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○そして、部屋から出たんだ。他にどうすればいい?何にもないじゃないか。
牛に案内されるのは、そうイライラする。前を歩いてるだけだが、イライラする。
「乗ってもいいですよ」だと?ケツをけとばしてやろうかと思った。
なぜこんなにイライラするのかといえば、ふざけているからだ。
廊下はずっと永遠に続いてるようで、先が全くみえなかった。ただのまっすぐな廊下。
両側の壁はガラス張りだが中はよく見えない。暗いからだ。光の点滅してるのはわかった。
人間ドックとやらか。
しかし病院にしてもあまりに広すぎる。そこに特有の匂いや雰囲気はどこからも感じ取れない。
耳をすましたが、どんな音も聞こえてはこなかった。誰の姿も見えない。
説明を待っていたが、牛男は何も話さない。こいつに話しかけるしかなかった。
仕方なく、とりあへず思い付いた事を俺は聞いた。
「何人ぐらいいる?」
「100789204にんです」
「日本人全員、ここにいるみたい」大げさに言ったつもりだった。
「すべています。こどもからろうじんまで」
けりつけてやりたかった。そいつは振り向きもせず、のっしのしと歩いていく。
何を言われても驚かないつもりだったが、どうやらそうはいかない。
ガラスごしに中を見たが、やっぱり光の点滅しか見えない。
中へはいってやろうかと思ったが、どこにも入り口がなかった。
「中へ入れる?」
「はい」
「どうやって?」
「入り口から入ればいいです」
けりつけてやる。びくともしない。
もう一度中をよく見た。夢を見てるのかと思った。
「人間ドックです」はじめて向こうから口を開く。
人間ドック。なんでも思い通りとかいうやつ。
「地球に13あります。」
13しかないのか。少ないのか多いのか考えようとする自分を恥じる。
そんなことが問題なんじゃない。全世界の人間がこんなとこに入ってる?冗談じゃない。
ここで夢を見る、いや、夢を見させられる。信じられない。
あのまま歩いてたら、どうなっていたのか?どこかで終わりがあったのか?
「どこまで続くの?」
「終わるまでです」
「あとどれくらい?」
「終わるまでです」
「あと何分くらい?」答えやがらない。黙ってやがる。ふざけやがって。
俺は、天を見上げた。さっきの廊下はどこまでも続き先が見えない。
海より空の方が広い、その事実を論理的に納得した時が何故か思い浮かぶ。
たしか、小学生の頃だったか。そう、世界地図を見た時だ。海と陸地が分かれてる。陸地は海ではない。
海の上には空があり陸地の上にも空がある。陸地の分だけ空は海より広い。
冷静だし、頭の回転も鈍くなった訳ではない。俺が変な訳ではないんだ。
「この上には何がある?」
「コンピューターがあります」
「コンピューターに支配されてる訳か」
「人間をしはいするコンピューターをつくれるほど人間はかしこくないです」
「じゃあ、誰が支配してる?」
「だれがもうけているかですか?」
「支配だ!」
「あなたがたは不思議なかんがえをもってる。だれも支配されることをのぞまないと考えるのは、
支配されてるからだとおもいこんでる。言葉に支配されてます」
言葉に支配されてる?意味がわからない。
「外はどうなってる?」
「ありません」
バカにされてる。絶対そうに決まってる。でも、なんでこの俺がバカにされなきゃならない?
牛やネズミごときに、この人間様がここまで言われなきゃならない?
天井裏に隠れて、きっと笑ってやがる。