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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第三章 迫る絶望、見据える希望
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漆黒の使者・前





「行け、傀儡どもよ!!」


「くっ………………目を覚まして、2人とも!!」




 セリアの呼びかけに応じたのか、2人ともその場に立ち尽くして動かない。




「どうした傀儡ども!!早くせんか!!」




 その言葉に、ようやく動き始めたジョッシュとシュウ。ゆっくりと二人は武器を構え、再びセリアに襲いかかる。


「戦うしか無いの………………?」


 セリアは二丁拳銃を、それぞれ一丁ずつ2人に向ける。

 迫る2人。もう撃つしかない。


 セリアは引き金を引く力を込めようとする。だが、その時、すぐそばから聞きなれた声がした。


「悪いなセリア。お陰で目が覚めたよ。」


「えっ?」



 突如、目の前の銀髪の剣士は振り返り巨大なチャクラ砲を放ち、金髪の銃士もまた、同じくチャクラ砲を放っていた。


 放った先は、黒色の男の方へ。





 爆発音と共に、爆風に包まれるストレンジャー。だが、当然のように傷一つついていなければ瞬き一つしていなかった。されども、その顔は驚愕している。




「何故だ?我の支配から何故逃れられたのだ?」




「簡単だ。お前は愛するものを攻撃させた。」

 金髪の青年は魔砲にエネルギーチャージをし、それを構える。


「それに、セリアにあんな声上げさせてよ?」

 銀髪の青年もまた、刀を構え、それはチャクラによるオーラを纏い、銀色に静かに輝きを放つ。



「俺たちもな……。」

「腸煮えくり返ってんだよ……。」



「「ストレンジャー!!!」」


 その瞬間、2人の姿は掻き消えて居た。




「後ろか?」


背後から振り下ろされる一太刀を、あろうことか素手で受け止めるストレンジャー。よく見ると、その腕はほとばしるオーラに纏われている。


「これで終わりだと思うなよ!?おおおおっ!!」


「む?」


 シュウはそのまま気合を込めて刀を振り下ろす。その勢いに押され、ストレンジャーの腕が弾かれ、そのまま返す刀で背後から斬り付けるが、それを素足による回し蹴りで蹴り飛ばし、斬撃を逸らすストレンジャー。


「今や我の手足は鋼より硬い。その刀も中々のものなのだろうが、な!!」


 ストレンジャーはオーラを纏った正拳突きを鋭く放つ。


「ぐぁっ!!」


 宙を一直線に飛ばされるシュウ。そのスピードは凄まじく、あっという間に見えなくなっていった。


「フン、この程度では時間稼ぎにしかならんのだろうがな………。」


「余裕があるようだな、ストレンジャー?」


 ジョッシュが仕掛ける。ジョッシュもまたオーラを纏い始めていた。


「おおっ!!」


「フハハ、やはり貴様もまた我の同一体か!この世界に置いて力を自在に操るとはな!!」


 ジョッシュは魔砲剣を出し、肉弾戦を挑んでいた。


左正拳突き、右跳び膝蹴りからの踵落とし、着地すると同時に右手に持った黒金の魔砲剣で横、縦と斬り、正面に突く。

 それをストレンジャーは首を捻って躱し、膝蹴りは少し下がって躱し、踵落としは左腕で逸らす。魔砲剣の切り払いには腕にオーラを纏うことで流して対処し、最後の突き剣は状態を右に反らし、ジョッシュの激しい攻撃を全て捌ききる。


 だが、右方向に躱すことはあらかじめ計算していたのか、躱した方向には既に魔砲剣を持っていない左手がチャクラを十分にチャージした状態で構えられており、その砲撃をモロに食らい、空中へ吹き飛ばされていくストレンジャー。




「ぬぅ………………何っ!?」



 シュウがいつの間にか『ノーディスタンス』で戻ってきており、翼を生やして控えており、その刀は鞘に収められ、腰だめに構えられていた。



「………………ぶった斬る!!」



 ストレンジャーが放って居た、あの居合が放たれ、鋭い衝撃はがストレンジャーに襲いかかる。

 ストレンジャーは流石に危険を感じたのか、両腕にオーラを迸らせ、その衝撃波を全力で防御する。



「ぬぅぅぅぅぅ!!」



 ギャリギャリと音をたててぶつかり合う衝撃波とストレンジャー。


 だが、それで終わりでは無かった。



 今度はジョッシュも空中へ上がり、未だ衝撃波と格闘しているストレンジャーに向かい手をかざす。

 シュウも手をかざすと、ストレンジャーの背中側からジョッシュの分身が、前方からシュウの分身が現れ、ジョッシュの分身は魔砲剣を構え、シュウの分身は刀を構え、それぞれ飛びかかる。




「何だと?貴様ら、そこまで……ッ!!」




 互いに交差するようにストレンジャーを斬り付け、そのまま互いに反対側へ通り抜けて、空中で分身たちは消えた。

 ストレンジャーは両手を防御に回しながらも尚バリアを張ったらしく、2人の分身が放った攻撃は浅く、既に傷の再生が始まっていた。



「クク、驚かされたが、そんなものよな。もうすぐこの衝撃波も消えよう?その時が貴様らの最期ぞ?」



 しかし、2人の分身が再び現れる。今度はストレンジャーの上下に現れ、またも互いに交差するようにストレンジャーを斬り付けて消えていく。



「細切れにしてやろう。」

「バラバラになりな。」




「うおおおお!?」




 2人の分身は、次々とストレンジャーの四方八方から現れては斬り付け、そして消えていく。それは、徐々に徐々に凄まじい速度になっていき、遂には白と黒の閃光がストレンジャーをあらゆる方向から収束して襲いかかるようになっていった。



「ぐあああっ………………防御が、間に合わんだと!?」


「おおおお!!」

「ああああ!!」



 ピキ、という音が響き始める。ストレンジャーのオーラにヒビが入り始めていた。




「まだだ!!」

「休ませねぇよ!!」




 それでも、2人は攻撃の手を緩めない。そして遂に、ストレンジャーのオーラは決壊し、シュウの放った居合による衝撃波がストレンジャーの体を上半身と下半身に分ける。



「ぐぉあ!!!」


 無残に地上に落下していくストレンジャーの下半身。



「今だ!!」

「行くぜ!!」



 2人は一気に距離を詰め、シュウ刀で、ジョッシュは懐から取り出した銃をも使い魔砲剣の二刀流で、これもまた凄まじい速さで攻撃を繰り出す。




「ぐががががががががっ!!」



「シュウ、止めだ!受け取れ!!」

「任せろよ………………行くぜ!!」



 ジョッシュはチャージが完了している魔砲を一丁シュウに渡し、自身は再び分身し、空中で満身創痍のストレンジャーが自由落下を始める前に、その肉体を自分と分身とシュウとで三方向から包囲した。



「撃て!!!」

「おぉぉぉっ!!」




 十字砲火ならぬアスタリスク砲火とでも言うべきか、空中にストレンジャーをその中心としたアスタリスクが一瞬描かれたと思った瞬間、それは激しく爆ぜた。





「ぐおああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………………………。」





 爆発が静まったとき、そこには灰塵と化したものがパラパラと地上に向かい落下していく様子しか見受けられなかった。





 一連の激しい戦いを地上で見ていたセリア。

圧倒的だった。初めこそストレンジャーが押していたが、あっという間に形成が逆転し、ストレンジャーは、文字通り木っ端微塵と化したのだ。

 だが、それでもセリアは何故か安心できなかった。

 セリアには、気になって仕方がなかった。未だに残っている、斬られたにも関らず血の一滴たりとも流さないストレンジャーの下半身が。


 先ほど、2人の分身による空中連続攻撃を受けている最中は、確かに傷を負っていた。血を流していたのだ。だからこそ尚更、転がったままの下半身が不気味に思えて仕方がなかったのだ。



 空中からゆっくりと地上へ向かって降りてくるジョッシュとシュウ。



「2人とも、体は何ともないの?」


「ああ………………まぁ、な。」


「寧ろ力が湧き上がってくるよ。それよりセリア……操られていたとはいえ、ゴメンな。」



 ジョッシュはバツの悪そうな顔をし、シュウもまた辛そうな顔をして謝罪した。2人とも、リタにしたことを悔やんでのことだったが、セリアの胸中に怒りは沸かなかった。


「ううん、多分リタは生きてるわ。今はハルカさんが治すために集中してくれてるし、それに………………2人とも、咄嗟に手加減したんじゃない?本気だったら、リタごと私たちは死んじゃってたと思うし。」



 セリアは笑顔で答え、2人もそれに少しだけ安心したようにため息を付く。



「………………あのさ、2人とも。ストレンジャー、これで終わりだと思う?」


「嫌、終わっていないだろう。現に、奴が作り出したこの世界はそのままだしな。」


 ジョッシュの言う通り、この世界は黄金の色彩を保ったまま。この源がストレンジャーならば、生きているのは間違いないだろう。


「でもよ、上半身を完璧に消し飛ばしたからな。多分、復活してもそれなりにパワーダウンしてると思いたいけどな。」






『我も甘く見られたものよな。』






 ストレンジャーの声が、シュウの言葉に反応するように辺りに響き渡る。



「どこだ!姿を見せろ!!」


 ジョッシュが黒金を構え、辺りを素早く見回す。



「慌てるな。」



 先程から転がっていたストレンジャーの下半身。それが突然跳ね起き、何もない胴の部分から、水銀のような液体が吹き出し、それがストレンジャーの上半身を形作り、氷のように固まり、そこに色や質感が徐々に浮かび上がり、ストレンジャーは復活した。




「待たせたな。………………我を30回程殺すとはな。誠に驚かされたぞ?」


「チッ、パワーダウンしてる様子もなしかよ?」


「………………“30回程”だと?」



「黒の銃士よ、流石に耳聡いな。」



 意味深な一言を聞き返し、それに対してストレンジャーは笑ってそう答えた。



「我は、この宇宙を圧迫している生命体の星を滅するために存在する。だがな、宇宙の法則上、我も無敵というわけでも無いのだ。力はあるが、我の命は有限……星の全生命体と同数と定められているのだ。」



「何だと!?………………では、お前は!?」


「左様だ。我が存在は唯一、されどその命は複数。………………このまま行くと、後数百億回は我を滅せねばならぬ。」




 ストレンジャーから告げられた衝撃の事実だった。ストレンジャーと同一の力を持った2人が全力で倒して約30回。仮に生命体の数が200億いるとするなら、あとおよそ67億回倒さなければストレンジャーは完全消滅しないのだ。





「だがな、我が分身たちよ。否、我が『敵』と認めるべき者たちよ。お前たちに好機を与えよう。我とて武人。うぬらに対し、疲弊させて隙を付くような真似は止めだ。」



 ストレンジャーの口調から、僅かではあるが傲慢さが消えている。どうやら、ジョッシュとシュウを倒すべき敵として認識したものによるらしい。



「はぁぁぁぁ………………!!」



 ストレンジャーの気合とともに、あたり一面に広がっていた黄金色の景色が元に戻っていく………………。



「………………っ!」

「!?、何だ?」

「えっ!?………………未来が………………。」

「………癒しの力が………跳ね上がった……?」

『!?、傷が…………癒えていく………………。』






「………フ、あの世界の維持に裂く力すらも回す余裕が、我には無くなった。世界を戻したのだ、うぬらは力が戻り始めてきたであろう………………正直効いたぞ。この状態でここまで追い込まれるとはな……だがな、勝つのは我だ。うぬらを倒し、この星を消す!」



 ストレンジャーはここに来て、その背に天使のような、しかし漆黒の6枚の翼を生やし、その手に宝玉のような玉を出現させる。

その表情は驕りや嘲りなど既になく、纏う雰囲気にも微塵の油断もない事が感じられる。







「この星を、消させるわけにはいかない。」


 黒金をストレンジャーに向け、



「俺たちはな、手前に滅ぼされる為に生まれてきたわけじゃないぜ。」


 白金を真っ直ぐに構え、



「死んでいった人たちのためにも………………!!」


 その言葉と同時に白い女戦士と銀狼が一歩前へと進み出る。



「あなたに勝って、未来を紡ぐ!!」


 虹の瞳が、漆黒を射抜いていた。





「星の子らよ、その意気やよし。………………我は宇宙の代弁者、我は超常の使者、そして、我は“最凶”也!!………………行くぞ戦士たちよ。推して参る!!」





「前口上が長すぎるな。」


 ストレンジャーの直ぐ前方に瞬間移動したジョッシュは二丁の魔砲剣で連撃を加えるが、一切当らない。

 当たってはいるのだが、全く歯が立たないのだ。


「うぬらの中で、お前が一番厄介やもしれぬ。手心は加えん………………ぬぁあ!!」


「ぐあっ!?」



 ジョッシュがまばゆい光と共に吹き飛ばされる。

 その距離は僅か数メートル程度だが、ジョッシュは全身から血を流し、痛みのあまり体中が痙攣していた。


「ジョッシュ!?」


「(何だ………一体何が起こったんだ………何をされたのか、分からなかった……!)」


 リタの傷口を全て塞ぎ終わっていたハルカが、目の前で突如起こった惨状に慌ててジョッシュに駆け寄り傷を治し始める。

 ジョッシュは癒されながらも、自分自身に起こったことを全く理解できずにいた。



 ジョッシュだけでなく、その場にいる全員が、只“光った”だけにしか見えなかった。




「あれを食らって生きているどころか、まだ動こうとするか?流石は我が同一体が一。………さて、次は………。」



「俺だよ!!」


 シュウが居合の衝撃波を飛ばす。先ほどストレンジャーを2つに分けたものよりも遥かに大きく、それも2段斬りで飛ばしていた。

 だがそれすらも、簡単に受け止められてしまう。




「分身よ、先ほどの我の“攻撃”を見て、接近しないとは賢い選択だ。だがな、前ばかり見ていないで上も見てみたらどうなのだ?」


「何だと!?」


 上を咄嗟に見上げると、そこには小さな鳥が羽ばたいていた。但しそれは不気味なほど真っ黒で、見るものに不吉を感じさせる。

 その鳥が羽ばたき、ひらひらと羽が落ちて来た。



「………………あの鳥が何かあるのかよ!?」


 シュウはストレンジャーに向き直り、鳥の存在を無視し、白金を構える。



「………………忠告は素直に聞くべきだと思うがな?」


「さっきから何言って………ん?」



 訳も分からないシュウの目の前に、先ほどの鳥の羽がひらひらと舞い落ちてきた。

 それが、シュウの肩に微かに触れる。その瞬間、



「駄目シュウ!!羽を払って!!!」


「なっ………。」


 掠っただけの羽が、突然爆発を起こし、シュウは声を上げる暇もなく吹き飛ばされた。その肩は大きく焦げ、血が滴っている。



「ふむ、流石は抗体。中々に鋭いな。………………次は、お前か?それとも、癒し、呼び寄せるあの女か?」



 ハルカはまだジョッシュの傷が深く治しきれていない。ナザエルもまた手が足りないと感じたのか、シュウの傷を治しにかかっている。


 残るは、アインとセリアのみだった。




「私が相手よ、ストレンジャー。………アイン、手伝って。」


 セリアの呼びかけに、返事のように遠吠えをするアイン。



「………………抗体が相手か。一番の厄介な相手が出てくるとはな。………………貴様さえ倒せば、我は勝利したも同然。行くぞ!!」




「私だって………………むざむざやられたりしない!!」






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