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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第三章 迫る絶望、見据える希望
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力の解放、天啓の超越




「餓鬼共がぁ………………捻り潰してくれるわ!!!」


 開始当初からの息の合ったコンビプレーの思わぬ一撃を食らったストレンジャーは、刀を鞘に収め、腰だめに構える。所謂居合の構えだ。



「何をするつもりだ?………………拙い、飛べっシュウ!!」


「ああ、ヤバいぞありゃあ!!」



「食らえっ!!!」


 ストレンジャーは居合の要領で刀を真横に一閃させると、そこから生まれた衝撃波が横一文字に2人を斬りさかんと襲いかかる。


 咄嗟に『スカイバット』『バティスト』で飛び上がる2人。その真下を間一髪のタイミングで衝撃波が走り去っていった。



「うげ……衝撃波で飛び散った水まで真っ二つかよ。どうなってんだ。」


「危ないところだったな………………。」




「我の前で雑言を繰る余裕があると思うてか!?ハアッ、フンッ!!」


 ストレンジャーは再度居合の状態から、一閃、また一閃と空中の2人に向かい刀を振る。



「くっ!!」


「おっ!?しまった!!」


ジョッシュは上手くかわしたが、シュウが一閃をスカイバットの翼に受けてしまい、バランスを崩し落下していく。




着地した瞬間、肉薄していたストレンジャーの回し蹴りをモロに食らってしまう。


「ぐあっ!!」


「シュウっ!!」


「どこを見ている?」


 気づかぬうちに翼の生えたストレンジャーがジョッシュのすぐ傍にいた。恐らくアヴァターラによるものだろう。

 重く鋭い刀の一撃が迫り来る。


 それを後ろに下がることでジョッシュは回避し、同時に魔砲を発射する。

以前と同様だと思っていたのか、僅かに体を逸らすことで回避を試みたストレンジャーだが、『黒金』の発射する弾は、威力もサイズも以前とは段違いになっており、頬を魔砲弾が掠めていく。その風圧で僅かに傷がつき、出血する。



「本日2つ目の傷だな。油断しすぎじゃないか?」


「黙れぃッ!!」


 尋常ならざる速度で振り下ろされる刀。それがジョッシュの頭部を唐竹割りにしようと迫り、頭部にあと少しでその刃が到達するという瞬間に、ジョッシュの体は中心から2人に突然別れたように、それぞれ左右に分かれる。


「む!?」


「いつまでも芸のない戦法をとり続けると思うなよ?」



 2人のジョッシュは懐から以前使用して魔砲を取り出し、二丁拳銃の状態で魔砲剣に切り替え、空中を飛び交い絶妙なコンビネーションでストレンジャーを追い詰める。



「ハッ!セイッ!フッ!!…………どうした?調子が悪いじゃないか?」


「くっ……これほどまでに腕前を…………ぬ!?むっ!?……上げているとはな……。」




 一方、地上でもシュウによる善戦が繰り広げられていた。

 最初こそ油断していたが、元々ストレンジャーと同一体である彼は、ストレンジャーの動きやスピードに慣れるのも早かった。



「そらそらそらァ!!どうしたよ!?」


「ぬ………………何故こうも我の攻撃が見切られるというのだ………………フンっ!!」


「読めてんだよ?……お返しだぜ!!」


 シュウの激しい剣捌きを受けきれず下がったストレンジャーは特大のチャクラ砲を発射するも、あっさり躱され逆にチャクラ砲を放たれる。


「む!?………………ちっ!?」


「消えた………どっから出てきやがる!?」


「上よ!!くたばれぃ!!」


 シュウのチャクラ砲を躱すために『ノーディスタンス』でシュウの頭上に瞬間移動しチャクラを込めた刀を振り下ろすが、


「残念だったな、俺も上だよ?オラァ!!!」


「グアァ!!」


 シュウの『白金』が浅いが確かにストレンジャーを斬りつけた。





「(良いぞ。このままいけば………………。)」


「(イケるぜ。この調子なら………………。)」



「「(勝てる!!)」」



 2人がほぼ同時にそう確信した時だった。


 シュウの戦っていたストレンジャーは消え、ジョッシュが追い詰めていたストレンジャーは自らの周囲にチャクラの衝撃波を放ち、その隙に2人から少し離れた地上に降り立った。




「ククク……こうも手こずるとはな。今の我では分が悪いわ。」


「負けを認めるなら、是非ともこの星を去ってもらいたいがな?」


「それはできぬ相談だ。」


「だよな。だったら俺らもお前を倒すしかないんだよ?」


「フ………………予定変更だ。楽しみに興じて使命を忘れては本末転倒。我が力を戻すまで待っておれ………………小童どもぉ!!」


 叫んだ瞬間、湿地にチャクラ砲を撃ち込み巨大な水柱を起こす。



「目くらましか?瞬間移動されては追えんぞ!?」


「落ち着けよジョッシュ。あんたもわかってるだろ、瞬間移動は『連続使用できない』筈だ。………………ほら見ろ。真っ直ぐ空飛んでってるぜ!」


 シュウの指差す方向。その先にストレンジャーは飛翔しており、その向かう先は間違いなく合衆国技術研究院だった。



「追うぞ、今なら倒せるはずだ!」

「ああ、今度こそ息の根ェ止めてやるぜ!」


 2人も飛び上がり、高速でストレンジャーの追跡を開始した。






------------------------------------------------------------






 リタの二丁とセリアの一丁。計三丁の魔砲から次々と放たれる弾丸を、弾き、躱し、または斬り裂きながら徐々に2人に迫り来る影喰い。



「ホラホラ~?ただ撃ってても、当らないよ~?」


「黙れー!!」


より一層激しさを増しリタが連射する。

 流石にこれには堪りかねた影喰いは一気にリタとの距離を詰める。


「あんまりバカスカ撃たれてもさぁ、ボクも困るんだよねぇ?」


 咄嗟に眼前に迫る影喰いに、リタは魔砲剣に切り替え反撃をするが、あっさりと躱される。



「なっ…………当らないなんて………………がはっ!!」


「遅すぎるよ~♪」


 躱されてバランスを崩したところに、肘打ちと回し蹴りのコンビが叩き込まれ吹き飛ばされるリタ。




「リタ!!」


「次は君の番さ、セリア~?」




 もう主だった戦闘要員は片付けたと見ているのか、ゆっくりと舌舐めずりをしながら迫り来る影喰い。

ハルカはまだ混乱しており、とっくに表面上の傷は全て回復しているファンの体を治そうとし、ジレェ卿は以前意識が回復せず、リタも体を起こそうと頑張っているが、打ちどころが悪かったのか立てないまま。



 迫る影喰い。当然すぐ傍まで来たのなら、十中八九殺されるだろう。

 セリアは、動けなかった。だがそれは、恐怖によるものではない。


 セリアは、悔しかった。

 いつも守られてばかりで、結局自分以外の誰かが傷つき倒れていく。


 それでも何もできない自分が悔しく、情けなく、しかしわき出る恐怖は止めようがなく。





「(悔しい……みんな戦っているのに。いつもいつも私だけ………………。)」


 コツ……コツ……コツと影喰いの足音が近づく。


「(力が、力が欲しい。何だって良い……私にも、戦える力が!!)」


 半ば願うように、チョーカーの十字架を握り締める。









『………………力が、欲しいか?』


「(え?誰?誰の声?)」


『………………汝、力を欲するか?』


 セリアの頭の中に直接響く声。その声は男とも女とも形容し難く、若々しいようにも老いているようにも聞こえた。


「(力が………………欲しい。私は、みんなを守れる力が欲しい!!)」


『……封印は解かれた。…………娘よ、自らの手で、掴み取るのだ…………。』









「えっ?」


 セリアは気がつくと、あと数歩先というところまで影喰いが来ていた。


 セリアは咄嗟に魔砲を構え、その銃口を影食いに向ける。



「ぼ~っとしてたかと思えば、ようやくやる気になったのかい~?でもぉ、さっきから見てたでしょ?ボクには当たりっこないよ~?」




「(お願い、当たって!!)」


 セリアは引き金を引いた。


 その瞬間、セリアの脳裏に不思議な光景が広がる。








 脳裏に不思議な感覚が広がる………………。

だがそれは、いつも感じる“未来見”のそれとは似て非なるもの………………。

 見えるヴィジョンは、空間にいくつも浮かぶ“額縁”………………。

 額縁には、様々な大きさがあり、様々な絵が描かれている。………………。



 セリアは唐突に“理解”した。これらは“未来”なのだと。


 その額縁の一つをセリアは選択した。

 それは………………。








 セリアの銃口から放たれた銃弾は、真っ直ぐに影喰いに向かっていく。


「フフ、無駄って言ってるのがわからないのかい~?」


 影喰いは、もう何度目になろうかという“飛来してきた弾丸を剣で弾いて叩き落とす”という行為をする。

 大元であるジレェ卿の性能の為か、飛来する弾丸は超高速にも関らず、目に映るそれはゆっくりと見える。




「(つまらんな、またこれか?)」


 影喰いは心の中でそう思いながら剣を振っていた。


 だが、影喰いの目の前で、有り得ない事が起こる。



「(!?、どういう事だ!?)」



 剣に当たり、そのままあらぬ方向へ弾かれるはずの弾丸が、剣を“すり抜けた”のだ。


 そのまま弾丸は、影喰いの胸に吸い込まれ、



「ガっ………………どう、なってるんだ………………?」


 影喰いは倒れた。





「今、はっきりわかったわ。私の本来の力は未来を見るものじゃない……『リベレーション・トランセンデンス』。私は、未来を“掴み取れる”!!」





------------------------------------------------------------



 セリアの新たな力の覚醒を、リタははっきりと見ていた。いや、ひょっとしたら“そう見えた”だけなのかもしれない。


 セリアが銃口を影喰いに向け、引き金を引く瞬間、確かに見えたのだ。

 セリアのその背に純白の美しき翼が羽ばたいているのを。


 そしてその一片の羽が影食いにひらりと舞い降りた瞬間、影喰いに弾丸が命中していた。



------------------------------------------------------------





 影喰いだったジレェ卿の人形は、瞬く間に煙のように消え去った。それと共に、初めからそこに置いてあったかのように床に転がっているカードキー。


「(ファン姉さん………………敵はとったわ。)」


 もう黄泉への旅路についているであろう姉にそう告げると、カードキーを拾い、リタの元へ向かう。


「リタ、怪我は大丈夫?」


「私は平気よ。それよりセリア、さっきの何なの?天使みたいで凄く綺麗だったよ!」


「天使??……何の事かわからないけど、とにかくあれが私の本当の力みたい。」


「そっか………………私は大丈夫だから、ハルカさんのところに行ってあげて。多分、まだ茫然自失だと思うから。」


 リタに促され、ハルカの傍に駆け寄るセリア。


「ハルカさん、しっかりして!!」


「…………セリア?………………ファンが、ファンが………………私を庇って……死んじゃった……死んじゃったよ………………。」


 気が抜けたのだろう、ハルカは涙を流し、項垂れてしまった。



「ハルカさん。辛いけど聞いて?私たちは、もうあまり時間がないわ?だから、ファンさんみたいな人を増やさないためにも、私たちは前に進まなきゃ。……だからね、立って?」


「…………………………。」




 セリアの言に、驚いた表情で目を白黒させるハルカ。


「?、どうかした?」


「……ううん、ありがとう。セリア、何だか強くなったね。ファンがいるみたいで、心強いな。」


「そうかな?」


「そうだよ。あ~あ、何だかすっかり追い越されちゃったみたいで寂しいな。……でも本当にありがとう。セリアの言う通り、私たちは悲しいけど前に進まなきゃね?」


 そう言い、まだ泣き止まぬ顔で笑顔を作るハルカ。それに合わせ、セリアも微笑む。


 その時、銃声が木霊する。



「セリア!?」



 セリアが肩に銃弾を受けて倒れ込む。



「大丈夫、セリア!?………………何をするのよ、リタ!?」


「ハァ、ハァ、ハァ………………仕返しよ!そいつの所為で私は消滅しかかったのよ!」


「………………貴女、リタじゃないわね?誰?」





「あら、わからない?………………影喰いよ?」





「そんな!?貴女はセリアが倒したはずでしょ!?」


「ええ、そうよ。危うく肉体ごと消されるところだったからね、直前に命からがら離脱して、運良く気を失っていたこの体を乗っ取ったのよ。………………もう分かってると思うけど、私は肉体ごときちんと消滅させないと永遠に死なないわよ?」


 影喰いはリタの二丁拳銃を構える。


「どの道死ぬんだから、選ばせてあげるわ?貴女が死ぬ?それとも、そっちの厄介な女が先かしら?」




「………………させないわ。セリアは、私が命に変えても守る。そうじゃなきゃ、私を助けて死んでいったファンに申し訳ないもの!!」


 突如として胸元のペンダントが光り始める。



「何!?あんた何したのよ!?」


 警戒し、ハルカに銃口を向ける影喰い。


「知らないわ!!私だって、こんなの初めてだもの!!………………でもね、何となくわかるわ。この光は、あなたにとって都合の悪いもので、私たちには都合のいいものだって!!」


「フン、減らず口の続きはあの世で叩きな!!」


 影喰いが魔砲を連続で発砲する。




「(セリア、一緒に行けなくてごめん!………………ファン、私もすぐにそっちに行くわ!………………ジョッシュ、最後に、会いたかったよ。)」


 セリアをかばいながら、目をつぶり心の中で気になる人々に声を掛ける。


…………………………………………


…………………………


………………


………


 襲い来るはずの凶弾は、待てど暮らせど来なかった。





 ハルカは現状を把握するべく、恐る恐る目を開ける。するとそこには………。



白のローブを身に纏い、革の胸当てとサンダルを履き、羽つきの兜と篭手を身に付け、太陽のような紋章の入った円形の大きな盾を持ち、所謂ブロードソードと呼ばれる剣を携えた、ハルカ同じような体格の美しき女戦士が立っていた。

 女戦士の構えた盾が、全ての銃弾を防ぎきっていた。



『我はナザエル。人々に癒しを与え、魔を駆逐するものなり。………………大丈夫ですか、ハルカ?』


「ええ………………貴女は、一体?」


『お話は後です、ハルカ。今は目の前の不届者を成敗致します。……覚悟!!』


「くっ!!」


 突如現れた女戦士は、影喰いに操られているリタに向けて切りかかろうとする。だがそれを、ハルカは寸でのところで止める。



「待ってナザエル!!彼女を殺さないで!!」


『何故です?このモノは邪なる存在。滅ぼすべき敵です。』


「そうじゃないの!確かに今は敵だけど、ただ操られているだけなのよ!!」



『………………そういう事ですか。大丈夫です、心配は要りません。ハルカは下がって見ていてください…………………はぁぁぁぁ!!』


 女戦士は現状を把握すると同時に、それでもやはりリタに切りかかる。



「待って、ナザ……!」

「ハルカさん、待って。」


 セリアがハルカを制する。


「多分大丈夫。全然悪い未来が見えないもの。」





「く、このままやられるなんてゴメンよ!!」


 影喰いが魔砲を無闇矢鱈に連射するが、全てそれは盾に弾かれる。


『邪なるモノよ、その者の体から消えよ!!』


 気合一閃。

 間違いなく女戦士の振るうそれはリタの体を切った筈だが、リタには傷一つ付かず、黒い影が霧のように立ち上り、やがてリタは糸の切れた操り人形のように膝をがっくりと付き、倒れた。



『オノレ……我ガ滅ビヨウトモ、我ノ眷属ガ必ズ復讐シヨウゾ………………。』



 黒い影は不吉な言葉を残して霧散した。



「リタ、大丈夫!?」


 倒れるリタに対して駆け寄るセリア。リタが気がつくと、セリアが安堵したようにリタを抱きしめる。

 その様子を微笑ましく見つめる女戦士。



「ナザエル、貴女は一体誰?何故ここに?」


『ハルカ、私は貴女の“癒しの力”の源です。貴女がまだ幼き頃に、偶然私と繋がったのです。波長が似ているのでしょう。………………今私が現れることができたのは、貴女が戦う力を強く願ったからです。だから、私がそれに呼応して現れることができた。』


「じゃあ、貴女は“他の世界”の住人?」


『ええ。……これからも宜しくお願い致しますね、ハルカ。貴女が強く願えば、私は直ぐにでも馳せ参じましょう。では。』


 ナザエルはそう言い残すと、光の中に消えていった。



「これが私の力………………“次元接続”の力、なのね。」



 ハルカは呟き、自分の力であることを再認識する。だが、力の使い方は未だに分からず終い。

 自分でも訳がわからないままだったが、取り敢えず敵を退ける事が出来たことで良しとし、無理やりにでも自分を納得させる。



「ハルカさん、ごめんなさい………………助けてもらったみたいで。」


 意識を回復したリタが済まなそうに言う。状況を考えれば仕方がないことなのだが、この少女の責任感は強く、自分に責任を感じているようだ。

 そんな彼女を見るに見かねて、青い髪の少女は助け舟を出す。


「リタ、あなたのせいじゃないわ?全部あの影喰いが悪い話なんだから、お礼を言っても謝ることなんかないわよ。」


「そうよ、セリアの言う通り。リタ、体を見せて頂戴?………………うん、怪我はないみたいね。」



 そうしてリタの怪我の有無を確認したところで、金髪の男性がフラつきながら歩いてくる。どうやらジレェ卿が目覚めたようだ。


「ハルカ、君が助けてくれたみたいだね…………………………ファン?」


「ジレェ卿、実は………………。」



 セリアは一部始終をジレェ興に話した。



「そうか………………ファン、みんなをちゃんと守ってくれたんだね。ゆっくり休んでくれ、ボクの片腕。」


 ジレェ卿はファンの亡骸の前に跪き、暫し黙祷を捧げた。




「………………さて、ボクも怪我が治って先に進めるよ~……と言いたいところだけど、ボクもどうやらドロップアウトみたいだね。」


「ジレェ卿、どういう事です?」


「ハルカが怪我を直してくれて体中痛いところは一切無いんだけれどね、どうやら血を失いすぎたみたいだ。さっきから歩くのがやっとなのさ。だから、ボクはここらで失礼させてもらうよ………………君たちに、これを渡しておこう。」



 ジレェ卿はそう言うと、懐から三個の小さなガラス玉のようなものを、それぞれに手渡した。



「いざって時の脱出装置さ。それには古代魔術の“転移”が込められててね。それを力強く握ると、大議事堂まで一気に飛ぶから。どうしようも無くなった時に使って?君たちの命の方が大事だからね、そうなったらゲルは後回しだ。……一応みんなの分を一つずつ渡したけど、それは一つあれば周囲にいる人にも効力はある。必ず生きて帰ってくるんだよ?」



 そこまで言うと、ファンの亡骸を抱きかかえ、


「もし活路が見いだせたり、ボク自身も調子が戻ればすぐに駆けつけるよ!!」


 光の柱と共に、その姿は消えた。




 残された3人は、それぞれの顔を見合わせる。


「2人とも、準備は良い?」


「私はオッケーよ、セリア。」


「私も大丈夫よ。………………さ、扉を開けて進みましょう。」



 セリアの呼びかけに応じるリタとハルカ。


 扉の横にあるカードリーダーに先ほど拾ったカードキーを通し、扉を開ける。

 その先には一本の短い廊下が広がり、その奥には水密扉のような大きなハンドルがついた扉がある。



扉の前に立ち、ハンドルを回し、扉を開ける。

 その先には………………。




「ここは………………?」


 とても大きなドーム状の空洞が広がっていた。その最奥。台座のような場所に、それは鎮座していた。



「………………間違いない。これがゲルなんだわ………………。」



 そこには、赤いスライムのようなものが、脈打つように、透明の円柱に閉じ込められていた。






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