけど。」


 私を信じて話してくれたのだから、私が信じないという選択肢などあり得ない。だがセリアはどうだろう?


「じゃ、じゃあ、これからずっと先のことも、リタは知ってるの!?」


 セリアが興奮気味に質問をする。どうやらこの子は信じるどころか、疑うことを知らないようだ。だがその質問を受けたリタはというと、やや顔色が悪い。


「……………………知ってるよ。先なんてもんじゃない、未来を。」


 そこまでリタが言って、私にはわかってしまった。

 彼女は今「やり直している」と言っていたのだ。

 それを示すのはつまり……。


「未来は、どんなのだった……?」


「セリア。貴女には未来を知る覚悟がある?私が見てきた、体験してきた辛い未来を?」


「うん……。教えて?」


「わかったわ。……貴女はこれから先、その『予知夢』の力を狙われて、ある集団に捕まってしまうの。力はこれから更に増してゆく。その内に眠らずとも突然近い未来が見えて、やがてそれを自分の意志である程度操ることができるようになる。セリアの本来の力は『予知夢』ではなく『予知能力』。未来を先読みする超能力よ。」


「…………それで、私はその予知能力のせいで捕まって、その後どうなるの?」


 私は固唾を飲んで2人の会話を聞いていた。気になって先が聞きたいと思う反面、もう聞きたくないという感情も湧き上がる。そんな相反する感情を伴いながら。


「…………貴女は、実験動物と同様の扱いを受け続ける。私が貴女を見つけた時には、貴女は既に自意識などなく、植物状態同然だった。……結果的にその状態から脱することができるけど…………貴女は、命を落とすわ。」


「えっ……。」


「でも落ち込まないで!めげないで!私は、貴女を救いたくてこの時間まで戻ってきたんだから。大丈夫。私はこれから起きることを知っているし、貴女も少し先の未来がわかる。対処できるはずよ。」


「そう……そうよね。うん、そうよね!」


 2人の話は、どうやら無事に纏まりつつあるようだ。正直言って、かなりこの2人の話は驚愕するものだった。

 でも、ここまで来たら私も自分のことを話すべきよね。


「…2人とも、話してくれてありがとう。代わりにじゃないけど、私も自分のことを話すわ。」


「?、そういえばハルカ姉さんの能力、私も知らない。」


 リタも知らないのか。私の能力って結構身近だと思うんだけどな。

 でも、考えてみたら誰も私の能力を使う事態に陥ってないのよね。仕方ないか。


「私の力はね、『癒す』ことよ。」


「癒す??」


「そう。怪我をしてる箇所に触れたら怪我が治るし、熱があるなら額に手を当てるだけで熱を下げてあげられる。」


「怪我だけじゃないの!?」


 そう反応したのはリタ。おお、なんか新鮮な反応してくれてお姉さん嬉しいぞ。

 あなたたちの力に比べると見劣り確実だもん。


「ええ。試したことはないけど、多分『生きている』ものが『傷つき疲弊している』状態なら、『傷の無い活力のある状態にする』ことはできると思う。」


 多分、今ならできるはず。小さいころは擦り傷程度しか直せなかったのが、今はかなりのものを直せるようになったもの。


「凄いね、ハルカ姉さん。……そこまで来ると気になるから聞いちゃうけど、姉さんの超能力の代償って何?」


 リタの質問。それは尤もな質問だろう。

 世の中には常に『結果』を得るための『代償』が付きまとう。


「私の場合は、癒す度合に応じて私自身が疲弊していくことぐらいかな?」


「凄いね、休んだら使い放題って事でしょ?私は、代償が大きすぎるからなぁ……。」


「リタの代償って?」


「私はね、時間を遡ると『記憶と経験』はそのままだけど、『体と年齢』が逆行しちゃう。だから、あんまりにも昔…例えば、私が生まれる前には戻ることは不可能だし、時間遡行する前の持ち物なんかも持ってはこれない。戻るタイミングは任意だけど、『戻ること』しかできないから、基本的に進めないし。要は自分の寿命の範囲内で、自分自身に及ぶ範囲でしか使えないのよ。」


「便利なようで厳しいのね…。」


「本来は時間を遡ること自体が自然に反しているんだもの、寧ろこれくらいで済んで幸運だと思う。セリアは?何かないの?」


「私は…うん、多分だけど、一回『未来の出来事』を見たら、その出来事が終わるまでは次の未来は見られないってことかな。」


「同時多発する未来を観測できないってことか…理に適ってる能力ね。」


「あの、リタ?貴女、キャラ変わってない……?」


「こっちが素よ。だって私、ハルカ姉さんより年上なんだから。」


 ああそうですか。

 なんとなく癪だが、事実なのだろう。とりあえずその場は納得することにした。


「取りあえず、ご飯にしましょう。この後のことは、食べながらでも話せるでしょ?食べれるときに食べておかなきゃ。」


 私はそう提案すると、2人も頷き、すぐに夕食の支度を始めた。



------------------------------------------------------------



「結局この後はどうなるの、リタ?」


 私が一番気になっていたところを聞いてみる。


「うん。セリアの予知の通り、私たちはみんな離れ離れにされて教会には戻らない。結局当時の私は『時間遡行』の力に目覚める前だったから、普通の養子として成人するまで過ごすことができたわ。……でもね、既に私が一度体験した『過去』とはズレ始めている。」


「私の夢のおかげかな?」


「それもあるんだろうけど、そもそもとして私が体験した幼少期では、ハルカ姉さんはここにはいなかった。ファン姉さんがいたのよ。そして、私はこの日の食事会には参加していない。シスターと共に、ここに残ったの。」


「でも今は……。」


「姉さんの思っている通り、『今回』は違った。というか私の知る限りでは、私が体験した『前回』とは、かなりの食い違いが出てきている。他に例を挙げると、ジョッシュ兄さんはそもそも出て行っていなかった。そしてこの後、食事会に行ったメンバーが待てど暮らせど帰ってこなくて、シスターと2人で心配しながら待っていた。でも2日後、急に私を引き取りたいという申し出のあった家があったから、私はそこに行くことにしたの。ここで孤児院は事実上の解散になる。その後教会がどうなったかはわからないけど。」


 リタの言うことが本当だとすると、かなり歴史が変わってしまっているように思える。そうなると、どうしても疑問に思うことが出てくる。


「リタ。さっき貴女は、このまま食事会に行ったみんなは戻ってこないで、そのまま孤児院は解散になる。そう言ったわよね?でも、貴女が知っている過去とは変わってしまっているとも言っていた。」


「ええ、そうよ。……!?」


「リタもそう思うわよね。私もそう思うのよ。」


 さすがに私より年上だと言うだけあり、察するのも早い。ただ、この様子だと恐らくセリアは置いてけぼりだろうな。そう思い彼女を見てみると、


「…………すぅ……。」


 寝ていた。リタも苦笑いしている。

 まぁしょうがない。ここはひとまず私とリタで話を進めたほうが早いかも。


「…で、さっきの続きよ。恐らく戻ってこないことは有り得ない。何故なら、」


「シスターが食事会に参加しているから。」


「そう。そして早ければ、夕食を済ませて直ぐにでも帰ってくる。それでリタ、質問なんだけど、貴女はこの孤児院の正体を知っている?」


「ええ。成人した後みんなの様子が気になって色々調べてたら、ここの事とか全部知っちゃったわ。ここは人間にして人間離れの力を持つ素質のある人間たちを集めたサンプル育成施設。ここにいるのは、特殊な人間だけ。」


「……そこまでのものだとは私も知らなかったわ。私が知っているのは、ここは超能力を持つ人間が集められる場所ということだけだもの。」


 そこまで話をすると、眠っていたセリアが急に起きた。かなり慌てた様子でこちらに向き直ると、


「2人とも!私たちを捕まえに来る人たちがこっちに向かってるわ!!」



------------------------------------------------------------



 日も沈んだ頃、教会の上空に黒い鳥のような影が現れた。

 その影はゆっくりと高度を下ろすと、やがて教会のすぐ真上まで近づき、音もなく静止する。それと同時に、影の方々から何本ものロープが下げられていく。そのロープ伝いに何人もの黒ずくめの者たちが降下していく。

 

 教会の入り口は固く閉ざされている。黒ずくめのうち一人がノックをするが、中から返事はない。

 何度かそれを繰り返して返事がないのを確認すると、黒ずくめが懐から何かを取り出し入り口の扉に張り付けた。と同時に一斉に離れ始める黒ずくめ達。

 誰もいなくなった途端、ズンという激しい衝撃と共に爆炎が舞い上がる。

 そのまますかさず黒づくめたちは壊れた入り口から中になだれ込むようにして侵入した。


 しばらくすると、黒ずくめの一人が、


「いたぞ!!ターゲット発見した!!」


 そこには、3人の少女。

 少女たちは身動き一つ取れず、それ以上下がることのできない壁に向かって必死に少しずつ下がっていた。

 続々と集結し、少女たちを黒ずくめが取り囲んでいく。

 やがて集結を終えると、


「………撃て!!」


 黒ずくめたちは、圧倒的な数で取り囲みながら、一斉に引き金を引いた。

 弾丸の嵐が3人に容赦なく襲いかかる。




「…………止め!!」


 その声と共に、弾丸の嵐は終わった。

 立ち込める砂煙が徐々に晴れていく。

 そこには、



 誰が見てもわかる。

 もう二度と動き出すことのない状態の、3人の姿があった。




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