憑りつかれた少女
プロローグ『起』
ある所で少女が生活をしていました。
少女は自分が憑りつかれている事を自覚していました。
その憑りつかれた少女は学生で、一人の女の子と出会いました。
「私、霊感があるの。だから近づかない方が良いわよ。あなたも気持ち悪がられちゃう。私みたいに友達無くしちゃうよ」
その女の子が憑りつかれた少女に告げました。確かにその女の子には友達がいませんでした。
「私も似たようなものだよ」
しかし憑りつかれた少女は、逆に興味を示し、やがて二人は親睦を深めていきました。
『承』
「君のその霊感は立派な能力だと思うよ。他人が持ってないから言うなれば、あなただけの超能力と言った所だよ」
ある日、憑りつかれた少女がそう励ましました。
女の子は、嬉しそうに笑っています。
憑りつかれた少女は唐突にこんな事を聞いてみました。
「君のその能力には、私はどう映ってる?」
「え。普通だと思うよ。変な霊や悪霊に憑りつかれている訳でも無いし」
「そう、普通かー」
「あ、でも私にも良く分からない物を感じるわ。オーラと言うか雰囲気と言うか、生霊と言うか。なんとも形容しにくい混ぜ混ぜなもの」
「へー。それってどういう意味?」
「簡単よ。あなたが変わり者って事よ。私なんかに執拗に話しかけてくるんだもの。変わり者以外のなんでもないわ」
「それもそっか」
女の子達の明るい笑い声が校舎の屋上で静かに響き渡ってました。
『転』
ある日、女の子が殺されました。
それも憑りつかれた少女の目の前で。
若い男に首を掴まれ、黒焦げになってぴくりとも動かない女の子。
しかし憑りつかれた少女は動じませんでした。だだ、日が暮れるまで話し込んでしまった事をこれ以上に無く後悔しました。
「君も超能力を持った人間なんだね」
静かな校舎に憑りつかれた少女の声が響く。
若い男は何も言わずに黒焦げの死体を投げ捨てて、今度は憑りつかれた少女の胸倉を掴み上げました。
そしてどこからともなく若い男の手から火が上がり、少しづつその火力を高めていきます。
憑りつかれた少女は、その瞬間意識を手放しました。黒焦げの死体と同じくまったく動きません。
そうして若い男が油断したその時、少女の大きな目がギョロっと男を睨みつけました。
そして、とても小さな女と思えないほどの力で若い男を蹴り飛ばし、焦げた胸元の衣服をぱらぱらと手で払いのけました。
「とうとう現れやがったか。悪鬼が。悪いが死んでくれ」
若い男は尻餅を付きながら言いましたが、少女はそれを無視して問いを投げかけました。
「マー、ドウデモ良イ事ダケド、ドウシテアノ女ヲ殺シタ? オ前ノ目的ハ私ダロウ?」
「お前の事を殺そうとしたら楯突いたからだ」
「アッソー」
若い男がまだ何かを話そうとしていたが、少女は躊躇いもなく若い男の首を両手で折り曲げた。
「フゥ、間ニ合ッタカ」
少女は若い男の死体を踏みつけ、上りはじめた月を見上げて言った。
『転裏』
ある所に白衣を着た男が地下室に幽閉されていました。
そしてその白衣を着た男を、正義とかかれた制服を着た老人が見張っていました。
その制服を着た老人は、白衣を着た男が眠っている事に気が付きました。
すると制服を着た老人は徐に木製の槍を取り出し、牢越しに白衣の男の首元を軽く突きました。
「やれやれ。君はまだ旅行に行ってるのかい?」
材質が木とはいえ、鋭く削り取られた棒で首元を刺激されては目を覚まさざるを得ません。
白衣を着た男は飛び上がるように目を覚まし、制服の老人を睨みつけました。
そして制服の老人が言いました。
「私もこんな事はしたくないのだよ。だから、君も良い加減にあの少女に憑りつくのをやめたらどうだい?」
「もう少しだったのに」
「強い体に乗り移るのは楽しいかい? あまり趣味が良いとは言えないね。あと、あの少女を殺すように能力者を仕向けているのはどうやってるのかな? それも憑依の能力かい? 自分から仕向けて置いて殺すなんて、能力者に恨みでもあったりするの? まぁ、このままだと君は大量殺人の悪人になっちゃうよ。君もそんな事やめてくれたら幽閉する必要もないのだけどね」
『結』
あれから憑りつかれた少女は幾度と無く、超能力を持った人間に襲われました。
時には雷を操る者。時には相手の思考が読める者。また、ある時には時間を操る者まで。様々な能力者に襲われました。
しかし、そのたびに狂気染みた少女が現れては、どんな能力を持った敵でも簡単に退けていました。
そして今も、憑りつかれた少女は襲われていました。
「一つ、聞いておきたい事がある」
襲われている中、相変わらず動じない調子で憑りつかれた少女はそう言いました。
「……なんだ?」
「お前はなぜ、狙ってくる?」
「危険な人物だからだ」
「良かった。それで良い。お前たちが仲間で良かった。さっさと殺せ」
それだけを言って憑りつかれた少女は黙って首を締められました。
かと思ったら今度は、急に俯き、小さく呟きました。
「殺ス。私ハ殺戮者」
『結裏』
同時刻。
それからしばらくしても、白衣を着た男は相変わらずの様子でした。
制服を着た老人も遂には怒ってしまい、またも白衣を着た男の喉元を棒で突いては無理やり起こし、鉄の金網を激しく揺らして言いました。
「ほんとどういうつもりなんだ? 何日もずっと他人の体に乗り移るって。変態か? ……まぁ、確かにあの少女には素晴らしい力が備わっている。羨ましい気持ちも分かる。それは私も同じだ」
そこで制服を着た老人は一呼吸置き、少し冷静になって続けました。
「だからね、今日は朗報を持ってきた。君が正義感気取ってしているその行為……正式に黒だとよ。世界を救ってきたつもりかも知らないけど、これで君はもう立派なテロだからね。残念だけど時機に死刑だよ」
それから間もなくして白衣を着た男の死刑が決行されました。
男はそんな状況でも憑依しているのか、眠ったまま処刑されました。
それ以降、少女は憑依から救われ、ずっと、ずっと狂気にあふれていました。
そう、なぜなら少女は殺戮者だから。
『断章』
「あなたが、僕を手配したお方ですね。いや、してくれたと言うべきか」
紳士的な青年は、対峙する憑りつかれた少女にそう言いました。
「光栄です。我らがリーダーとこうして会話が出来るのは。そして、またと無いチャンスをこうして僕に与えてくれた事、感謝します」
紳士的な青年は大きくお辞儀をしました。
「さぞ、お苦しいでしょう。幽閉される生活は。リーダーの世界を救う為の苦しみ、無駄にさせません。殺戮者の暴挙は僕が止めます」
「早く……急げ……」
「ですよね。では、失礼します」
紳士的な青年は、憑りつかれた少女の首をナイフで斬りつけました。
しかし致命傷になる寸前で少女は間一髪で回避し、紳士的な青年を大きな目でギョロリと睨めつけました。
「リーダー……すみません。僕の無駄話が過ぎたようです……」
「フゥ、今回モ辛ウジテ間ニ合ッタカ」
それから紳士的な青年を見た者はいません。
これは相手の思考が読める超能力を持った青年と少女の話。
スランプ脱出の為、気まぐれで書いてみました。
話の全貌がきちんと伝わったかが不安です。
伏線をそれなりに残したつもりです。
名詞とか気にして貰えると嬉しいです。
どんでん返し出来てるといいな。