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私には三つ年の離れた想い人がいる。
背が高くって近くに立つと見上げないと表情を見ることのできないあの人。
私がまだ小学生だったころは、同じ学区ということもあって、一緒に学校に行っていた。
でも、彼が中学生になってしまって一緒に学校に向かうことがなくなってしまってからは彼と出会う頻度はグッと減ってしまった。
たぶん、その頃からだろう……登校時に偶然彼と出会った時に頬が熱く火照るようになりだしたのは。
子どもの殻を少しずつ破り始め、大人の魅力を纏い始めた彼。日に日に逞しくなっていく身体は色っぽく、暑いからという理由で開け放ったカッターシャツの第一ボタンの位置から見える鎖骨が妙に艶めかしかった。
無意識のうちにジッとその一点を見つめる私に、照れ隠しのように微笑を浮かべながら
「そんなにジッと見られると照れるなあ」
と、頬をかいて呟いた。そんな彼の呟きに私の心臓はどうしようもなく鼓動を速め、重なり合う視線を逸らさないといけないと、そわそわとしては別の話題を頭の中で必死に探した。
そんな他愛ない日常。私だけが堪能することのできる彼との時間が、このままいつまでも続くと思っていた。
でも、その時間はすぐさま終わりを迎えた。
ある日の帰り道。習い事を終え家に帰ろうとする私の視界の先に彼の後ろ姿が目に入った。高鳴る胸を抑え、今まさに曲がり角を通った彼の後を追う。
けど、その先にいたのは私じゃない女の人に笑顔を浮かべながら会話を弾ませる彼の姿だった。
「あれ? 秋ちゃん。こんばんは」
いつものように私に声をかける彼。呼びかけられているんだと気がついてようやく、真っ白になった思考にほんの少しだけ余裕ができた。
「こ、こんばんは。えっと、その人は?」
柔らかな微笑みを浮かべ私と彼の様子を見守っている女性。その存在が気になって仕方なくって、聞きたくないのについそんなことを尋ねてしまった。
「あ、え……っと。彼女はね……」
その続きの言葉を口にするのが恥ずかしいのか、彼は少しだけ躊躇いをみせながらも、少し誇らしげに私に紹介した。
「僕の……恋人なんだ」
その言葉を聞いた瞬間、私の視界はグニャリと歪んで、すぐさまその場から駆け出していた。