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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第三章 迫る絶望、見据える希望
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蘇る力、終わりの始まり

ストレンジャー”。それは、あまりにも皮肉な名前。

 その意味は、遥か遠い遠い宇宙の彼方、別の次元からやってきた“余所者”。


 それは、宇宙が生まれ、いつの間にか宇宙に存在していたもの。人ではなく、物でもなく、況してや名前などない純粋な概念のみの存在。いつ生まれたのかはわからないが、宇宙によって生み出された“使者”。


 故に、そこに他の概念は重ならず、純粋に使者は“声”を聞く。



 宇宙は膨張する。しかしそれは無限ではない。

宇宙とは、データバンクである。無数の情報がそこには記録されており、その貯蔵量が現存量を上回るたび、宇宙は膨張をし続ける。しかし、無限ではないものには必ず限界が来る。


 意思のない意思とでも言うべきか、宇宙は自信が限界を迎えた場合、選択肢が2つある。1つは、そのまま限界まで膨張を続け、そのまま許容量を超えて消滅すること。もう1つは、膨張の原因である“情報源”を削除することで、データ容量に余剰を持たせることである。

 後者の選択肢を複数の宇宙が選んだ結果、“使者”は生まれた。


 生み出された使者は、“声”を聞く。それは、宇宙の声ではない。銀河や星系が、宇宙に影響を及ぼす前に自ら“声”を発するのだ。

 それに導かれ、使者は現れる。


 使者は、声に従い、その銀河や星系の知的生命体を……膨大な情報源を全て“削除”する。だが、宇宙も無闇矢鱈にいらぬ情報として一斉に抹消するわけではない。必要な情報は汲み取り、格納する必要がある。“使者”は、趣いた銀河の重要と判断できる情報のみ汲み取り記憶する。それは、コンピュータで言うところのストレージと同様だ。


 あらゆる宇宙に使者は存在し、それらは知的生命体に対しての生殺与奪の一切の権利を持つ。だが、希に使者が存在しない宇宙が存在する。その宇宙は、許容量が途轍もなく広いが故に、情報の消し方を知らない。前述の“黙って消滅を待つ宇宙”が、これである。


 しかし、宇宙の意思と銀河星系の意思は必ずしもイコールではない。だから銀河は“声”を出し続けた。それこそが、“ストレンジャー”と呼ばれるものが“ガイア”に飛来してきた理由である。



 このままいけば、知的生命体には滅びしか待つことはない。ところが、それを阻む意思もまた存在する。

 それらは決して“声”を出さず、少しづつ準備を進め、“使者”に対しての“抗体”を作り出す。

 その抗体は時に、宇宙や銀河星系の意思を超え、使者を退ける事がある。



 それらが、この世界の宇宙の原則である。

 現在、ガイアには“使者”と“抗体”が揃っている。

 使者が使命を全うするか、抗体が種を存続させるか。

 その結果は、神のみぞ知るところであろう。






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 王国と合衆国、そのどちらにも属さぬ『商業都市』。そこから北方のひたすら陽炎立ち上る砂漠地帯。そこにストレンジャーはいた。


 気温は既に40度を超え、恵みを与える太陽の光も生命を脅かすものとなってしまっている中、汗をかくこともなく、虚空を見つめたまま立ち尽くしていた。






 どのくらいそうしていたのだろうか。ゆっくりと動き始め、それはやがてしっかりとした足取りで歩き始める。その方向の遥か先には、合衆国がある。



「やはり滅びるべきは我にあらず、“ガイア”の知的生命体にあり。否、星そのものを破壊し尽くすのも悪くはないか………まずは我の半身を探そうぞ。」



 ストレンジャーは一人呟き、そのまま進みだす。

“岩石”と融合しその力を吸収したその姿は今やシュウと瓜二つではなく、腰のあたりまで伸びた髪は紫に変化し、瞳の色は深々と蒼く、その肌は褐色になっていた。


「転移しても悪くはないが、このような殺風景な場所とてヒトはいるやもしれぬ。小さなゴミも片付けるが我が生の成す意味よな。」


 ニヤニヤと暗い笑みを浮かべながら、彼は合衆国へ向かっていった。






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 ストレンジャーが動き出した頃、セリア達はホテルのロビーに集合していた。


「みんな、昨日は休みをエンジョイしたみたいだね~?良かったよ。………………で、早速だが本題に入らせてもらうよ?今朝、ストレンジャーが動き出した情報が入った。だから、ボク達は直ぐにでも大議事堂のポーターから合衆国に移動するよ。準備の方は大丈夫かな?」


 皆それぞれが一様に頷く。


「結構。でさ、それに当たってボクから皆に幾つか道具を用意させてもらったよ。まず、ジレェ公国特製の全員分のライフスーツだよ。」


 一見すると薄いボディスーツのようなものだが、あちこちに収納があり、手足と頭以外はすっぽりと全身を覆うようになっている。


「こいつは優れものでね、摘んだり優しく掴むとペラッペラなんだけどね、例えばこいつにデコピンすると………………。」


 ゴツン、という硬い音に変わる。先ほどの生地の材質では絶対に有り得ない音。


「衝撃吸収反発性分子で編みこまれたスーツなんだ。ボクの説明が終わり次第、みんなこれを服の下に着ておいてよ。フリーサイズだから、どれを取っても大丈夫だからね。」


「耐熱性や防寒はどうなんだ?」


「良い質問だねぇ~。勿論、そのあたりも抜かりなしだよ?」


「ほう……。」


 ジョッシュはジレェ卿の返事を聞き、満足そうに返事をする。


「で、次はぁ……ジョッシュ、これは君に。」


 そう言いジョッシュに手渡したもの。

機械じみた無骨なデザイン、それは意匠こそ違うものの、『魔砲』だった。


「これは?」


「君専用に作らせた魔砲、『黒金くろがね』さ~。これまでの君の使っていた魔砲に比べるとチャクラの変換効率が533%……早い話が5倍以上になっているからねぇ、今までの5分の1のチャクラの消費量で発射することができるのさ。それにねぇ、グリップの部分に青い結晶体が3つ象眼されているだろう~?そこに『槍』をストックチャージしておけるようになったから、あらかじめチャージしておけば連続で撃つことが可能だよ~。あとはねぇ、魔砲剣を使うときはグリップが可動して本当に剣を握るように持てるようになってるよぅ。」


 ジョッシュは驚いた表情で、それを手に取り見つめる。銃口の先端に回転するアタッチメントのようなものが取り付けられている部分に注目している。


「ご要望にお答えして取り付けた『スプレーガン』さ。アタッチメントを回すと切り替えられるよ?『ショットガン』との違いは、拡散半径は狭いけど、拡散した弾には貫通性能があるって事。そして、その機能は『槍』にも適応されるって事。」


「……ジレェ卿、ありがとうございます。」


 黒金をホルスターに収め、元々持っていた銃を懐にしまう。


「さて次~。シュウ、君にはこれだ。」


 そう言うジレェ卿が手渡したもの。それは、白木拵えの一振りの刀だった。

 受け取るなりシュウは刀を鞘から抜き、刀を眺める。磨きぬかれた美しい刃紋が輝くその刃は白く、反射した光は雪のようにも氷の粒のようにも見える。


「その刀はねぇ、『白金しろがね』って言うんだ。君の刀ってさぁ、見せてもらったけど殆ど只の刀と変わらないじゃない?だからねぇ、ちょっとした機能を付けさせてもらったよ。その刀はね、君が望めばその“重さ”を変えることができる。…………刀の切れ味に遠心力と重さが加わる。……その気になれば、分厚い岩盤も真っ二つじゃないかな?」


「おお………………有り難く使わせてもらいますよ、ジレェ卿!」


「ふふ、喜んでもらって何よりだよ~。」


 流石技術開発省と言うべきか。次々と新兵器が出てくる。まだまだありそうだ。


「お次は、リタの魔砲さ。はいコレ!」


 出てきたのは、リタが本来使っているものと殆ど変わらないが、色が青いラインがグリップに付いたものと、もう一方は緑のラインがグリップに付いたものになっており、双方ともバレルが長めになっていた。


「リタ、君の魔砲に関してはジョッシュからも意見を聞いてねぇ、使い方がとっても上手らしいじゃない~?だからねぇ、君のもチャクラ変換効率や魔砲剣変形機能はジョッシュのものと同じようにした上で、応用力を上げさせてもらったよ?」


「どういうことですか?見た目と長さが変わっただけで、あまり違ってない気がするんですけど……?」


 リタの返答に対して、ふふふと企みの笑みを浮かべるジレェ卿。


「そう、一丁ずつだと今までの若干のパワーアップ版でしかないんだけどねぇ、…………何とその魔砲は合体するので~す!」


「…………………………。」


「あれっ?驚きと感嘆の声を得るはずだったんだけど………………何だか反応が悪いから次行こうかなぁ。」


 リタとしては続きの説明を求めていたつもりなのだが、驚きのリアクションを求めていたようだ。拗ねて説明をしようとしないジレェ卿を見て、リタは慌てて取ってつけたように、


「………………凄い!そんな機能があるなんて!?驚き過ぎて言葉が出ませんでした!!」


「ふふふ、そうだろうそうだろう?でね、その機能は………………。」



 説明する気になったようだ。面倒くさい中年である。


「まず、緑の銃のバレルの先に青の銃を横にして、後ろから差し込んでもらえるかなぁ……そうそう、そんな感じで~。そしたらホラ、バレルが伸びて緑の銃の上にスコープが出てきたでしょ?その状態が“スナイプモード”。二丁の銃の出力を凝縮させて、貫通力の高いチャクラビームを撃てるんだ~。君の腕前なら、百発百中じゃなぁい?」


 これにはリタも今度こそ真面目に驚き、周囲も感嘆の声を上げる。


「でね、それはそれぞれの銃のグリップを持ちながら引っ張ると簡単に外れるからねぇ~。あ、リタしか脱着できない仕様だから心配しなくて良いよ?で、今度は逆に青の銃のバレルの先に緑の銃を横にして差し込んで……そうそう。ちなみに横にするのは左右対称になってるでしょ?これはあらかじめ、君が緑を右手に青を左手に持つことを想定してるから勘弁してね~?」


 そうして逆に合体させたもの。今度は先端側に来た緑の銃のバレルが拡大する。


「それは“ナパームモード”。所謂炸裂弾さ。弾を撃ち込んだ箇所から円形に爆発が広がってある程度持続するんだ~。って言っても精々人一人分程度の範囲だけどねぇ。あぁ、ちなみにどっちのモードも連射はできないからね?次弾発射までにタイムラグがあることを覚えておくんだよ?」


 リタは黙って頷き、しばらく己の両手にあるそれを見たあと、腰のホルスターにしまった。



「次はハルカ!君のが正直一番苦労したよ~。」


 そう言い出てきたのは、ネックレスに大きな宝石のようなものが取り付けられたもの、俗に言うペンダントのようなものだった。


「………………みんな武器なのに、私にはアクセサリーですか?」


「おおう、冷たい反応………………。それはね、君の能力を助長するものなんだよぅ。」


「助長?………………“次元接続”の!?」


「わかってくれたかい?元々ここと異なる次元を繋ぐ、なんていうのは実に不安定なものだっていうのはボクらの研究でもわかっていることでねぇ。でも今までのパターンでいくと、ジョッシュやシュウなんか例外だとして、ストレンジャーの能力を一つだけ受け継いでいるファンなんかは特にそうだけど、そこに特化していくように能力は進化していってる。君ももしかしたらそうなるんじゃないかって思ってね?」




 そう。ストレンジャーは確かに“生成”していたが、それは自分自身の分身であり、ファンのように他者を生み出す事はしておらず、またストレンジャーは次元跳躍をすることでテレポートをしていたが、それはあくまで同一次元の同一時間軸のみに限定されている。それがストレンジャーの能力の全力であるならば、という条件付きではあるが。



「だからねぇ、考えたんだよ。ハルカの能力はきっと“別次元の同一時間軸”に接続するんじゃないかってね?だから、そのペンダントは異次元の扉を開けた際に、本来ならば“ゆらぎ”によって安定しない異次元の扉を、量子的に安定させる役割を持ってるんだ。……そもそものメカニズムが違っていたらそれは無用の長物なんだけど、一応持っておいて?何かの役に立つかもしれないから。」


「はい、ありがとうございます。」


「さて、ファンの分はもう直接渡してるし、ボクのはもう自分で持ってるからぁ、これで全部かな~?」





「あ、あの私は!?」


 流れ的に全員に何かしらあると踏んでいたセリアが思わず突っ込む。ここまで来て自分だけ仲間はずれというのは、かなりテンションが下がるだろう。



「うそうそ♪ちゃんと用意してるよ………………はいっ!」





 手渡されたのは、象形文字のようなものが掘られている、斑模様の十字架の首飾り……チョーカーだった。



「それね、ストレンジャーと一緒に飛来してきたんだって。その模様ね、塗料じゃ無いんだ。そういう物質なんだよ。色々解析したけど、それが何のための物かはわからない。ただ分かっているのは、それはストレンジャーの岩石と同じ成分でできているってことと、君と同じ波長が検出されているって事だけ。………………きっと君が持つことで、何かしら意味があるんじゃないかな?」




「………………後は?」


「えっ?」


「これ以外は?合体する銃とか、よく切れる刀とか、能力をパワーアップするとか、私には何もないんですか?」


 セリアの反応も無理もない。何せ他のみんなのものはジレェ卿のテクノロジーで作られているのに、自分だけオーパーツのようなものを渡されたのだ。しかし、ジレェ卿の反応は違った。



「セリア、確かに確信はないけどね?ボクが思うに、それは君にとっての最大の武器であり、ストレンジャーに対するキーに成りうる物だ。長年色々研究したり見てきたけど、そういうボクの目は確かだと自負している。大丈夫さ、君のことはボク達が全力で守るから。ね、みんな?」


 次々に頷く仲間達。その視線を受け、セリアは首を傾げながらチョーカーに付けられた十字架を握り締めた。




 その瞬間。セリアの脳裏に忘れていた感覚が蘇る。







 現実を捉える視界とは別に、脳裏に“あの感覚”が広がる………………。

 その感覚は、以前より違和感なく、すんなりと広がっていく………………。

 目の前にいるストレンジャー。それと対峙する自分たち………………。

 間違いなく、“未来”のヴィジョンだった………………。






「ああ………………見える…………………………見えるわ。」


「セリア………………もしかして、力が戻ったのかい?」


 セリアの反応に、ジレェ卿は確認する。



「はい。私たちは、ストレンジャーと戦います。その時は、全員揃っている。誰も欠けていません。」



「………………セリア、俺はお前が未来を見る様子を直接見る機会はほとんどなかったんだが、“目”は大丈夫なのか?」


「目?何の事?」


 ジョッシュがセリアに起こった変化について尋ねる。

セリアが未来を見ていたその時、セリアの瞳は深い青色ではなく、七色に変化していたのだ。

 その説明をジョッシュから受けたセリアは、


「特に目に違和感は感じなかったわ。寧ろ、前よりも未来がすんなりと見える感じがした。違和感が何もなかったの。」


「う~ん……その十字架がキーになってセリアの力が進化したのかもねぇ?ま、取り敢えず君にそれを渡したのは正解だったってことだねぇ。………………取り敢えず、これで君たちに渡すものはオシマイだよ。さぁ、準備が出来次第出発しようか?」



ジレェ卿がそう締めくくると同時に、ホテルのロビーに血相を変えて一人の男が飛び込んでくる。ジレェ卿の近衛兵の一員だ。



「申し上げます!ストレンジャーが現在合衆国に到達。街を破壊し、人間たちを殺しながら、真っ直ぐ合衆国技術研究院に向かっているそうです!!」



 その場に一気に緊張が走る。


「ご苦労様。引き続き監視を頼むよ。危なくなったら逃げて構わないからね…………………………というわけだ。皆、大至急準備を済ませて直ぐに出発するよ。良いね?」



 間もなくストレンジャーとの決戦が始まろうとしていた。





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