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女神の教会  作者: 海蔵樹法
第一章 動き出す運命
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義兄の言葉、惑う少女

「みんな、朝よ!起きなさいー!」


 遠くでシスターがけたたましく叫んでいる声が聞こえる。不意に額を、ぺちん!という音と共に衝撃が走る。


「セリア、起きなさい。もうすぐ朝食の時間よ。」


 遠くだと思ったらすぐ傍にいたんだ。

 目の前には見慣れたシスターの顔。もう朝ごはんの時間か。そう思った瞬間。


「!?、ジョッシュ兄さんは!?」


「ジョッシュは朝早く出て行ったわよ。みんなの顔を見たら旅立ち辛いからって。みんな宛に手紙があったから、朝食を済ませた後にでも読んでおきなさい。一人一人に宛てたメッセージが書いてあったから。」


「そっか……。」


 ジョッシュ兄さんを見送ろうと思ったのに、できなかったんだな。

 肩を落としながら、私は朝ごはんを食べに食堂に向かった。



------------------------------------------------------------



 いつも通り朝食を終えると、リタと共にジョッシュの部屋へ向かった。


「ジョッシュ兄さんが残した手紙、なんだろうね?」


 リタが悲しみ半分楽しみ半分といった感じで私に話しかけてくる。


「うん。……私はあんまり、見たくないかな……?」


「?、セリアもしかして変な夢でも見たの?」


「う、ううん違うの。只、本当は朝早起きしてお見送りしたかったんだけど、結局昨日は結構遅くまで起きちゃったせいで朝起きれなくて。それで落ち込んだ気分になってるから、なんとなくね。」


「そっか。でもジョッシュ兄さんのことだから、おかしなことは書いてないと思うよ。」


「私もそう思う。」


 話をしているうちに、ジョッシュの部屋についた。

 そこには既に他の子供たちが集まっていて、皆自分宛に書かれた内容について話していた。


「あ、リタにセリア。もう2人とも手紙は見たか?」


「シュウ兄さん。まだ私たち見てないの。これからなんだ。」


「そっか。なら早く見なよ。そして中身を聞かせてほしいな。」


「えっ?どういうこと?」


 そう言われてジョッシュの机の上にあるレターケースを見ると、何と一人一人それぞれに一通ずつ封をした状態で、手紙が置いてあった。


「それはさすがに他の人のは見れないだろう?だから、見た人同士でお互いに話し合って情報交換って所さ。結構人それぞれで、面白いこと書いてあるのもあるみたいだから。」


 シュンの説明を受け、それぞれの手紙を手に取り、封を切る。

 リタはニコニコしながら手紙を読み始めている。私宛に書かれた手紙には……。


「あれ?紙切れ一枚……?」


 紙切れ一枚入っているだけ。でもその内容は、不思議なものだった。


『広場のすぐ傍の川。そこに生えている一番大きい柳の木の下に大きな石が頭だけ出して下半分土に埋まっている。その石の下を掘り返せ。この内容は誰にも知られてはいけない。』


 それだけ書かれており、他には何もなかった。

私はなるべく目立たないように紙切れを便箋に素早く戻し、何事もなかったように振舞うよう心がけた。


「ねぇ、セリア!何書いてた??」


 突然リタに話しかけられ、思わず体がびくりと強ばる。手紙に書いている事をしているだけだけど、何となく後ろめたい。


「っ……リタ、どうしたの?」


「どうしたって、セリアこそどうしたの?そんなに驚いて?」


「う、ううん。それよりリタのは何て書いてた?」


 私は明らかに動揺していた。これ以上隠しながら話すのは無理だ。そう思ったので、ちょっと強引だけどリタの手紙の話に話題を変えた。


「よくぞ聞いてくれました!あのねぇ、私のはセリアとこれからも仲良くして、将来も無事に過ごしていってくれって!」


「そっか、それが内容なの?」


「そうだよ!……なんか反応悪くない?これからも私たちずっと友達なんだよ?」


「そう……そうだよね!うん!これからも宜しくね、仲良くやっていこうね!」


「うん!それで、セリアの内容は?」


「同じ内容だよ。リタとずっと仲良くって書いてた。」


「そっかぁ~、私たち、ずっと一緒だね!」


 私は嘘を吐いた。先にリタの手紙の内容を聞いて、しかもそれが私に関することなのだから、私の手紙にリタのことが書かれていてもおかしくも何ともない。心の中で騙してごめんと思いながらも、内心では手紙の内容で頭がいっぱいだった。何せ、手紙には何も書かれていないに等しかったのだから。


 誰もいない時間を見計らって石の下のものを掘り返さなければならない。でも、一日の普段の流れを考えると、一人になる時間なんてない。みんなが眠ったあとに石の下を掘り返そう。私はそう決断すると、できるだけ何気ない感じで過ごしながら、ひたすら夜を待った。



------------------------------------------------------------



「リタ?リタ?……眠ってる。」


 すぐそばで眠っているリタを確認したあと、物音を立てないように静かに廊下に出る。少し進むと、シスターの部屋がある。ここが最大の難関。シスターはほんの少しの物音でもすぐに目を覚ましてしまう。

 そっと、そぉ~っと、足音を立てずに歩いていく。そして、シスターの部屋の入口まで辿り着くと、まだ灯りが点いている。夜ふかしなんてまずしないシスターなのに、灯りが点いている。ということはまだ起きている。このままでは外へ出ることなど出来ない。そう思っていたが、



「…………そう?そうだったの。……があった…………なのね。」


「ええ、……で、それが………………なの。だから……。」



 誰かと話し込んでいるようだ。多分相手はハルカ姉さん。

 チャンスだ。シスターの部屋の前を物音を立てぬまま素早く通り過ぎる。しばらく時間を置いて、様子を見てみる。……どうやらバレていないようだ。ひと安心すると、教会の入口を出て一目散にジョッシュの手紙の指定する場所へ駆け出した。



------------------------------------------------------------



「はぁ、はぁ……ここだわ。」


 一目散に駆け出すこと5分。手紙の書かれた場所を探すと、その場所には確かに特徴通りの石が埋まっていた。それを確認すると、教会の庭から持ってきたシャベルを使って石をどけてその下の土を掘っていく。

 程なくしてシャベルが何か硬いものに当たり、その進行を止める。手を入れてみると、薄い金属のようなものに当たる感触があった。そこには、薄めの金属で作られた小さめのおもちゃ箱のようなものがあり、それを開けると、そこには手紙が入っていた。


「これが、私への本当の手紙……。」


すぐにその場で封を開け、手紙を取り出す。今夜は満月。雲も無いし、これなら手紙を読めそうだ。

 私は、目を皿のようにして手紙を読み始めた。


『セリアへ。まず、こんなややこしい方法でしか手紙を渡せなかったことを謝っておく。そしてこんな方法を取っておいて済まないが、この手紙に書かれている内容を信じなければ、この手紙を処分して内容を忘れて生きていってほしい。多分、それでもセリアの人生に多大な影響はないだろうし、きっと幸せな人生を送ることもできるだろう。だが、俺は気づいてしまったものの義務として、真実を伝えなければいけないと考えているから、敢えて俺はこの手紙を残す。

 お前に伝えなければいけない内容。それは、お前がよく見るお告げの夢についてだ。それは恐らく「予知夢」と呼ばれるもので、超能力と言われるものの一つだ。超能力とは、特別な才能がなければ使えないものだ。セリアは気づいていないかもしれないが、教会の孤児たちは皆何かしらの能力を持っているか、これから目覚める素質がある人間ばかりだ。突然の事で、何が何だかわからないだろうが、俺から伝えておきたいことはたった一つだ。この手紙の内容を忘れてもいいし、忘れなくてもいい。ただ、これから先はもう自分が見る夢の話は一切他人にしてはいけない。自分の中だけで留めておくんだ。相手が例え、シスターでもリタでもだ。もしどうしようもなくなったら、手紙でファンさんか俺を呼べ。必ず助けてやる。

 長くなったが、これで話は終わりだ。いつまでもリタと仲良く、幸せにな。ハルカさんの手伝いをちゃんとするんだぞ。』


 手紙はそこで終わっていた。


「ジョッシュ兄さん…………わかったよ。私、必ずジョッシュ兄さんの約束、守るから。」



------------------------------------------------------------



 翌朝。

 私は、かなり早めに目を覚ました。普段はそんなことないけど、目が覚めてしまう程の気がかりなことがある。間違いなく、あの手紙の内容。気になってしょうがない。だって、あの手紙の中身ってまるで……。


「誰も信じるなって、そういう意味よね。ジョッシュ兄さん……?」


 リタはまだ眠っている。私の独り言は当然、誰も聞いてはいない。

 その時は、そう思っていた。




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