双子対二人・結
最初と同じように二人になったジョッシュを見て双子は言う。
「それがあんたの能力か、ジョッシュ。」
「ファン姉に似てるけど、ちょっと違うね?」
「ああ、ファンの能力とはそっくりだが違う。…………今度はこちらの番だ。」
ジョッシュは先手を取り仕掛ける。
一方は右手の掌にチャクラを凝縮し、左手に持ち替えた魔砲から長い刃を形成し走り始める。もう一方は、魔砲をマシンガンを構えるように持ち、乱射を始めた。
走り始めた方は、掌に溜め込んだチャクラを狙いを付けてビームのように放つ。
「くっ、あのチャクラ砲はヤバい。下手に喰らえば拙いぞ!!」
「わかってるよアポロ、そっちも堪えようと思わないで!!」
分身したジョッシュの猛攻に全力で回避を開始するクリスとアポロ。それを追い回す二人のジョッシュ。
「(ちっ…………全力で逃げられては攻撃もままならんか…………。)」
今更ながら双子の身体能力の高さに翻弄されるジョッシュ。マシンガンで弾幕を張り、動きが鈍ったところをチャクラ砲で狙いながら近づき、魔砲剣で仕留めるつもりだったが、こうまで警戒されて逃げられては仕掛けるどころではない。
恐らく、身体能力の点で考えると攻撃し続けるジョッシュの方が体力の消耗が激しい。おまけに二人いるといっても、片方は自分の力で作り出した分身である以上その維持にも力を割かれる。結局この戦いは二人対一人なのだ。ここに来てそれを嫌でも自覚せざるを得ない状況になっていた。
そして、もっと言うと両者の抱えている状況の違いも、ここでは差になり始めていた。ジョッシュは、この後の事も考えて力を温存しなければならないが、双子たちはその必要がないのだ。全力で闘う事ができない者とできる者。それも後者は二人居るのだ。今でこそジョッシュが攻戦で双子が防戦だが、一旦逆転してしまえば、もはやジョッシュに勝ち目はない。
但し、ジョッシュにこれ以上の奥の手…………鬼手とも呼べる切り札があれば話は別だが。
だから、ジョッシュはこのまま攻め続け、ここで勝利を収めるしか選択肢がなかった。
「(このままいけばジリ貧になり、いずれ競り負けてしまう。温存している場合じゃない!)」
ジョッシュは、突如分身を消した。
「分身を消したの?」
「何のつもりだ!?」
そのままジョッシュは単身で突っ込んで行く。狙いはクリスだ。
「ただ突っ込んで来るのかい?穴だらけにしてやるよ!!」
クリスは自身の触手を四方八方から展開し、その全てをジョッシュへ向けた。
凄まじい速さでジョッシュに飛来していく触手たち。
それを見ながらジョッシュは、
静かに意識を集中させた。
目は触手を捉えつつ、意識を集中させる…………。
見つめる先は、すぐ先だけ。それだけでいい…………。
目で見つめるのではない。意識で、感じ取るものだ。
見える…………次々と…………見える…………。
「右斜め上15度。」
触手が来る前に位置を把握し、それを躱す。
「正面やや下側。」
次も同様に把握し、躱し、
「左後方。」
やはりこれも把握してから躱している。
どれもこれも、一度も触手を見ずに。
「左斜め上45度、右足先端側、後頭部、左腕後方、左脇腹真横、右肩正面、地面通って真下、左上真横から順に1、2、3本、後方上部60度、右後方、…………。」
どれもこれも先に言い当てて、それから回避している。その間、彼は一度もクリスから目を逸らさず、一度も触手を見ずに躱し続けている。
「何で…………何で何で何で何で何で、…………何で当たらないっ!?」
目の前で矢継ぎ早に起きている状況についていけないクリスが、半ばパニックになりながら叫ぶ。何せ正面方向ならまだしも、後ろの攻撃まで全く見ずに全て躱し切っているのだ。
「畜生っ!!」
苦し紛れに放った触手も、
「正面上30度方向。」
言い切られた上であっさり躱される。
そして、クリスはジョッシュに全ての触手を躱され、首元に魔砲剣を当てられていた。
「今の俺には全ての『攻撃は当たらない』。『攻撃される前に認識している』からな。『わかったところで回避しても結局は喰らう』攻撃でない限りは、俺には通じない。」
クリスは目の前の男に恐怖していた。首筋に突きつけられた剣で切り裂かれることに対してよりも、目の前の男そのものに対する恐怖の方が何倍も大きく、その場で固まり、震えながら呼吸をするのが精一杯だった。
そんな中、もう一人の人物が口を開く。
「何故だ…………お前の能力は、『分身』では、ないのか…………?」
もう一人の人物、アポロもまた遠目に眺めながらも恐怖していた。だが、恐怖と同じだけ疑問が湧き始め、それを問わずにはいられなかったのだ。
「…………俺は、複数の『能力』が使える。お前たちと同じようにな。」
驚くべき回答が帰ってきたが、それこそ確かにジョッシュが言うように複数の能力を…アポロで言うなら『フリップ・フロップ』と『硬化』を…使っているのだから、それほど驚くことでもないのだが、回答を受けた当の本人は違っていた。
「有り得ん!!自然発生する能力は一つだけの筈だ!!…………俺たちの触手や硬化は、後付けされた副次的な能力。自然に身につけたものが複数で有るはずが…………。」
「ほう?それはいい事を聞いたな。」
「!?、知らなかったのか……。」
「ああ。…………だがな、それを聞いて確かに納得した。俺の能力は、やはり一つだけの様だ。」
クリスの方から目を逸らさず、声だけで答えるジョッシュ。
「俺の能力は、『人の能力を仮想的にアレンジして再現する事』だからな。」
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「な…………そんな能力が…………。」
今度こそアポロは絶句した。
それを言うなら、理論上ジョッシュは全てのあらゆる力を習得出来てしまうことになる。
「く…………。」
「動くなよ。」
動き出そうとするクリスを再び牽制しつつ、アポロに対して再び会話を始めるジョッシュ。
「……俺の力だって、万能じゃない。『人間ではない者が使う能力は会得出来るかどうかはわからない』上に『複数の能力を同時に展開できない』からな。どれだけ複数展開できるかはその能力に寄るが、『複数展開すると一つあたりの能力再現精度が落ちる』からな。そもそもとして、『能力を何らかの形で知り、自分の中で理屈の通るイメージを明確に持つ』事ができなければ会得はできない。それに、『オリジナルの完全再現は不可能』だ。」
「…………十分化物だぜ、あんた。」
「…………仮想的に習得した能力を使用する。『デモンズメーカー』と俺は名づけた。」
ジョッシュは、これまで自分の能力をひた隠しにしてきた。そしてこれからも大っぴらに教えることは、例え家族であってもないだろう。
では、何故ここまで聞かれてもいないことを話しているのか。
答えは単純で、只時間を稼ぎたかったのだ。
「(…………そろそろ大丈夫か。流石に使い慣れない『ラプラス』を使い続けるのは負担が大きいな。)」
先程まで使用していた能力は、セリアの未来見の再現アレンジである『ラプラス』。
セリアのように未来をヴィジョンのように見ることは決して叶わないが、『相手と戦闘中の時のみ使用可能』な能力で、『相手が攻撃を繰り出す前に正確に感知する』能力だ。だが、未来見の力という只でさえ規格外な能力の再現のため、他の能力を使用する余裕などなく、それでいて負担は莫大な能力。
しかし、一旦発動させれば如何なる攻撃も“既に知っている”状態になるため、まさに彼の切り札の一つと言えるだろう。
ちなみに、彼が戦闘開始から使用していた分身の能力は、ファンの『パペットシアター』の再現である『ドッペルゲンガー』だ。これも限定的で、『自分自身の分身しか生み出せない』『分身の維持には力を消耗する』『1体しか生み出すことができない』という制約がある。
彼は孤児院での生活で様々な能力を会得し、近衛兵の際にも運良く「魔族」の能力会得に成功しているため、ここでは使用していない様々な能力があるのだが、それはここでは敢えて語るまい。
そしてこれらの事実は、双子の知るところではないのだが。
「…………成程な。コンピュータ上で仮想的に動かす再現プログラムを”デーモン”と呼ぶと聞いたことがある。そういう事かよ。」
「ああ、そういう……事だ!!」
完全に放心状態のクリスの首を斬り飛ばす。
血しぶきが舞い散る中、ジョッシュは一気にアポロに距離を詰めんと走り寄る。
「蘇生する前にお前を斃す!」
「く……タダじゃやられねぇよ!!」
咄嗟の出来事に慌てたアポロは、必死に反撃を試みる。
「くッ…、このッ…、ちくしょッ…、やっぱ当たらねぇのかよ!!」
「ああ、無駄だ。」
ジョッシュはさも当然と言わんばかりに返答する。アポロは今、自覚できていない程に慌てている状態だ。そんな状態では攻撃は大振りになり、簡単に躱されてしまう。だがジョッシュは、その状況を利用して、まだ『ラプラス』を使用しているから攻撃が当たらないと思わせる。相手を確実に仕留める為に。
やがて、アポロの息に乱れが見え始めた頃、魔砲剣を首筋目掛けて振る。
だが、それは硬化したアポロの腕に受け止められてしまう。
「っ…………危ねぇ危ねぇ。命拾いしたぜ。」
「…………安心しているところ悪いな。お別れだ、アポロ。」
「へ?」
ジョッシュの言葉を聞き、それに気の抜けた返事をした瞬間、アポロの胸に激痛が走る。
激痛の方向にアポロが目を向けると、心臓の部分から刃が生えていた。
「済まないな…………お前たちを、助けてやれなくて。」
その言葉に反応することもなく、静かに倒れるアポロ。
倒れるアポロを挟み込むように、二人のジョッシュが立っていた。
クリスは首を撥ねられ、アポロは心臓を貫かれた。どちらも蘇生している様子は見られない。
ジョッシュは幼き日の仲間に手を掛けてしまった事に思うところがありながらも、今も捕まり苦しんでいるであろうハルカを思い、歩き始めた。が、
「…………待ってくれ、ジョッシュ……………………。」
「な!?アポロ、お前まだ…………。」
「違う。…………聞いてくれ。全て、思い出したんだ…………もう、戦うつもりは、ない……よ……。」
立ち去ろうとするジョッシュを、事切れる寸前のアポロが呼び止め話し始める。
「俺たち、は……あの日、き、ぞくの食事………会の日に、捕まったんだ…………それから…………………毎日…………実験…………台に、され、て…………洗脳…されたんだ…………。」
「わかった、もう喋らなくていい!……止血するぞ。喋るなよ!」
ジョッシュは何となく彼がもう襲いかかって来ない事がわかった。だからこそ、彼は昔のように、大切な弟分として助けたいという気持ちが湧いてきた。
「やめろ!…………俺たちは、もう、助から、ない…………わかってる……ことだ…………聞いてくれよ、頼む、から…兄貴…………。」
「ああ、聞いてる!聞いてるからな!!」
「…………俺、たちは、それから、体、を……………………改造、されて、……やつ、ら…………に、言われるまま………………何度も……無関係な人を…………殺した…………償わ、なきゃなら………ない…………。」
「アポロ……ごめん………ごめんな…………。」
「……………………ああ?兄貴?…………いるのかい……………………もう、何も、見えないよ…………頼、む、かた、きを…………クリス………俺も…………一緒、に……………………。」
「アポロ…………アポロぉぉ!!!」
それっきり、彼が目を覚ますことはなかった。
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ジョッシュは、荒野の外れに双子を埋め、墓を立てた。
「二人共、済まなかった。俺は、お前たちを、助けてやれなかった…………。片が付いたら、もう一度、ここに来るよ。」
青年は、目的地に向かい歩き始めた。
その足取りは当初の勢いなど既になく、見るものに重苦しさと悲しさを感じさせた……。




