表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の教会  作者: 海蔵樹法
第三章 迫る絶望、見据える希望
35/37

夢からの回帰、衝撃の告白




 視界が、段々とはっきりし始める。


「(ん………………ここ、どこだろ?)」



 私は、どうやら気絶していたようだ。

 ベッドに寝かせられていたらしく、後ろ全体に適度な硬さのマットの感覚がする。



 辺りを見回す。

 壁も天井も一面白く、清潔感がある。来ている服も、パジャマのような格好だ。

 確信はないが、ここは恐らく病院だろう。ということは、私は入院していたのか。



「んっ………………あれ?」



 ベッドから上半身を起こそうと力を入れたが、上手く力が入らない。心なしか、体中怠く、背中にも鈍い痛みを感じた。

 経験則ではなく知識から、これは長く同じ姿勢で眠っていた症状であると、何となくわかった。




 私はストレンジャーを倒した。それははっきりと覚えている。


 私が選んだ額縁は、“皆が笑っている絵”。ストレンジャーを倒す絵は、あそこには無かった。

 そしてそれを、私は半ば反射的に選んでいた。

 私たちが笑い続ける平和に、あの男がいるはずがないもの。



 だから私は、自信があった。

でもその結果、私はストレンジャーの最後の一撃を食らった。


 あの時、はっきりと見えていた。見えていても回避するのは間に合っていなかった筈だ。

 黒い光線が、私の胸に部分に吸い込まれていく瞬間を見て、そこで私の意識は途切れた。


「どうして………………私は、生きているんだろう………………。」


 私は、パジャマをはだけさせ自分の胸の部分を見る。

 どこにも、傷痕なんて無かった。



 その時、ドアの開く音がする。複数の足音が聞こえ、その先頭には、茶色いショートカットの女性と、銀色の短髪の男がいた。




「セリア、目が覚めたのね!?………………って、男どもはこっちに来るな!!」


「セリア、目が覚めたんドゴァ!?」



 リタの鉄拳が瞬時にシュウの顔面を捉え、そのままシュウは応接ソファに沈んだ。



「セリア、早くソレ、隠しなさいよ………………何?起きて早々、自分の成長の様を確認したかったの?」


「へ?あはは……そういう訳じゃないんだけどね………………。」



 傷痕の確認のためにはだけさせていた胸を隠す前に彼らが来てしまったために、私はそのままの格好だった。

 心の中でシュウに詫びながら、急いで胸を隠し、体裁を整える。



「よし、良いわね?みんな、入って良いわよ!」


 リタの声と共に、見慣れた顔ぶれがやって来た。



「体の調子はどうだ?…………詰まらんものだが、みんなからの見舞いの品だ。」


 ジョッシュさんが軽めの挨拶と、果物の詰め合わせを渡してくれる。


「怠いけど大丈夫。お見舞い、ありがとう。」


 私の返事に、軽く微笑んで返してくれる。前よりも、表情に険が無くなった気がする。


「私からは、はいコレ!」


 ハルカさんがカーディガンを羽織ってくれる。


「ありがとう!これ、ハルカさんが作ったの?」


「うん。だってセリア、もう10日間眠ってるんだもの。貴女小柄だし、それだけ日数あれば編めるわよ。」


 私はどうやら10日間も眠っていたらしい。道理で体に怠さを感じるはずだ。


「遅れたけど、ようやく起きてくれて嬉しいよ、セリア!」


 リタが笑顔で話しかけてくれる。その表情は、とても嬉しそうだ。


「リタ、何か嬉しそうね?」


「そりゃあ、セリアが目覚めたんだもん、嬉しいに決まってるわ!」


「ありがとう、私も喜んでもらって嬉しいよ!」


 さて、そろそろリタに吹き飛ばされた可哀想なシュウが起きてくるはずだけど……。


「ッ~~~………………セリア、体は大丈夫なのか?」


 顔をさすりながらシュウはそんな事を言う。派手に吹き飛ぶほどのパンチを顔面に食らってソファに沈んだ人間が、何を言っているのだろうか。


 私は、少しからかってみることにした。


「ありがとう、大丈夫よ、変態?」


「へ!?………………悪かったよ、怒らないでくれよ……。」


 大きな体を縮こませてあからさまに落胆するシュウ。ちょっと楽しいかも。

 でも可哀想なので程々にしておくことにする。


「冗談よ。お見舞い、ありがと。」


「お………………あ、ああ!」


 許されたのだとわかった途端、普通に戻るシュウ。これからも時々からかって遊ぼうと密かに心に決意する。



「やぁセリア~、目が覚めたみたいだねぇ?」


 ジレェ卿のこの喋り方を聞くのも、何だか凄く久しぶりな気がする。


「ジレェ卿、態々来ていただいてありがとうございます。」


「良いんだよ。無事みたいで何よりだ。医者から植物状態も覚悟してくれって言われてたからねぇ。本当良かったよ~。」


 どうやら私は危うく植物状態寸前の診断をくだされていたようだ。

 ひょっとして、あの夢は、そういう事だったのだろうか。


 そんな事を考えるうちに、最初の疑問を思い出した。


「あの、ジレェ卿。私、確かにストレンジャーの攻撃を受けたと思ったんですけど…………その………。」


「ん?何で生きてるのかって話かい~?」


「はい………………あの時、ストレンジャーの放った攻撃は、確かに私の胸のあたりを捉えていた筈です。」


「その答え、ここに持ってきてるよ?」



 そう言うジレェ卿が、私に手渡してきたもの。それは、見るも無残に破壊された魔砲だった。

 よく見ると、そのデザインには見覚えがある。


「これ、もしかして………………。」


「そう。君が懐に入れていた魔砲さ。全くの偶然だったんだろうけど、ストレンジャーの光線が、その魔砲を破壊してチャクラジェネレータを直撃。その結果、エネルギーが相殺されたっぽいんだよねぇ。」


 そっか。そういう事か。

 私は結局、リタに最後まで守ってもらってたんだ。



「リタ、本当にありがとう。貴女がくれたこの銃が、私を守ってくれたんだね。」


「うん、そうみたい。………………ようやく、完全に未来を変えられた。遡った甲斐があったわ。」


 そう言うリタは誇らしげにも見え、どこか寂しそうな感じにも見えた。


「リタ?」


「………………ううん、何でもないの。只ね、目的達成したじゃない?だから、これからどうしようかなって思ってね………………。」


 リタの一言を聞き、その場に居合わせた皆が悩むように表情を変える。

 今までの私たちの目的は、離れ離れの仲間たちと再会することで、その後は再開した仲間と戦ったり、その挙句とんでもない相手と戦ったり。

 

 凄く濃密な日々だった分、それが終わると安心する反面、どこか虚無感にも似た寂しさのような感覚が心をよぎる。





「はいはいはい!しんみりした空気は今は無し~!折角セリアも目を覚ましたんだしさ、皆でパァ~っとお祝いでもしようよ!」


 ジレェ卿が手を叩きながらみんなに話かける。

 そうだ。今は取り敢えず、戦って勝ち取った平和を満喫しよう。

 それで良い。それが良い。






------------------------------------------------------------






 私は目を覚ました次の日、退院した。

 目を覚まさないという事以外は健康そのものだったらしく、簡単な検査と問診だけで終わってしまい、あっという間に退院になってしまった。




 その後の話だが、ジレェ卿が手を回していた、『女神の朋友』幹部の逮捕に関しては、残念ながら成功しなかったらしく、首謀者の側近を3人捕まえたにとどまってしまったようだ。現在も、軍で尋問が続けられている。


 結局、混乱に乗じて魔族側に襲いかかってきた者たちも、ほんの極僅かであり、あらかじめ準備をしていたため、速やかに対処され事なきを得た。


 今現在も『女神の朋友』は健在だが、研究院が文字通り消滅し、私設軍の大半を失ってしまい、現在は殆ど目立った活動はしていないとの事だった。





 ジレェ邸に戻った私たちは、ジレェ卿が冷凍保存しておいてくれていたファンさんの亡骸と対面し、それはそれは丁重に弔った。


 あの時のジレェ卿の泣き顔が今でも忘れられない。笑ったり突然真面目になったりというのは見たことはあったが、あんなに静かに止めどなく涙を流している姿は初めて見た。

 もしかしたら、彼女に対して特別な感情があったのかもしれない。

 でも、それでも、彼女はもう死んでしまった。

 今後、それについての真実は私たちの知るところではないだろうし、ジレェ卿も話すことは一切ないだろう。





 そして、その後日、私たちはジョッシュさんに案内され、クリスとアポロの墓に向かった。そして着くなり、ジョッシュさんは頭を深々と下げ、私たちに謝罪した。


 私は双子の墓前の前にたち、助けてくれてありがとうとお礼を言い、ストレンジャーという脅威を退けたこと、そして、安らかに眠って欲しい旨を伝えた。


 その時、前と後ろから心地よい風が吹いた。何だか私は彼らがここに来たような気がして、微笑んだ。






そして、それから更に数日経った後、私とリタはジレェ卿に連れて行かれた。

 その場所とは、大議事堂。何やら、重大発表があるらしい。

 そして今私たちは、その場所にいた。



「やぁやぁみんな~、ご多忙の中悪いねぇ~?」


「やれやれ、君のことだ。その言葉、心の底から言ってはいまい?」


 ラダム卿が全員の代弁をしてくれる。それに対してジレェ卿は、いつもの感じならふざけて返すのだが、今回は違う様だ。


「ま、挨拶は挨拶でさ、今回は結構真面目な話題だから早速本題に入らせてもらうけど、良いかな?」


 いきなり空気の変わったジレェ卿を見て、ただならぬ何かを感じ取ったのか、皆黙って頷く。



「………………突然で済まないが、ボクは、ジレェ家当主を引退しようかと思ってる。」



 ジレェ卿の突然の告白に、その場の誰もが動揺する。その中でも一際驚いているのは、ラダム卿とジューレン卿で、この2人は当然というか、誰もが気にかかる内容の質問をした。



「待て、君がいなくなったら、誰が当主を務めるのだ!?」


「そうヨ。第一貴方、跡取り居ないじゃないの!?」



 最もなのだ。実は五公家の内、ラダム卿とアルカード卿とマナ卿は既に既婚者であり、それぞれ跡取りがいる。それにあまり知られていない事実だが、ジューレン卿も結婚こそしていないが、跡取りとして娘がいるらしい。


 完全に独身なのは、ジレェ卿だけなのだ。



「そこだ。だからこそ、君たちに集まってもらった。身寄りのないボクにとって、君たちが一番何でも相談できる相手だし、何より付き合いも長い。君たちに集まってもらったのは、相談したいからだ。………………リタ、セリア。君たちも含めてね。」



 五公家のほかの人たちはわかる。でも、何故私たちなのだろうか?

 私たちや五公家たちの沈黙を他所に、ジレェ卿は、決定的な一言を発した。





「リタ、セリア。ボクの跡取りにならないか?」





「え?」

「へ?」



「何でかと思うだろう?それはほかの面々も同じ気持ちだろう。でもね、ボクには歴とした理由があるんだ。………………ボクは前に言ったよね?君たちの誕生に深く関わっているって。………………ボクはね、君たちの父親なんだよ。パーセンテージは少ないけど、君たちの中にはボクの血が流れている。………………君たちの能力素、”時元素”を安定させる要素として魔族の血が必要だったんだ。………………そこで血を提供したのは、ボクだ。」



 何ということだろうか。私が、私とリタが、ジレェ卿の娘だったなんて。

 でも、ということは………………。


「私とセリアは………………。」

「リタと私は………………。」


「「姉妹だったってこと!?」」




「うん。君たち、瞳の色が結構似てるだろう?ついでにボクもね……偶然だと思ってたかい?」



 唐突すぎて、まだついていけない。それを表情に表しながら、ジレェ卿に無言で話を促す。



「………………ボク達魔族はね、血縁を尊ぶ。それはね、家柄を残すことに強い執着を持つからさ。だから魔族での世代交代は、純粋に同じ血族の次代が担うことになるのさ。つまりね、君たちは、ボクの正当な後継者なんだよ。」



「いきなり、そんな事言われても………………。」


「そうです。いきなり当主になれって言われても………………。」



 私とリタは当然ながら口々に言い返すが、



「大丈夫。ボクは引退するといっても、今すぐってワケじゃないさ。しっかり教育して、それから引退させてもらうよ。………………ボクの財産も権力も、何もかも、君たちになら渡しても構わないと思ってる。勿論当主の務めは果たしてもらうけど、悪い話じゃないと思うんだ。………………どうかな?」



 かなり本気の様だ。でも正直、いきなりそんな事言われても困る。

 リタを見ると、本気で悩んでいる。かなり戸惑っているということなのだろう。



 そのまましばらく沈黙が続き、その沈黙をラダム卿が破る。


「フリドリッヒ、君の意思はわかったし、彼女たちを連れてきた理由も分かった。だが、我らが呼ばれた理由がわからないのだが?」


 全くもって正論だ。ここまでの話でいくと、私たちとジレェ卿の家族(?)会議で済むのだが、彼らを議事堂に呼んでまでというのが理解できない。



「そんな事ないよ?認識してもらいたかったんだよ、君たちには最初にね。」



 そういう事だったのか。ジレェ卿にとってきっと、五公家のメンバーは家族のような存在なのだろう。



「………………さて、君たちに伝えたいことは伝えたし、皆に認識もしてもらった。彼女たちは今すぐに決められないだろうから、ボクとしてはここいらで解散しても良いとは思うんだけど、どうかな?」



「うむ。私には異論はないが、皆はどうだ?」


 ラダム卿の問いかけに頷く3人。


「では、これで会議は終了する。………………フリドリッヒ、少し時間をもらいたいが、構わないな?」


「うん、ボクは構わないよ。その2人に許可取ってくれればね?」


 何の事だろうと思っていると、ラダム卿が私たちに近づいて来た。



「少し君たちと話がしたい。奥の応接間へご同行願えるかな、お嬢さん方?」



 私とリタは少し顔を見合わせ、おずおずと頷き、ラダム卿の後をついて行った。


 私たちは、どうなってしまうんだろう?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ