town of underground
今回はようやく少し話が進展?します
「だからさっきから言っているだろう!敵だろうがなんだろうが、怪我人は怪我人だ!!見て見ぬふりをすれば私は医者として生きていく資格など無い」
医者?医者が、いるのか?なんで?
「こんな得体のしれない奴をかばうなんてアンタ正気か!?」
誰のことを言っているんだ?そもそも、ここはドコだ?俺は確か、花粉から逃れるために廃屋に入っていってそれで・・・、それで・・・どうしたっけ?
「おい、コイツ起きてるぞ!」
「どけェッ!!オイ、アンタ大丈夫か?痛いところはあるか??」
ものすごい勢いで駆け寄ってくる。その勢いのまま俺に詰め寄ってきた。そんな勢いで詰め寄られたら悪いことでもしてるような気分になるじゃないか。
「待ってください。ここは、どこ・・・なんです?」
医者らしき人物は人払いをすると俺の正面の片立ち椅子に腰掛ける。一呼吸置くと男は喋り出した。
男は俺にいろいろな質問をしてくる。どうやら症状の確認、記憶の有無、身分を知りたいらしい。
ひと通り終わると、奥からコップにドリンクを入れてきた。
「すまなかった。君が軍の人間だと疑うものがいてね…悪いが少し質問させてもらったよ。」
「俺が嘘を付いているということは考えないんですか?」
「私は医者だ。患者の言葉を信用せずして医者は務まらないよ…それに私には君が嘘をつくような人間には見えない」
「では、今度は俺が質問をする。ここはドコです?あなたは誰なんですか?」
「私はパーラン・シベリー…見ての通り医者だよ。まぁ、世間から見れば医師免許もないタダの藪医者かもしれんがね。それでも、この地下に潜ってから数十余年この地下居住地の住民を診てきた。自分で言うのも何だが、この街に必要な人だと思っている。」
医者だというのはだいたい察しがついていたが医師免許がないってのはちょっとアレだな。そんな人に看病してもらっていたのだから、自分のことがちょっと心配になるのは普通ですよな?だが、そんなことよりも気になることがあった。俺が聞こうとするとわかっていると言わんばかりに自ら語り出した。
「まぁ、気になるのは当然だ。誰もいない村の空き家同然の家の地下にこんな場所があるのか……。それは、今からもう何年も前になるか……私がまだ町の人々と地上の町で共に暮らしていた時、一人の男が現れたんだ。男は軍の科学者と名乗って、我々の町の中に軍の研究施設を作りたいと言ってきたんだ。勿論そんな場所はなかった…だから男は金を払うから立ち退きをしてくれるように交渉をしてきた。だが、我々が引かないと見るや住居も準備すると言い出したんだ。さすがの私達も男の度重なる交渉に遂に折れてしまったよ。だが、今考えればそれが今のこのような事態を招いていると後悔している。」
このような事態?このような事態とはどういうことだろうか。俺は気になってシベリーに聞いてみた。
「幽閉…………ですか?」
「察しがいいな君は。そうさ、そのとおりだよ。私達は彼らに騙されていたんだ…今この地下に住んでいるものは立ち退きに応じた町人たちさ。立ち退きに応じなかった者や立ち退き地区外の人間はここにはいない。消えたのさ、忽然とね…行方は知れないどころか生きているかどうかさえわかりはしないよ。」
「アンタ、いちいち話が長いな……俺の聞いたことに要点だけ答えてくれないか?」
「あぁ、すまない…ようはここは地下で、脱出不可能な牢獄ということだ」
なんだ…なんなんだコイツのこの諦めたような表情は…声は………。諦めている人間の顔ほど無様で見難いものはないぜ。コイツも所詮そんな人間の一人か……幾らこの地下に必要な医者だとは言え、こんな腑抜けが医者では怪我は癒せても心まで癒やされることはないな。
「アンタはどうやら俺の嫌いなタイプの人間だな…そうやって諦めてるのか?こんな人口の天井と小さな豆電球の下で一生を終えるのか?」
「無理さ、ここから出るなんてことは…。さっきも言ったようにここには君が落ちてきた穴と食料や衣類を運び込んでくる連絡通路しかないんだ。」
「それが嫌いだって言ってるんだ。穴を掘って地上まで出ようとか、連絡通路の先から脱出しようとは考えないのか?」
シベリーは床の一点を見つめて黙りを決め込んでいる。言い過ぎたとはこれっぽちも思わない…だって、思ったことを正直に言って何が悪い?思っただけで口にしないのでは思うというその行為自体が無駄じゃないか。俺は無駄なものが嫌いだ。だから、この無駄な時間に身を置いているコイツを見ているととても腹立たしい。だが、やがてシベリーは口を開いた。
「私だって、私達だって外に出たいと思ったさ…何度も何度も何度も何度も何度も」
「思うだけじゃダメだ。行動に移さないと」
「やったよ…だが、結果はこの通り失敗さ。相手は軍人だ…連絡通路を抜けようとしてひどい目に会った。」
「それで?……諦めてしまったというのか?…話にならないな、俺は出る。俺には、探すものがあるからな」
「行くのか?…まぁ、止めはせん。だが、これだけは言っておく…あいつらは私たちのことなどなんとも思っていないんだぞ。」
「俺だって奴らのことなんかなんとも思っちゃいないさ。振りかかる火の粉は振り払うだけさ」
布団から起き上がり服を着る間も、シベリーはただじっとドリンクを飲みながら何処かを見ていた。その姿はまるで生気が抜けているよう、植物人間のそれに近しいとさえ感じた。シベリーの道案内はわかりやすかった。ドアを出て左…その先の通路に出たあと、ただひたすらに左へまっすぐ進むだけという至って簡単な道案内だ。とりあえずこんなムカつくところからはさっさとオサラバするぜ。腑抜けの横にいるとこっちまで腑抜けになっちまいそうだからな。
………。
そして目の前に分厚い鋼鉄の扉が見えた。
あまり進展していないとか言わないでね