~04午後(模擬戦)
「午後も頑張ってね。応援するからね、友一」
「…志緒、あとで……」
そう言って二人は自分達のクラスに帰って行った。聖には悪いが、これから昼休みは賑やかになりそうだ。
高等部の午後は、武装修練と、選択の商業実技と公課修練に分れている。武装修練は個人技の練習、生徒同士の戦闘訓練等で、技術向上を目的にしている。商業実技は、都市内の商業施設での労働実習、早い話が店舗経営やバイトをして、地域商業を活性化させようと言う名目があり、公課修練は、学園や地区の公務の人員不足を補う目的がある。銀拳や、俺の所属している捕縛課も此処に入る。
今日の武装修練は、武闘場でのクラス対抗模擬戦だ。クラスからランダムに選ばれた五人一組で戦闘を行い、戦闘不能、又は降参させるか、敵陣の宝玉に触れるか、破壊するかで、勝敗を競う。選ばれなかった観戦者は、その戦闘のレポートを書かく事になっている。ランダムで選ばれる為、チームによっては、攻撃系や防御系に偏りがでるが、如何なる状況にも対処出来る様になれ、という事らしい。
今回1‐4の対戦クラスは、1‐3。姫サン達のクラスだ。茜が「頑張って」と、言っていたのは、これを知っていたからだろう。 スクリーンに映し出される、対戦カードには、五名分の空白がニ組表示され、クルクル回り出す。
1‐3クラス
佐々木 翼
近藤 桐
佐藤 太一
高浜 真
エリス・アープ
1‐4クラス
火鷲 聖
佐藤 夏樹
森 双一朗
氷馬 友一
佐藤 志緒
自分の名前がクラス代表者に入っているのを見て、少し減なりする。唯一の救いは、初等部からの知り合いや、中等部の頃からクラス内で良く連む、気心が知れたメンバーだと言う事だ。
(姫サン相手か……キツいな。あとは、翼か……)
模擬戦組と観戦組に別れ、模擬戦組は、一階の第三エリア、観戦組は二階の観戦席に移動する。第三エリアは石柱が乱立する為、遮蔽物が多く、集団で闘い難いステージだ。
両チームが中央に集まり、挨拶を交わし、十分間のミーティングを始めた。俺達は肩を組み、額を合わせ、円陣を作る。
「なぁ、双一朗、どうする?」
俺は1‐4の鬼蓄頭脳、森双一朗に声を掛ける。
「そうだな、茜の前で友一を、皆で襲うのはどうだろう?昼休みのアレは、どうかと思う」
鬱陶しい前髪の奥の瞳がキラーンと、光る。
「いいよ〜」
「双、聖、ぶっ殺すぞ!」
「ククツ、妻の眼下で夫が襲われる……中々のシュチエーションだ」
「止せよ、双一朗。それより……」
「そうよ! それより、志緒君! アープさんとのアンパンア〜ンの餡の味はどうだったの!? 私が食べたかったよ!」
「うるせぇ! 夏樹ッ! 思い出させるな!」
「どうして、あの笑顔を思い出してあげないの! 私なら百万ループよ!」
「……もう勘弁してくれよ……(さっき、顔見た時に、ループしてるよ)」
「志緒〜もう、残り六分だよ〜」
「チッ、双一朗。さっさと、決めるぞ!」
「仕方無い。それで作戦だが、[嫁に構わず先に行け]で、いくか? 主役は友一だ。1‐3‐1のブロックに夏樹。アタックは友一メイン。俺と聖がフォロー。アローガードに志緒でいいだろう。夏樹はアープを止めろ! 友一は、宝玉破壊。有効範囲まで絶対止まるな。邪魔者は、俺と聖で対処する。守りは志緒にお任せだ。速攻勝負でいくか……」
「いいんじゃない? ねぇ、聖?」
「そうだね〜」
「友一、頼むぞ」
「なあ、作戦名変えてくれよ」
「志緒以外は、夏樹を先頭に、センターを移動するぞ」
円陣を解き、四人が三角の隊形で、進んで行くのを見送り、宝玉の前に待機すると、模擬戦開始のブザーが鳴る。
第三エリアの中央から、1‐3の陣地寄りの場所で激しい拳撃が響く、エリスの両腕から繰り出される打撃は、全て、眼の前の大楯に防がれる。回り込み、側面から打ち込もうとしても、僅かに向きを変えられる。何より、さっきから相手が一向に攻撃をしてこない。
「…夏樹…時…間稼ぎ?」
「正解!」
大楯を片手で軽軽持つ女生徒は、活発そうな雰囲気を感じさせる黒柿色のショートヘアを撫で付ける。
「アープさん、もうちょっと付き合ってよ」
「…断る」
「志緒君以外には、冷たいのね。」
「…うん」
「断言された!クッ………。志緒君、羨ましいぜ。」
夏樹は、ガックリと肩を落とす。その脇を抜けようとすると、透かさず楯が回り込む。
「でも、今回は、もう少し付き合ってね」
◆
◆
「聖、右上!」
「了解~」
双一朗は、隣を走る聖に指示を出す。石柱の上に立つ相手の、右側に大きな弧を描きブーメランが命中する。
(コレで、二人目……残りは二人、翼と太一だな)
「何とかなりそうだね~」
「ああ、あとは、翼達だな」
二人の前方を走っている友一は、言わば、囮役だった。相手は最初に、友一を発見する、友一に攻撃を仕掛ける瞬間、無防備な両側から、双一朗の鉄棍と、聖のブーメランが、相手を襲う。三対一の最速攻撃。
森 双一朗命名[嫁に構わず先に行け]二人の結婚祝いに、考案されたフォーメーション。
「友一、そろそろだぞ!」
「了解」
もうすぐ、相手の宝玉があるポイントに近づく。友一は、近くの石柱に、姿を隠す。それを確認した二人は、左右に大きく広がり広場に出る。其処には一m程の高さの台に、青い珠が置かれ、両脇に二人の生徒、長さニm幅三十Cmの大剣を、肩に担ぐ佐々木翼と、太刀を構える、佐藤太一が立っている。双一朗は左側の翼を、聖は右側の太一に、それぞれ攻撃を仕掛ける。
「随分早いわね、森君?」
「なんだ?お 前かよ。遅刻王」
翼と太一は、相手の攻撃をそれぞれ受け止め、弾き飛ばす。双一朗と聖は、一m程飛ばされるが、何とか踏ん張り、追撃を加えようとする二人を、迎え撃とうとした瞬間、双一朗が笑う。
「今だ!友 一!」
双一朗の後ろに、広場の端に建つ石柱の上で、弓を構えた友一の姿が見える。目一杯までに引かれた弓から放たれる矢は、宝玉を捉え飛んで行く。
「まだよ!!」
翼 が大剣を投げつけ、宝玉の柱の前に剣が突き刺さる。剣の幅が広い為、正面から見ると宝玉が隠れてしまい、続けて放った矢も、大剣に弾かれる。
「勝負は、まだよ!」
翼がそう告げ、双一朗に拳を構えて向かって行こうとした瞬間、模擬戦終了のブザーが鳴り響く。
「どうやら私達の勝ちね。エリスが宝玉を取った様だから…残念だったわね」
そ う言って乱翼はれた髪を指ですく。
「翼。悪いけど、俺達の勝ちだ……」
翼は驚いて振り向くと、大剣の隣に宝玉を持った志緒が、誇らしげに立っていた。
◆
◆
◆
◆
観戦席から模擬戦を観戦していた茜は、驚愕の表情の翼を、モニター越しに観ていた。周囲では、勝利に喜ぶ1‐4の生徒と対照的に、1‐3の生徒は静まり返っていた。
模擬戦が開始されて直ぐに、双一朗の結婚祝いの作戦だと気付いた。双一朗の作戦は、簡単に説明すると、人海戦術で、全員で宝玉を破壊する作戦だった。
志緒が宝玉を守り、夏樹がエリスを止め。双一朗と聖が囮になって友一で決める様に、翼達や観戦している生徒には見えたハズだ。
しかし、友一は石柱に登り、宝玉を狙う前に、自陣の志緒に矢を放ち、合図を送ると、志緒が誰にも気付かれない様に敵陣まで一気に走り、宝玉を盗ったのだ。相手より速く、常に多い数で、対応される前に攻め落とす。スピード重視の作戦。
「あー、翼、泣いちゃった。慰めなくちゃ。暫く落ち込むからな〜」
モニターに映る、普段は強気だが、泣き易い友人を迎えに、茜は階段を降りていった。
◆
◆
◆
◆
模擬戦終了のブザーが鳴り響く。
「……アープさん、終わったみたいよ」
「…ムッ」
夏樹は目の前で、ムクれて不機嫌になっているエリスに笑い掛ける。
「さあ、志緒君達の処に行こう」
夏樹は、エリスの腕を取り、宝玉の方へ歩き出した。
広場に着くと、宝玉の辺りで志緒達が、翼を囲んで、何が話している。
「なぁー、翼、いい加減泣き止めよ」
「ほら、飴上げるよ〜」
志緒達の前では、へたり込む翼が、声を上げて大泣きしている。その周りを男子で囲んで宥めていた。
「双、駄目だ。こうなると、茜しか止められねェー」
「これしきで、泣くとは情けない。それでも捕縛課か?」
「参ったな〜夏樹じゃ、駄目だよな〜どうする、志緒?」
「食いモンで、釣ってみるか? ほら、翼、和菓子好きだったよな? 聖」
「諏訪屋のどら焼き〜」
「それそれ。翼〜どら焼きだぞ〜食べに行くぞ〜」
「う〜う〜…………グスッ……食べりゅ…う……」
「食べ物に釣られるとは、意地汚い女だな。」
「双、あんまり、責めるなよ。やっと泣き止んだんだから…」
ヘタリ込む翼を志緒が手を引いて立たせると、後ろから、エリスと腕を組んだ夏樹が現れた。
「また、泣いちゃったの?翼?」
「…翼、ハンカチ」
「……グスッ、アリガト」
泣き腫らした翼に、エリスがハンカチを渡している。やっと落ち着いてきた翼を見て、志緒達は、大きくため息をついた。
「それじゃ、みんな、戻ろうよ。」
夏樹がエリスと翼の手を繋ぎ、出口に歩き出した。誰ともなく志緒達は、第三エリアの出口に向け歩き出す。エリアの出口では、茜が此方に手を振って待っていた。