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○思い出しただけでどうにかなりそうだ。頭が割れる。
しかし、耐えなければ。しっかりしなければ。なぜなら、負けたらこのまま。
それはありえない。あきらめたら、そこで全てが終わる。
みんな俺を待ってる。落ち着こう。
相手に合わせることはない。こっちを無視するならすればいい。
俺は俺の道を行く。俺のやり方をつらぬくだけだ。
僕には言葉を書くと言う行動が残ってる。
「記憶をすべてかえることとすべてかえないことはおなじです」
俺の記憶になんの操作もしなかった訳か。
でもそんなことが一体どうやって言い切れる?誰かが親切に教えてくれるのか?
それが正しいとどうやってわかるんだ? それも誰かが教えてくれる訳か。
教える?それは正しいのか? 誰かが正しいと決めるのか。そいつは一体、誰なんだ?
「外の世界はどうなってる?」
「ありません」
意味がわからない。答えになってない。
「あなたの知覚にたいおうするものがこの世界にはありません」
どういうこと?意味がわからない。
やっぱりわからない。理解不能。
昔、家のベッドの中で妻の美津子と喧嘩したことを思い出した。
「もう、そろそろ帰るわ」 俺はねぼけて言った。
「ちょっと! どこに帰るっていうのよ!」
あわてて謝った。「ごめん、ごめん、良子」
「りょうこ?誰なのよそれは!」
あの後だいぶもめた。思い浮かぶ女性はいたが、良子かどうかは思い出せなかった。
そう言えば昔から適切な例えがでてきたことがない。ピントがづれてる。
だいたい、づれてるのはお前らの方だ。
しかし、と俺は考えようとした。
が、何もでてこなかった。思い出すことぐらいしかできない。
大体、根本的に最初から間違ってる。人間ドックなど誰も望みはしない。
どこをどう考えれば、そんな考えになる?いや、考えるのは自由。
だが本気でそんなものを作ろうと誰が実際、動く?誰に何の得がある?
貧困も差別も不平等もない、病気も運不運もなければ、生まれながらの差別、才能、性別、年齢も関係なし、
それらの差別が再生産されることもない、やっとここまで来たと言う。すばらしい。拍手。
でもそれが、すべての人が同じ夢を見ること、だって?嘘くさい。
全員が同じ現実を生きる?どういう意味?確かに現在、問題は多い。
だがそれでも、いやそれだからこそ人は前を向いて、未来に向かって歩いていける。
○夢だ。
これはきっと夢。
そろそろ目が覚めるはず。
もうすぐ。もうすぐ。もうすぐ。
そう言えば、出てきた動物どもの話し方が違ってる。
それぞれ、どこか話し言葉が違う。ということは、最低でも二人は人がいるってこと。
で、それでどうなる?それがどうした?どうでもいい。夢なんだから。
もう覚める。すべてもとのまま。これは笑い話。たいして面白くないが。
もうすぐ起きる。
いつまで繰り返せばいい?