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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第三章 迫る絶望、見据える希望
21/37

敵か味方か、見えぬ目的




「………………この辺りにいたはずなんだが………………仕様がねぇ。やるか。」


 シュウはセリアを探しに戻ってきたが、ここにはセリアは居ないようだ。

 シュウはしゃがみ込むと、道路に両手を当て、意識を集中する。



 様々な人物がその道路上を歩いている…………………………。

 一番新しい“記憶”には、4人の姿。2人は双子のようで、そのうちの片方は背中に誰かを背負っている…………………………。

 双子の片割れは、何やら隣りの青いポニーテールの人物に話しながら移動している…………………………いた!セリアはこれだ!!



「…………………………あのでかい屋敷の中か!待ってろ、セリア!」



 彼は『ユニバース・エンプロイ』の1つ、『スクープ・オン』を使った。『物質の記憶を汲み取る』所謂サイコメトリーと呼ばれる能力だ。



 シュウは一目散に屋敷に向かって駆け出していた。






------------------------------------------------------------





「………………どういうことだ、誰もいない?」

 ジョッシュは、シュウより一足早くジレェ邸に辿り着き、その内部に侵入していた。

 しかし、いつもならあちこちにいる給仕も、時折見回る警備も、誰も彼もが姿を見せず、不気味に静まり返っていた。


「(残るはここだけ、か。………………誰か先客がいるようだが。)」


 ジョッシュはあらかた探索を終え、ジレェ卿の執務室の前に居た。しかし、その扉は開きっぱなしの状態。

 中に誰かがいることを想定し、銃を構え中に入る。






 中には、誰も居なかった。


「(誰もいない………………だが、何か手がかりがあるかもしれない。)」


青年は探索を開始する。

本棚や文書箱を漁るが、何もそれらしきものは見つからない。


 探索場所をデスク周辺に絞込み、捜索を続ける。


「っ………………ん?」


 デスクの上のコンピュータに肘をぶつけてしまった。しかし、その衝撃のせいか電源が入る。幸い、ログイン済みで中身を閲覧可能な状態にあるようだ。



「(ついてるな。コンピュータなら俺の得意分野だ!)」


 キーボードやタッチパネルの上を、滑るように動いていく指先。

 次々とプロテクトを外し、程なくして最重要資料を発見する。



 それを開く。………………パスワード認証画面は出ず、そのまま展開が始まる。



「…………………………これは!?」


 そこには、驚くべき内容のデータが記されていた。


------------------------------------------------------------


◎アンチストレンジャープロジェクトについて



 本計画は厳重な管理下の元秘匿し、一般には口外せずに進める必要がある。一部ではあれど、人魔に共通して恐怖を与えたストレンジャーの恐怖を再び蔓延させぬための必要措置である。


 当初、人間側のたっての希望により、生物ベースと鉱物ベースに分かたれたストレンジャー。ストレンジャーの本体は鉱物ベースであり、それを魔族側で研究しつつも厳重保管することで、本体を押し止めようとしたが、時は既に遅く、生物ベースとして抽出した赤いゲル状のものに本体は既に移行しており、鉱物ベースはもぬけの殻であった。

 私はこの事を人間側に提唱したが、彼らは言う事を聞かず、結果としてストレンジャーの亜種である、生体No.03ジョッシュ=ドーブレンと生体No.04シュン=クルオスを産み出し、その結果、ゲルからも生体反応がなくなる、即ちストレンジャーに肉体を与えて封印から解き放ってしまうという大失態を犯した。


 それ以降、私は人間たちの研究所に赴き、唯一の対抗策として、2人の生体サンプルを作り出す事に成功した。生体No.07リタ=オーランド、そして生体No.X01セリア=リッチモンドを作り出した。


 この2人を作り出すきっかけとなったのは、全くの偶然であった。ゲルを調査するうちに、ゲルがこちらを見透かしたような反応をすること、そして、実験の結果損傷した傷の修復の仕方が2パターンあることが判明し、それについて追跡調査及び研究を進めた。その結果、後者は時間を巻き戻し、前者に至っては学習していたのではなく時間を先読みしていたとしか思えない結果が出た。

 興味深いことに、これらの事象はストレンジャーの意思が残っているあいだは一切見られなかった現象であり、まるでゲルそのものが、ストレンジャーの意志がなくなったことをきっかけに進化したかのようだった。


 そうして抽出されたあらたな能力素“時元素”を受精卵に混ぜ合わせた結果、彼女たちだけが唯一『時間』という概念を用いた能力を使用することができ、万が一ストレンジャーがどれほど力を付けて無敵であったとしても、リタ=オーランドが時を戻してやり直し、セリア=リッチモンドが確定された未来事象を観測することで、ストレンジャーという宇宙から来た人類最大の災害に対する最大の切り札を人類は得ることができた。


 だが計算外だったのは、教会を管轄している人間側で意見が割れ、その結果として管轄側は過激派組織『女神の朋友』の手に落ちてしまい、私は一切近づけなくなってしまったこと。そして、まだストレンジャーが見出していない可能性として作り上げたカウンター、彼女たちがその能力を成長させるのと同様に、2体のストレンジャー亜種たちも日進月歩で成長を続けているということだ。


 そして嬉しい誤算として、彼女たちの姉替わりである生体No.01ファン=イジェンが自ら協力を申し出てくれた事、そして同じくNo.02ハルカ=サエガミもまた協力を申し出、彼女たちの体を調査したところ、ストレンジャーと同様の能力として能力素を持っているファン=イジェンは、ストレンジャーのそれとは全く違う方向性に能力を“進化”させていた事。更に、ハルカ=サエガミの能力に関しては、我々然り人間然り、何らかの方法でその能力の結果を簡単に再現できるものだが、驚くことにハルカ=サエガミの能力は“治癒能力ではない”可能性が高い。彼女は癒す力を、“どこかから”己の体という媒体を使い使用しているに過ぎなかったのだ。

 ハルカ=サエガミの能力に関しては、引き続き調査及び研究を要するものとする。




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「………………成程な。ハルカの人形が俺を襲ったのは、そう言う事か。」


 青年は、特に慌てることなく納得する。

 シュウから話を聞いていた事もあり、自分が特殊な事情の元で産まれてきたことは既に承知していた。

 だがそれでも、話の真相を聞かなければならない。


 彼は尚も端末を操作し、手がかりを探す。



「(……この部屋の見取り図か。どうやら隠し部屋があるようだな。………………ここか。)」



 彼は隠し部屋の部分、そこをチャクラを練りこんだ踵落としで蹴り砕く。



「………………行くか。」





------------------------------------------------------------





「やぁセリア~、久しぶりだねぇ~?」


「えぇ、お久しぶりですジレェ卿。ハルカさんや私やリタをどうするつもりなの?」


「ん?…………………………ファン~?何も説明してないのぅ~?」


「…………………………済みません、咄嗟だったもので。」



 何やら様子がおかしい。どういうことだろう。


「セリア。ボク達は敵じゃないよ?本当の敵は、ストレンジャーであり、『女神の朋友』たちさ。現に、この騒ぎに乗じて、女神の朋友からスパイ兼戦闘員がちょろちょろしててね、国民も部下も使用人も、みんな大議事堂に避難させてるよ。通行人見えたのは、多分皆スパイたちの変装だったんじゃないかな~?」


「じゃ、じゃあリタは何で……?」


「私のせいよ、ごめんなさいセリア。私はスパイたちを一掃するために、沢山の人形を作って街に放っていたの。『怪しい奴は片っ端から気絶させろ』って命令を加えてね。」


 訳がわからなくなってきた。何を信じればいいの?


「ほらほらぁ、セリアが困ってるよぉ~?ファン~?」


「ごめんなさい!警戒されてるから、あの方が手っ取り早いと思ったんです。」


「君は優秀だけどぉ、気が短いよねぇ~?」


 そんな会話を聞いていると、カプセルの中にいたハルカさんが、ごぽりと息を吐きながらこちらを向いた。


「ハルカさん!?大丈夫!?」


 私が聞くと、ハルカさんは笑顔で人差し指と親指で丸を作り、残り三指は自然なままこっちに向けた。

 どうやら大丈夫なようだ。


「………………ここまで、良く辿りついたね?本当は色々と手伝ってあげたかったんだけど、ボク達も結構忙しくてね?」


「………………ほ、本当に、敵じゃ、ないんですか………………?」


「ボク達は本当に味方だよ。………………但し………………。」



 ジレェ卿と会話をしていると、後ろの方の扉が機械音を立てて開き、



「………………俺とシュウは別、なんだろう?」


 ジョッシュさんが現れた。





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「ジョッシュさん、どういう意味?」


「言葉のままだ。セリア、俺に電話をくれた時があっただろ?その時の話を覚えているか?」


「…………あっ!?」


 そう。あの時はジョッシュさんが一緒に随行していたハルカさんの偽物に襲われていたのだ。



「………………済まないけどねジョッシュ。ボクは君の人となりは好きなんだけど、残念ながら君の危険性まで容認できないのさ?」


「知ってる。あんたの端末の中身を見させてもらったからな。」


「なら話は早いね?ボクとしてはさ、是非とも君とシュウには共倒れて欲しいところなんだよね~。」



 その言葉に、培養槽の中のハルカが反応する。


「ごめんねぇ、恥ずかしい格好させてる上に君抜きで内緒話しちゃってさぁ。でもね、君の能力も相当特殊だからねぇ、もしそれが制御不能で危険なものなら…………なんてね。そんな事は流石にしないけど…………………………ん?解析が終わったようだね。」


 ジレェ卿はこちらの事などお構いなしに、端末を操作し始める。

 するとカプセルの中にハルカが飲み込まれ、培養液ごと姿を消した。


「貴様!ハルカをどこへやった!?」


「ジョッシュ、落ち着き給えよ?君はレディを丸裸のまま外にほっぽり出すつもりかい?ボクは紳士だからねぇ。彼女は今頃更衣室について、シャワーを浴びて着替えて出てくるはずさ。」


 激昂仕掛けたジョッシュさんをやんわりと止めるジレェ卿。このあたりは流石に年の功というべきか、いなし方がうまい。

 言われたジョッシュさんも、おとなしく引き下がる。



「う………………ここは?」


「リタ?目が覚めたのね?」


 リタが目覚め、そして、ガシューンという扉の機械音と共に、




「セリア、無事か!?」


「シュウ!!」


 シュウも合流した。

 これで、今生き残っている孤児院メンバーが全員この場に集結したことになる。



「さぁってと、集まってもらったところで………………みんな大体の話は知ってるんだよね?じゃあさ、ジョッシュとシュウ、ちょっと来てもらえるかな?」



 2人とも言われるがままジレェ卿に近づいていく。


そして、次の瞬間。

 



「っ!?」

「なんだ!?」


 二人は、足元から出てきた頑丈そうな鋼鉄のシャッターに覆われ、姿が見えなくなった。



「何すんのよ!?」


 リタが反論する。


「リタ、悪いね。でもさ、これは別に彼らに対して危害を加えるものじゃないから。…………大丈夫さ、それを彼らに知らせるための措置も……………。」




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 突如足元から飛び出してきた鋼鉄の板に挟まれて、四方を囲まれた2人の青年。


「チッ、油断したな………………。」

「かなり頑丈だ。出られそうにないぞ?」


 青年たちは、2畳程度の広さの空間に閉じ込められてしまった。

 だが、四方の壁のうち、一面だけ黒く塗りつぶされた窓のようなものが有り、張り紙がしてある。


「なになに?『この施設は危害を加えるためのものではありません。ほんの少しの間だけボクがガールズトークをしたくて急ごしらえで作りました。暇ならそこのボタンを押してちょ。フリドリッヒ=ジレェ』………………んだよ、これ。ふざけてるな。」


「何を考えてるんだ、あの男………………?」


 まさかこのままどちらかが死ぬまで戦わせるつもりではないのか?

そんな考えが頭をよぎるジョッシュだが、シュウはというと、


「マジで暇だな。何も起こりそうに無いし。…ボタン、押してみっか。」


「!?、馬鹿っ、やめろ!!わ……。」


 金髪の青年は、罠かもしれない、そう言おうとしたのだろう。だが、銀髪の青年はそれより早くボタンを押してしまった。


「(く、毒ガスでも出てきたら一巻の終わりだ!!)」


 そう思い、ジョッシュは口元を塞いだ。

 しかし、ボタンを押した結果、黒く塗りつぶされた窓のようなものに一瞬電気が走ったかと思ったその時、徐々に像が浮かび上がってきた。


『…………本日昼ごろ、ジレェ公国内において、謎の爆発事故が発生しました。原因はまだはっきりわかっていませんが、軍の調べに寄りますと………………』




「………………これ、テレビじゃねぇか?」


「…………………………ああ、そのようだな。」


「普通に暇潰せって事か。……………ん?ジョッシュ、口元に腕あてがって何してんだ?」


「………………………………………………………………………………何でもない。」




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「…………………………ちゃんとしてあるからさ♪」


 絶句してしまう私とリタ。ファンさんに至っては慣れっこなのか反応すらしていない。




「みんな、元気だった?」


 扉が開きハルカが入ってきた。


「ハルカさん、大丈夫なの!?」


「ええ、この通り元気よ。」


 にこやかに笑うハルカさん。どうやら別状はないようだ。



 この再開も束の間、パンパンと手を叩く音がして、振り向くとジレェ卿がいつになく真剣な顔をしてこちらを見ていた。




「再会のところ申し訳ないけどねぇ、ここからは真剣な話をさせてもらうよ?…………ボクが知る限りの、君たちの能力と現状についてだ。」




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