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白雪 亜莉沙という女

入学式当日に入部届けを出す程熱心な輩も少ないだろうし、翌日でもいいだろう、と思ったのが間違いだった。


 前にも述べた通りこの一芸高校は一芸に秀でた生徒が多く、そのような生徒は初めから入部先が決まっているケースが多い。


 特に運動系の部活希望の生徒は一日も早く入部して練習をしたいようで、登校二日目に担当教員に入部届けを提出しにいくと、その教員の机は未受理の書類で文字通り溢れ返っていた。


 忙しそうにしている教員に入部届けを提出しにきた旨を伝えると、


「すまないけど、あまりにも数が多いから二日目以降に出される書類は各自で部室まで持っていってもらうことにしてるんだ。その同好会は文化部棟四階最奥だよ」


と追い返されてしまった。


「仕方ない、自分で持っていくか」


◇◆◇◆◇


「・・・・・・流石一芸高校、広い、クラブ棟広い」


 私立一宮繁藝高校は、私立の財力に物を言わせたのかはたまた創設者のポケットマネーか、非常に広大な敷地面積を誇り、グラウンドは全運動部にそれぞれ専用のコートを用意していて、文化部は十階建てのビル一棟を専用の建物として建設していた。


 入部届けを提出しに文化部棟まで来た俺は、その広さに驚きを隠せなかった。


 ビルーー最早文化部棟よりそちらの呼称の方が似合うーーは一フロアあたりの床面積も広く、最奥までたどり着くのに少なからぬ時間を要した。


「そこらの大病院でも端から端までこんなに時間は掛からないぞ・・・・・・」


 入学当初ともあって授業は午前中で終わり、昼飯を食う前に書類だけ提出してさっさと帰るか、という俺の考えはどうやら間違いだったようだ。


 そうして教員に聞いた場所、文化部棟四階最奥、「適当にがんばろう同好会」部室前に到着する。


「なんとなく緊張するな・・・・・・」


 そう呟きつつ、そう言っていても進まないとドアノブを掴み、捻る。


「失礼します・・・・・・」


 ドアを開けた先にあったのは、少し広めだがそこまで大きいともいえない、まあ普通の部屋だった。


   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

・・・・・・女生徒が着替えている真っ最中でなければ。


「きっ、」


「すいませんでしたー!!」


 悲鳴の続きが聞こえる前にドアをばたん! と閉める。


 ほんの一瞬の事だったとはいえ、俺の網膜には淡いピンク色の下着に包まれた豊潤な双丘がこびりついていた。


 数秒の後、ドアがゆっくりと開く。


 重厚そうな木製のドアから顔を半分ほどだけ覗かせて、頬を紅く染めた女生徒が言う。


「・・・・・・見た?」


「見てない・・・・・・です」


 ずずずっ、と顔を左に背けながら言う。


 女生徒はなおも、


「嘘。見たわよね?」


「・・・・・・見ました、と言うと作為的な感じですけど決してそういうわけでは・・・・・・」


 一応保身も考えながらそう返答すると女生徒はほんのり上気していた頬を真紅に染めて、


「うう・・・・・・裸・・・・・・みられた・・・・・・もうお嫁いけない・・・・・・」


 その場にしゃがみこんでしまった。


 ちなみに一芸高校の女生徒の制服はそこそこに短いスカートなので、何も考えずにしゃがんだりすると、その、暗闇の奥の三角地帯が・・・・・・ねえ? つまりは二度目の桃源郷でした。


ちらりとしか見なかったのだが俺のせわしない視線の動きを読んだのか、女生徒はばっ、と立ち上がって、


「一度ならず二度までも・・・・・・っ」


「いやほんとにわざとじゃないんです・・・・・・。すいません」


 割と真剣な口調を心がけて謝る。だってそうだろう、初対面の男に二度も下着を見られて平気でいる女はただの痴女だ。


「もう、もういいわよ・・・・・・。失ったものは取り返しがたいものだった、それだけよ・・・・・・はぁ」



 口ではなんでもないと言っても、本心はそうではないだろう。そんなことを考えながらも、とりあえず用件を済ませたいので本題を切り出す。


「あの、実は入部届けを持ってきたんですが・・・・・・」


「なに、なんですって? 入部届け? あなたがこの部に?」


「はい、まあ・・・・・・」


 すると女生徒は表情を一変させ、


「そういうことなら歓迎するわ、新入生君」


 そう呼ばれて自己紹介がまだなのを思い出す。


「あ、俺丙って言います。ひのえ ひいらぎです」


「ヒノエ君・・・・・・いや、ヒイラギ君ね。よろしく、ヒイラギ君。私は白雪しらゆき 亜莉沙ありさ、二年でこの部の部長よ」


「よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく。 ・・・・・・さっきの事は忘れてね?」


「善処します」


「忘れて・・・・・・お願いだから」


 懇願するような上目遣いで見つめられ、思わずどきっとした。


 顔をよく見ると個々のパーツが激しく自己主張しないまでもそれぞれ綺麗に整っていて、全体的に見れば美少女と皆に言わしめる容姿であった。ハの字に開いた眉然り、潤んだ瞳然り、少し高めの鼻然り、少し開いた小さめの口然り。全体像を見てみればそれもまた可憐で、すらりと長い手足にきゅっとくびれたウエスト、そして制服の上からでも圧倒的な存在感を示す二成りのメロン。あれはよいものだったいやなんでもない。


「わかりました、で・・・・・・俺の入部の件なんですが」


 亜莉沙は短く首肯して、


「うん、じゃあ判子を押すからこれを担当の先生に渡して下さい」


 そう言って亜莉沙は部屋の中に入っていったので、俺も続いて入ることにする。


「この学校は本当に設備が充実してますね」


 俺がそう思うのも無理はないだろう、中に入ってよくよく周りを見渡してみるとそこには一文化部の部室とは思えないほど沢山のものがあった。


 三人掛けの革張りのソファが二つ、一人掛けのものが一つ、それらに囲まれるようにして長テーブルが一つ。入り口から向かって正面にはよくドラマで校長なんかが座っているような背もたれの長い黒革の回転椅子と長机のセットが一つあり、観葉植物が二つ部屋の角に置かれていた。


 また、入り口の扉が死角になって見えないところにもう一つ扉があった。


「開けてみても?」


「あー、やめた方がいいと思うわ。散らかってるし」


「そうなんですか?」


「うん、わたしそこに住んでるの」


「へえ・・・・・・え?」


 聞き間違いかと再び尋ねる。


「えっと・・・・・・今、なんと?」


「わたしそこに住んでるの」


 どうやら聞き間違いではなかったらしい。


「なんでまた」


 すると亜莉沙はあはは・・・・・・と苦笑いして、


「まあ、いろいろあって、ね。家に居づらくなっちゃって」


「はあ、なるほど・・・・・・家出ってわけですか?」


「うん・・・・・・まあ正確に言うと違うのかな? 部室に寝泊まりしてることは両親も知ってるし」


「食料とかはどうしてるんですか?」


「家出するって言ってわたしが聞かなかったら、お父さんがこれを使いなさい、って通帳渡してくれたんだよね。だから資金面では困らないからスーパーで材料買ってきて自炊してるの。奥の部屋はキッチンにお風呂、トイレも完備だから」


 この学校は部室に寝泊まりする事も想定しているのか。いくら日本が広くてもこんな学校はここだけだろう。


「じゃあまあとりあえず、その部屋には入らないことにします」


「今日のところは、ね。片付いてるときなら別に入っていいわよ。・・・・・・あ、ところで入部理由とかって聞いていい?なんでわざわざこんなとこに?」


「それは・・・・・・」


 ・・・・・・生徒手帳に載ってた中で一番ネタっぽかったからです!! って答えたら起こられるんだろうか。そりゃそうか。


「なんか、名前が面白そうだったので」


 嘘は吐いていないが、起こられるかは微妙なラインだ。


 俺の返答に対し亜莉沙は、


「ああー、そうくる? そうきちゃう?」


 怒っているともおどけているともとれる言い回しをしてきた。


「まあいいけどね。じゃあ、この部の活動について教えるわよ」


 いいんかいっ!! ・・・・・・どうやら怒ってはいないようだった。一安心。


「お願いします」


「知ってると思うけど、この部、正確には同好会だけどね、の名前は、”適当にがんばろう同好会”です」


「はい」


「この名前からどんなことをしてるかわかる?」


「さあ・・・・・・何でも屋、ってかんじですかね」


 果たして俺の適当な答えは当たっていたようで、亜莉沙は是を返してきた。


「大体そうよ。正確には、そこそこの難易度の依頼をそこそこ適当に遂行する、って感じ」


「まあそりゃ学生の身分で難事件とか解決出来ないですもんね」


「そゆこと」


 部の活動方針までがわかった段階で、ぐぅー、と俺の

腹が鳴る。


 気付いた亜莉沙が親切にも、


「何か食べる? 有り合わせだけど」


 と申し出てくれたのでありがたく頂戴することにした。


 数分の後、


「おまちどうさま」


と俺の前に出てきたのはシンプルなチャーハンで、こんがり焦げ目のついたご飯に見るからにふんわりとした卵がいい色合いを醸し出している。


「お肉っは切らしちゃってて、それくらいしか出来ないんだけど」


「いえ、ありがとうございます。いただきます」


 そう言ってスプーンで掬ってひと口食べる。


「これは・・・・・・!! すごくおいしいです」


「そう? よかった」


 賞賛した俺の言葉にお世辞の類は込められておらず、普通に店で出てくる料理くらい美味しかった。


 まあだがあまりにも褒めすぎても逆に不自然なので感想もそこそこに黙々と食べる。


 食べ終わる。結構な量があったはずだが、ものの数分で食べ終わってしまった。


「ごちそうさまでした」


「お粗末さまでした。・・・・・・どうする? 今日はもう帰る?」


 そう聞かれて少し考えるが、すぐに結論を出す。


「そうですね、今日のところは帰ります。明日から顔を出すようにしますよ。この部も週5ですよね?」


 俺が活動日を5日かと聞いたのには殆ど意味がない。なぜならこの一芸高校、全部活の週5日の活動が校則で定められているからだ。


「そうだね、でも依頼がない時はみんなでお喋りしたりしてるよ」


「みんな・・・・・・って、他の部員の方ですか? 今日はいないみたいですけど・・・・・・」


 そう尋ねると亜莉沙は首肯して、


「うん、今日は学校もお休みしてたから多分お仕事じゃないかな?」


「お仕事? バイトとかですか?」


「うーん・・・・・・そういうわけじゃないんだけど・・・・・・今度本人に直接聞いたらいいと思うよ」


 そう言われたのでこれ以上ここで深く聞くべきではないと思い、追求はしないことにした。


「じゃあ、そういうことで、今度こそ帰ります。お先に失礼します」


「あ、うん、引き留めちゃってごめんね? まあお先にとか言われてもわたしは帰らないんだけどね」


「いえ、では明日からよろしくお願いします」


「うん、よろしく」


 手を振りながら亜莉沙が見送ってくれる。


 「なにはともあれ、変な先輩じゃなくてよかったな・・・・・・。 適当にがんばろう同好会・・・・・・割と面白そうだったな」


 家への道のりを歩きながら一人呟く。


 すると俺の右から声がした。


「”適当にがんばろう同好会”ですって・・・・・・!?」


 さっ、と視線を右に遣ると、いつから居たのかそこには金髪の美少女がいた。ちなみに制服の上からでもわかる巨乳いやなんでもない。


「えっと・・・・・・先輩の方・・・・・・ですよね? なにか・・・・・・?」


 胸のリボンの色から上級生と判断し、丁寧語で聞く。


「そうね、あなたには関係がありそうなので話しておきましょう。その口振りから察するに、あなたは”適当にがんばろう同好会”に入部したのですね?」


「ええ、まあ・・・・・・」


「悪いことは言いませんわ、あの同好会に入るのはやめておきなさい」


「えっと・・・・・・あなたはあの同好会の関係者の方ですか?」


 金髪美少女は首肯して、


「ええ、そうなりますわ。最も、あの女、白雪 亜莉沙に被害を被ったのを関係と言うのなら、ですが」


 

第一話です。


これくらいの分量でいいんですかね……?


誤字脱字、訂正お願いします。

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ちょっと、ほら、ね?お願いします……小説家になろう 勝手にランキング
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