<4>
○意味がわからない。意図がわからない。何を考えてるのかわからない。
俺はバカにされてるのか?誰に?なんで?なぜそんな事を?
俺が何かしたか?
伝染病にでもかかったんだ。だから誰も出てこない。
検査結果を待たされてる。
第一に確認しなければならないのは、人間以外は言葉をしゃべらないと言う事。
映画や小説じゃあるまい。動物も植物も言葉を用いない。言語を持たない。
だからこうなる。
どこからか俺を見ていて、どこかにマイクがついていて、ネズミや牛にしゃべらせてる。
こいつらがしゃべってるように見せかけている。なぜそんな事を?
うまい具合に口をパクパクさせやがるが、だまされやしない。だまされる奴がいるか?
テレパシーなんてものを持って来たって同じだ。心で会話できるなんて話も同じ。
両方とも言葉がないと成り立たない話。それを発しているのは動物どもではない、人間。
地球外生命体なんて話も同じ。生命体である限り、地球内でなければ生きられない。
人間でない人間、これが宇宙人。人間と同じ。他に何か考えれるか?
今は西暦4025年。4025年だって?
これが、信じれるか?2007年に生きてる俺は約二千年前の男。
2000年前と言えば、シーザーがクレオパトラとセックスしてた頃じゃないか。
誤魔化したいなら、ちゃんと真面目にやってくれ。バカにするにも程度がある。
○聞いた話をまとめてみる。
世界には数多くの問題が、地球規模の問題から日常の問題まで、あらゆることが従来から引き続き持ち越され、
真面目な解決が求められていた。
地球汚染、自然災害、食物連鎖崩壊、食料危機、国家間の対立、民族紛争に宗教紛争、国内格差の拡大、
持てる国と持たざる国の差別・対立、文化闘争これらの解決は不可能だとわかった。
異文化の相互理解、世界平和、国際協調、こんな言葉はすでに死語。
隣に住む人のことさえ理解不可能、社会がある限り差別・選別は不可避。国家がある限り、利害衝突は不可避。
個人があえいでいるのに他人のことなど思いやれるはずがない。
自国があへいでいるのに他国など知ったことではない。
人は基本にやっと立ち返る。世界をどんどん小さくする。
国家間の文化・経済・あらゆる交流をやめる。国家の中でも互いの交流をやめ、たったひとりを基本にする。
国家の解体、宗教・民族の解体、地域の解体、家族の解体、そして個人の解体。
そこで、あらゆる幻想形態の解体がおわる。それは現実という世界を人為的につくることで完成する。
それが脳のつくる世界、人間ドック。
脳を中心とする神経科学、生命医学、細胞学、遺伝子工学、物理学に言語学、歴史学に考古学、
あらゆる科学分野の発展と人文科学との連携が頂点を迎え、人間は自らが望む人生を生きることが可能になった。
努力は必ず成功につながり、不慮の事故、運不運はなく誰もが平等に生きて死ぬ。
そしてそれは正しく良い事。
その方法は脳細胞に電気信号をおくり、今まで現実とよばれていたものを作りあげる。
感情、感覚、知覚、五感のすべてを脳への刺激、身体への刺激で再現する。
そうして人間に自らが望む人生をそれぞれ与えることが可能となる。
その人間ドックに入ってる間は脳が退化して死ぬまで生きる。
死ねば、自動的に栄養素に分解され他の者の栄養分となる。それが食料。
徐々にコンピューターシステムが完璧になり現在、全世界の人間がドックに入いることができるようになった。
だが全人口の0.0001パーセントの人がドックから出てきてしまう。
システムにはバグがある。
それが、この俺だ。どうだ、参ったか。
「原子力エネルギーの問題はどうなった?核廃棄物は?」
「科学が解決しました。原子力はもう、太陽や風と同じ、自然エネルギーです」
「核兵器は?まさか、やっちまったのか?とうとう核戦争が起こってこうなったのか?」
「そんなもの地球上から完全に無くなりました」
すごいじゃないか。人類、やるじゃないか。
それで、その結果が、その世界だって?
ありえない。