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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第三章 迫る絶望、見据える希望
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迫り来るモノ、迎え撃つ者

合衆国首都・エルスワフ。その一角にある小さな町………………否、町“だった”場所。

 そこは現在焼け落ちた家々が立ち並び、物言わぬ屍たちが死屍累々と山を築き上げていた。



「くそ、撃て撃てぇ!!奴を殺してでも構わんぞ!!」


 一斉に放たれる無数の弾丸。『魔法』で強化されたそれは、通常の銃弾よりも弾速も硬度もある。

 だがそれは、全て標的に着弾する寸前で静止し、あるいは弾丸が意思を持っているかのように逸れていく。



「フハハ、中々面白き弾であるが、我の念を通すには程遠い………………ハァッ!!」


 男が気合を入れて一喝するとともに、静止していた弾が全て跳ね返り、取り囲んでいた兵達に雨あられと降り注ぐ。




 ほんの数秒で、男……ストレンジャーは、自身をを取り囲んでいた兵士たち……『女神の朋友』私設軍を軒並み全滅させる。

否、一人残っている。先ほど命令を出していた男だ。恐らく隊長格といったところだろう。


「ああああ………………バカなぁ………………。」


 腰を抜かし、失禁している。



「フン、屑の大将か?懲りもせず我を捉えようとしているようだがそうはいかぬ。貴様も死ね………………否、気が変わった。貴様に選ばせてやろう。我に立ち向かい玉砕するか、この事を屑の親玉に報告するためにここからおめおめ逃げおおせるか。選べ、屑よ?」


「………………は?た、助かるのか………………?」


「そうだと言っている。我は気が短い。早く選べ。」


「はぁぁぁぁ………………い、生きて帰るぞ!!」



 そう言い、男は立ち上がり、一目散に逃げていく。が、



「!?………………え?」


 男は、背中を軽く押された感じがして、後ろを振り向くと、ストレンジャーがニヤニヤと笑っていた。

 ひやりとした感覚がし、下を向くと、腹部にぽっかりと穴が空いている。


 男はそのまま絶命し、倒れた。




「そのまま我に立ち向かうほどの気概を見せるのであれば消す順番を後回しにしたものを………………おい、見ているのだろう!!次は貴様らの番だ!!同じ種族内で上下や序列を付け、高みから踏ん反り返る愚か者どもよ、首を洗って待っておれ!!!」


 ストレンジャーは空に向かいそう叫ぶと、そのまま手をかざし、空に向けて閃光を放つ。


 数十秒後、赤々と燃える彗星が落下し、そのまま空中で塵と化した。



「つまらん。これほどまでに知能や技術が発達し、これほどまでに私利私欲の為にしか動かぬ生命体など見たことがない。さっさと力を戻して、星ごと消し飛ばしてくれる。」






------------------------------------------------------------





 ストレンジャーが私設軍を全滅させた時刻より少し前。

 合衆国のとある場所に、ある人物たちが集まっていた。その人物たちの視線は、部屋の中央にあるモニターに集中している。


 モニターには、紫色の髪をした人物が、次々と町を破壊し、人々を虐殺していく様子が克明に映し出されている。やがてそこに軍隊が到着し、戦闘が開始されるが、魔法によるレーザーは弾かれ、紫色の髪の人物が刀をひと振りするたびに、戦闘車両が次々と爆散する。

やがて歩兵部隊のみとなったが、それらの攻撃も焼け石に水。とうとう、最後の一人になったが、何やら会話をした後で、最後の兵が一目散に駆け出していく後ろから閃光が貫く。


 そして、その紫の髪の人物は、あろうことか今度はこちらを…………モニターの方を向いた。

 上空36000kmの高さにある、先程から監視している衛星に向かって何やら呟いたあと、手をかざし、光が溢れたと思った瞬間、モニターは砂嵐になり、何も映らなくなった。




「………………ス、ストレンジャーは、恐らくこちらの衛星の動きを把握。そして、破壊したと思われます………………。」


 研究員と思しき男が、人物たちに報告をする。有り得ない現実に、報告する者の顔は青ざめていた。



「馬鹿な………………奴は無敵か?」


「だから私は反対したのだ!同志がいなければこの計画は成功しないのだからな!」

「しかし同志はまだ戻られていない。我々で何とかするしかなかろう。」


「偉そうに………………元々貴様の子飼いが尻尾を掴まれたではないか?」


「それについては申し訳ないと思っている。だがな、面白い情報もあるのだ。現在五公家の一人、フリドリッヒ=ジレェが手勢を率いてストレンジャー討伐に向かっているとの情報がある。………………つまりだ。我々は、漁夫の利を獲れば良いのだ。ストレンジャーは死しても構わん。奴の一部だけでも手に入れられれば、それは大きな利益になる。」


「ほう、貴公も人が悪い。そのような情報があるならば、態々いらぬ犠牲を払わずとも済んだものを。」


「そうは行くまい。大統領の手前もあるのだ、我々も戦ったが適わなかった。この事実が重要なのだ。」


「ふむ、一理あるな。では今後は……………。」


「うむ。様子見で良かろう。何、大統領とて小娘よ。幾らでも言い訳はできるわ。………………おい、ストレンジャーが倒された場合に備えて、隠密性に優れた人員を用意しておけ。奴の細胞を回収するためにな。」


 その人物の傍に控えていた側近と思しき人物は、一礼した後姿を消した。



「期待しているぞ?ジレェと“子ら”よ。」






------------------------------------------------------------






「ここだね………………皆、準備は良いかな?」


 合衆国技術研究院の前。そこには、ジレェ卿、ファン、ハルカ、リタ、セリアがいた。


「事前に打ち合わせた通り、ボクとファンが前衛、リタは中衛、ハルカとセリアは後衛で行くからね。」



 ポーターで移動したあと、彼らは役割分担し、それぞれに分割して分かれることになった。

 今いる5人がゲル回収班。回収した後に、ハルカの力で次元の彼方にゲルを放逐する。

 残りの2人でストレンジャーを足止めする。

勿論、できるのであれば倒してしまうのがベストなのだが、恐らく完全に力を取り戻していない今の状態でも大分厳しいはずなので、残りの力の部分である“ゲル”を異空間に放逐することでストレンジャーの力をそれ以上伸びないものに抑え、その状態で総動員で倒しにかかる、という筋書きである。



 ただ、この筋書きは難点がある。

 まず、ストレンジャーの現在の力量が計算以上だった場合。要するに、ジョッシュとシュウの2人を以てしても手も足も出ない場合。一応、それに備えて残りの五公家にもスタンバイしてもらい、女王にも報告済みではある。だが、前回のストレンジャー捕獲の際の最大の尽力であった“魔族太閤”が現在行方不明であるため、かなり厳しい展開になり、最悪ガイアの生命体は全滅するだろう。

 過去にストレンジャーを捕獲する際、当時一切のハンデを背負っていなかったストレンジャー相手に、たった一人で互角以上の戦いを魔族太閤は繰り広げ、そこで弱まった隙を突き、人間たちと魔族たちでようやく封印できた代物なのだ。


 もう一つの問題点こそが、現在抱えている問題。ゲルの捕獲に来たのは良いものの、そこの守りがあまりにも堅かった場合である。当然、ストレンジャー移動中の情報は研究院にも知れ渡っているだろう。重大な国家機密であるゲルは、普段から守りは堅いはず。それがより一層強化された状態で、しかもストレンジャーを想定して強化された守りを突破できるのかという問題がある。

 そこで、当初前衛にファンとリタが名乗り出たのだが、ジレェ卿はこれを却下し、自らが前衛に出ると言ったのだ。

 ジレェ卿が戦う姿など見たことも聞いたこともなかったので、総員で反対したのだが、


『女の子に前に立たせるなんてマネは流石にできないよ?大丈夫、ボクもそれなりに腕に覚えはあるからさ♪』


 とのことで急遽この陣形が組まれた。





「よし、突撃!!」



 ジレェ卿の声を合図に、入口に素早く侵入する5人。

細長く続く廊下の先には、一枚の扉が見える。


 と、その扉が機械音とともに開き、中から銃を持った兵が4人出てきた。

 前の2人の兵士がしゃがみ、後ろの2人の兵士が立ったまま、4つの銃口がこちらを向く。

 ここは廊下の中間地点。戻るには時間がない。当然、逃げ場などない。


「(ヤバい………………そのはずなのに、未来が見えない?)」


 いつものパターンならば危険が迫れば直ぐにでも未来が見えるセリアだが、今回はそれも見えてこない。しかし、その答えは直ぐに出た。




「みんな、ボクの後ろに隠れてて。リタも援護する必要ないよ。」


 ジレェ卿が一歩前に出る。その両手には、いつの間にか一本ずつ細身の西洋剣が握られている。ジレェ卿が柄のあたりのボタンを押すと、キィィィィンという甲高いモーター音が響き始めた。



「撃て!!!」



 狭い通路内に放たれる無数の弾丸。だがそれは、一発たりとも前に出たジレェ卿の後ろに到達することは無かった。


「ほいっと!」


 ジレェ卿が妙な掛け声を上げるとともに、その場で目にも止まらぬ疾さで回転し始め、竜巻の如く弾丸を斬り刻み、そのまま兵士たちの目の前まで移動し、瞬きするほどの速さであっという間に敵をなます斬りにしてしまった。

 ご丁寧に、兵士たちが持っていたライフルまで細切れである。



「ふふ~ん、ボクの剣技はねぇ“原初の竜”仕込みだからねぇ?………………さ、次が来る前に行こうか?」



 唖然とする4人を尻目に、さも当然という感じで歩き始めるジレェ卿。


「嘘………………あんなに強かったなんて…………………………。」


 そう言ったのはファン。彼女こそジレェ卿とともにいた時間が一番長かった人物である。

 そこにリタが以外と言った感じで質問をする。


「見たことなかったの?」


「ないわ。前に過激派のテロリストに襲われた時も、ビビって私に頼ってたもの…………お芝居だったのかもね。」


「私たち、必要なかったんじゃないかしら………………?」


「うん、特に私は必要ないかも。さっきだってやばかったのに、全然危ない未来が見えなかったもの。」



 そんな会話をしながら、先へ進んでいくジレェ卿の後を4人は追っていった。






------------------------------------------------------------






 場所は変わって、エルスワフの北西側に位置する湿原地帯。そこに、黒金の青年と白金の青年はいた。



「本当にここを通るんだろうな?通らなかったら俺ら完全にピエロだぞ?」


「通るだろう。奴は馬鹿の一つ覚えのように直進し続けているようだからな。このままいけば必ず………………来たようだな。」


 ジョッシュの言葉に前方を見ると、遠くから火柱が上がり、黒煙が立ち上ってきている。



「どこ壊してるんだ?この辺に壊すものなんかないだろ。」


「全生命体を標的にしているのなら意味はあるだろうな。植物も昆虫も標的になってるならな。」


「宇宙一派手な虫の殺し方だな……………よお!!散々俺を使ってくれたお礼しにきたぜ!!」


 ストレンジャーは2人を前にして、その表情を暗い愉悦そのものに変える。


「ほう………“半身”に“眷属”が出迎えてくれるとはな。楽しみは後にとっておきたいが………………どうする?片方ずつか?それとも両方まとめて掛かってくるか?」


 挑発的なストレンジャーの言葉に対し、


「悪いが騎士道を気取るつもりはない………………。」


 ジョッシュが『黒金』を構え、


「2対1でボコボコにさせてもらうぜ?」


 シュウが『白金』を抜く。




「フ……フハハハハハ!!!“あの時”以来ぞ。血が滾るわ!!………………我こそは超常の使者也。………………小童どもよ、参れぃ!!」



「はぁぁぁ!!」

「うおおお!!」




 チャクラで強化された速力で、瞬時に間合いを詰め、シュウが正眼に一刀を振り下ろす。


「フン、そんなもの………………ぬぅっ!?」


 軽くいなそうと片手で刀を構えて受けたストレンジャーは、通常では有り得ないその“重さ”に吹き飛ばされる。




「驚いてる場合か?」


「ぬ!?貴様………………。」


 吹き飛ばされた先には既にジョッシュがチャージされた魔砲を構えていた。先端のアタッチメントは“スプレーガン”に切り替わっている。


「シュウ、巻き込まれるなよ!!」

「わかってる!!」


 『スカイバット』で即座に高速で逃れるシュウ。


「呆気なかったな、ストレンジャー?………………『千之槍雨せんのやりさめ』だ。くたばれ。」


「ぬおぉ!?」


 拡散した『槍』がストレンジャーに降り注ぐ。






 空中からジョッシュの傍に飛来するシュウ。


「スゲェ威力だな。食らってくれてんじゃねぇか?」


「だといいがな。お前の一撃で吹き飛ばされて油断したところに撃ち込んだからな、瞬間移動で逃げてる暇はなかったと思いたいが………………。」




 立ち上る土煙がやがて晴れ始める。

 そこには、忌々しげに表情を歪めながら周囲に障壁を張って防御しているストレンジャーがいた。


 だが、無傷とはいかなかったようで、頭部から一筋の血が流れていた。



「あれでやっとカスリ傷かよ!?」


「だがされど一撃だ。奴も無敵じゃない事がわかっただけで収穫だろう。」



「餓鬼共がぁ………………捻り潰してくれるわ!!!」


 “余所者”対“黒金の銃士”“白金の剣士”。

  その戦いはまだ始まったばかりだ。





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