海神樣はお怒りです!
3時間で書き上げた、久方ぶりの短編です。ギャフン物を書きたかったはずなのに、作者の力量が追い付きませんでした(・・;)
それはまさに、青天の霹靂。
その日、いつものように頭の痛い朝の会議をしていた時の事。
一番高い場所には、国王の席。そのすぐ下の段には、国王よりやや華奢な皇太子の席と、さらに華奢なもう一人の王子の席。階下は、王に近い程に高い身分の貴族達が並んでいる。
ここ15年余り、この国は豊かさとは無縁の寂れた国となっている。今朝も何とか対策を、という時に、それは、いや、その“方”は堂々と王宮に入ってきたのだ。
『久しいな、国王よ』
「な、無礼であろう!」
年若い皇太子が叫ぶが、国王が腕を上げてそれを制した。
「お久し振りにございます、海神様」
すぐにでも頭を下げた国王のその言葉に、現場にいた全ての家臣達は平服していく。
この国は長く、この海神様の加護により豊かな強国として栄えてきた。儀式には必ず海神様に伺いを立てる程に、信仰している。しかし、ここ15年余りは加護は也を潜め、見放されたのではと眉を潜める輩まで出る始末。国王にとっても頭の痛い問題であった。
『急な事な故に、無礼は許せ』
そう口では言っているが、海神様はかなり苛立っていた。特に、皇太子と王子に対して、苛立ちに似た刺々しさを隠そうともしていなかった。いや、もはや殺気に近いともいえる視線だった。
「勿論です、ところで今日は何用にございますか?」
その視線に訝しく思いながらも、国王は問うた。
『ふむ、漸くこの国に対して、何故に我の加護が上手く行き渡らないのか、に対する答えが出たのでな、教えに参った』
それは国王が今現在、知りたかった事だ。ちょうど国王が今の正妃を迎えた辺りから、海神様の加護は弱まり、皇太子が生まれた辺り等は、凶作であった。それは王子が生まれた辺りも同じく。ただ、側室を入れた辺りで、作物の取高は回復していた。故に安心していたのだ。もう、大丈夫だと。
『このまま、こやつが国王になったら国が滅びる故な、親切に教えに来てやったのだ、どうすればこの国が我の加護を取り戻し、豊かになるかを』
家臣達は、期待に満ちた顔をしており、更に拝みだす輩も出てきた。現金なものである。
「どうすればよろしいのですか?」
そう問うた国王に対し、海神様は満足そうな笑みを浮かべた。
『まずは、正妃とやらと、側室が産んだ我の加護をこの王家で一番強く受けておる末姫と、あとは正妃とやらが産んだ他の子供達も連れて参れ、話はそれからじゃ』
その言葉に、慌てて正妃と国王の子供達が呼ばれた。残念ながら、側室は数年前に亡くなっている。それを知っている海神様は、故に側室に関しては省いた。しばらくして会場に現れたのは、妙齢な黒い髪の派手な女性と、国王に似た二人の娘達。更に目の前にいる海神様に良く似た美しい末姫。彼女が最後に会場に入ると、場がどよめいた。今まで滅多に人前に出なかった末姫は、正妃によって体よく王宮の隅にある離宮に追われているのを、国王以外の全員が知っていた。
『おう! 愛し子よ、大きくなったな、顔を良く見せておくれ』
海神様の言葉に、末姫は戸惑いつつも素直に海神様の許へ向かう。そんな初々しい姿に会場内の全ての人間が頬を緩めたが、ただ一人、正妃だけは忌々しいとでもいうように、睨み付けていた。
『さて、全員揃ったようじゃの』
満足そうに末姫に頬擦りをする海神様は、そう言うと、右手をすっと上げた。一瞬にして、国王、二人の王女、末姫の髪が虹色に輝いた。
『原因の追及の間、そなた達には迷惑をかけたからな、これはその礼じゃ、受け取るがよいぞ』
それを見ていた人間達は、ふとある人物を見る。明らかに変わりのない、黒い髪のままの三人の人物を。
『―――――やはりな、正妃とやら、そなた、神の加護を無効果にする血を引いておるな?』
「それはどういう事でしょうか?」
震えた声で問う国王は、信じられないとでもいうように、正妃を見ていた。
『まあ、民にたまに産まれてくる事があるが、影響は弱い故に気にもならないが、王族ともなれば話は違う、加護を無効とするこやつと交わったが故に、そなたを基盤にこの国に与えていた加護が弱まったのじゃ…………我はな、それでも国王たるそなたの為に、側室に我の加護を与えて、何とか対策をとったが、すぐに気付いたこの正妃が、側室と生まれた我が愛し子をいじめ出すものでなぁ、我もそこまで苔にされたのは初めてじゃ、本気で他国に移ろうかと思ったぞ? しかしだ、我もこの国には愛着がある故に、今回こうして説明に来てやったのだ』
憎々しいとばかりに、黒い髪の女性たる正妃を睨み付ける海神様。しかし彼女の言葉に、理解出来てしまった国王と家臣達は、一気に青ざめた。この正妃と恐らく皇太子達が原因で、この国には加護が行き渡らず、更に正妃は海神様の愛し子に手を出した。
これはヤバイ! この正妃が産んだ子を皇太子になんてしたら、国が滅びる!! ましてや王族から、国を滅ぼす存在が生まれた等、この国建国以来無い大不祥事である。
「な、何と………」
言葉にならない国王に対し、正妃は青ざめた顔で、必死に己の無実を訴える。
「そ、そのような事で、何故わたくしの所為になるのです!? わざとかけなかったのではないですか!? この子達は貴方の子なのですよ!」
確かに、そうも取れるであろう。この国で無かったら。
「正妃よ、確かにこの子等はわしの子じゃ…………じゃがな、故に、許されないのじゃよ…………加護の無い皇太子などな」
力なくうなだれる国王に、まだショックから抜けられない皇太子が、青ざめた顔で国王に問う。
「父上………それは、私が皇太子では、いけないと…………?」
『家族会議中すまぬが、話を進めるぞ』
「はい、進めて下さいませ」
いくら人の姿を取っていようとも、相手は海神様である。国王もそれは重々承知していた。
『何も悲壮感漂わせる必要などないぞ? そなたの体質は王宮だからこそダメなのであって、国境付近に行けば他国から攻められる事もなくなる有難い能力じゃからな』
そう言われ、二人の皇子は顔を上げる。彼らとて国を思う者に変わりはないのだから。
「しかしそれでは、私には次代がおりませぬ」
国王のもっともな言葉に、海神様は大きく頷いた。
『故に国王よ、物は相談なのじゃが、我が娘を嫁に貰う気はないか?』
「「「「「はぁ!!??」」」」」
『そんなに驚く事でもあるまい、数十代に一度、我の血筋を嫁に出しておろう』
確かに王家には、海神様の娘を嫁にする国王がいた。一番最近で200年程前に。
『そなたはまだ若い、故の相談なのじゃが、どうであろうか?』
急な申し出だが、このうえなく良い条件であるのは確か。このままいけば、この国が滅びるのも時間の問題なのだから。
「分かりました、お引き受け致します」
頭を下げた国王に、家臣達は両手を上げて喜んでいる。現在の皇太子と王子は位を返上し、国境付近の地帯を納める一貴族となる。姫達は加護持ち故に、国内の貴族に降下が決まるだろう。そして、海神様の娘を花嫁を貰い、直に次代も生まれる。良いことずくめである。
「お待ちくださいませ、わたくしはどうなるのです?」
今まで存在を忘れられていた正妃が声を上げる。
『悪いがそなたは国内にいられては困る、そなたは王子達と違い、無効にする力が強すぎる、故に国内にいてもらっては困る』
そう海神様が言うと、目を見開き、そして………………突如、彼女の体から紫色のまがまがしい迄の力が吹き出す。先程迄の派手ながらも良妻に見えていた姿は、既に無く、今やまがまがしい迄の悪女にしか見えない。
「ようやく、この国を滅ぼす事が出来ると思うたのに、余計な邪魔が入ったわ!」
「母上!?」
「妃!?」
皇太子と国王の悲鳴じみた声にすら、気味の悪い笑いを轟かせ、女は話しだす。
「この女の器は、我にとって真っ事、相性が良くてなぁ、この女はこの国に嫁ぎたくなかったのよ、しかし命令に逆らえずに嫁いできたが、既に心は弱りきっておった、故に我が目的の為に器となってもらったのさ、全く………子供達には癒されたらしくてな? 子が出来てからは頻繁に我と交替するしで大変じゃったが、願いが叶うという時に邪魔をしおって!」
憎々しげに海神様を睨み付ける女に、海神様はやはりな、と呟いた。
『全く………体を失って尚も、この国を滅ぼしたいか、既にそなたの国は滅んだであろう? なあ、この国が建国された際に消された王国の最後の王妃よ』
哀れみさえある視線を女、いや王妃に向ける。
「いや、まだじゃ、絶対にいつか滅ぼしてやろうぞ、そなたの血族たる王の血を!」
そう言うと、王妃は体から紫色のまがまがしい迄の力を噴出させると、何処かへと消えていった。
『ふう、五百年もたつというのに……………哀れなものじゃ』
そう海神様が締めるが、周りはそうはいかなかった。
「海神様!? 一体、今のは何なのです!?」
今にも唾を吐き出しそうな程に慌てた国王に、海神は仕方なく説明を始める。
『あれはこの国を付け狙う魔女の魂じゃ…………あれに邪魔をされぬように、我は定期的に王の血に我の血筋を嫁にやるのじゃ、じゃがたまに血が薄まるとあやつが来て悪さする故にきがぬけんのじゃ』
疲れたような、煩わしい物を見たような、そんな姿に、真実を知ってしまった国王達一同は、もう早く御退場願う為に、話を進める事にした。
「海神様、花嫁を迎える為に、諸々の準備がございますので、少しお時間を頂きたく」
『うむ、そうじゃのぅ、我も娘達を着飾らせておこう、2ヶ月後に娘達を連れて参ろう』
そういうと、海神様はあっさり帰っていった。
さて、この国は、ここからが大変であった。まず、皇太子は位を返上し、国境付近の領土を貰うと、今まで以上に働き始めた。何やらふっきれたような姿に、側近達も安心したようだ。次に弟王子は、兄に続き、国境付近に領土を貰い、兄と同じように働き始めた。次に正妃だが、魔女に体を乗っ取られた為か、この国での記憶が所々抜けていた。故に恩情が与えられ、国境付近に小さな館を与えられた。そして青天の霹靂で、新たに海神様の娘を嫁に貰う国王は、準備に大変苦労した。
しかし2ヶ月後に来た5人の娘の内の一人に一目惚れを果たし、この国はまた、平和な土台が出来たのである。
余談だが、このお話は脚色され、この国では有名なお芝居になったとさ。
END
お読み頂き、ありがとうございます。
初めまして、もしくは久方ぶりの秋月煉です!
何だかふと思いついて書いてしまったこの作品。一切、登場人物の名前が無いという前代未聞のお話です(汗
さて、少し解説をしてまいります。
まず、この国では代々、国王には海神様の加護がかかっています。王族を基盤に、この国に加護を与えていた訳です。そして血が薄まると、海神様は自分の娘を嫁に出します。そしてまた、この国は平和で豊かな国のままでいられる訳です。
ところが、正妃様が来た辺りからいくらかけても加護が行き渡らない為に、海神様はたまたま選ばれた側室の娘に、海神様の加護を与えて、何とか加護を行き渡らせようとしましたが、正妃が産んだ王子二人が、無効の力を持っていた為に、無理でした。しかも頼みの綱の側室も、娘を産んだ後に亡くなり、業を煮やした海神様は、王宮に乗り込みをかけました。気分は恐らく、たのもー!的な物であったと予測。しかし、まさか正妃に魔女が乗り移っていたのは予想外でした。
この魔女ですが、自業自得で滅んだのに、未だにしつこく国につきまとうストーカー。まさに海神様の目のうえのたんこぶです。
さて最後に、海神様は家に帰ってから、娘達を呼び出し、年頃の娘を選ぶと、精一杯着飾らせて楽しんでいました。2ヶ月とありましたが、海神様的には2週間くらいの感覚でした。ほら、神様は長生きですから。
久しぶりに書いた短編、楽しんで頂けたら幸いです。
感想、よければ聞かせて下さいね。