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銀拳  作者: 月草 イナエ
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~01登校

「ふふーん♪ふふふふっふふふーんふ~♪ふふふふーん~♪」


 軽快に鼻歌を歌いながら、民家の塀を走り抜けて行く。

 現在の時刻は、八時十分。高等部の登園時間は八時二十分まで、それまでにゲートを通過して、IDカードによる学園のセキュリティ端末に登園確認を済ませなくてはならない。それ以降、高等部生徒には、入園ゲートは使用禁止になり、遅刻扱いになる。

 遅刻者は、ゲート右側の専用通路からIDカードを通過させ、遅刻回数とマイナス評価が加算される。

 一定量貯まると、素晴らしい特典が付いてくるそうだ。

 生憎自分は、そんな経験はしていないが、クラスメイトは、ゲートの守衛さんがタイプらしく、毎朝ポイントを加算している。


 本人曰く、「毎朝あの人と話せるなら、どんな困難も乗り越えられる!!」だそうだ。


 複雑に並ぶ商店街の塀や、屋根を走りながら、一直線に学園を目指す。初等部から多少のコース変更は在るものの、毎日タイムを測り、最短のコースを考え、通学時間を短縮させている。


 ……最初は、普通に歩いていた。一週間後に走り始め、次の週には、路面電車と競争していた。中等部で路面電車に勝利し、二年の夏から、ただ走るのも詰まらないので、塀やフェンスの上を走り始めた。今では屋根の上も走る様になり、家主に迷惑を懸け無いように、無音走行もマスターした。


 足音を立てず走り抜けるため、何度か幽霊と間違われた事があった。


「今日もギリギリだな。遅れるなよ~」


 パン屋の裏通りの塀を走っていると、店長の杏子(あんず)さんが、裏庭からパンを投げつける。


「ナイスパス、杏子さん。」


 笑顔でお礼をして、走り抜けながらパンを見ると、喰い掛けのアンパンだった……


(今日は機嫌が良いみたいだな……)


 初めて貰った時に吃驚して、理由を聞いたら「朝から女子大生とかんチュー出来るなんて幸せ者だぞッ!」と、笑顔で言われた。ちなみに機嫌が悪いと、中身のアンが食べられたアンパンが飛んでくる。

 路地に飛び降り、大通りに出ると、緩やかな登り坂になる。 学園までの残り五百メートルを、一気に駆け登る。


 後方には、路面電車(学園行き八時十六分着―八時二十分発)が見える。つまり、ゲート通過までに路面電車あれが発車すると遅刻が確定するのだ。

 路面電車を背後に坂を登りきると、ゲートに駆け寄り、IDカードをかざす。ゲートを通過すると、到着した四両編成の路面電車の車内から、生徒が大量に吐き出される。

 この光景に今は慣れたが、初等部の頃は怖かった………

 何故なら車内から降りてくる生徒は、剣や刀、槍等の武器を装備して降りてくるからだ。今では自分も、背中と腰に、長剣と短剣を装備している。

 慣れるって事は、恐ろしい。

 クールダウンしながら歩調をゆっくりと緩め、歩きながらアンパンを噛じる。


(今日、一日平和に過ごせます様に…)


 微かな希望を胸に、最後の一口を飲み込み、校舎へ歩き出した。



 国立特区第二学園奥水(おくすい)学園は、三棟三列の九つの建物と東側の武闘場が通路で連結されており、初等部、中等部、高等部、大学院棟と、練武研究棟、ホール棟、部室棟、業務棟、職員棟があり、それぞれが、五階建ての立派なビルで構成されている大規模学園だ。

 全国に三ヶ所あり、過疎化に悩む地方の中規模都市を、国が丸々買い取り、学生を集約管理し、危機対策リスクと労働力増加に伴う消費拡大により、地域活性化を目指す。と言う名目に基ずき、設立された学園都市だ。

 しかし、十数年前の若年層の暴徒化を、政府や大人達が恐れ、武装法の成立を機に、一ヶ所で管理したいのが、実情らしい……



 正面の職員棟とホール棟を過ぎ、高等部棟に入った時に、後から呼びかけられた。


「うお~い。志緒しお~っ」


「今日も遅刻デートか? ひじり


 にこやかに走ってくる友人に、少し呆れながら答え、一緒に歩き出した。火鷲ひわし聖は、大通りの西にある火鷲神社の息子で、毎日遅刻している……バカだ。


「仕方ないだろ~かえでさん、もうすぐ誕生日だから、色々リサーチ必要なんだよ~」


「去年は確か花束渡したら、薔薇アレルギーで、ぶん殴られたんだっけ?」


「……………うん……グズッ……」


 うつ向いて肩を震わせている……


(しまったッ! コイツ、精神攻撃耐性ゼロだった!)


「そっ、その分今年は頑張るんだよな? なっ? 聖?」


「そうなんだよ!!」


 いきなり元気になった聖は両手を握り、涙目で訴える。


「今年こそは、彼女に去年の分も喜んでもらいたいんだ!」


「精神回復も早いな……泣いてないで、さっさと教室行くぞ」


 浮き沈みの激しい友人を促し、二階の教室に向かった。

 1-4の教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わし、装備を武器棚に置いてに席に着くと、隣の席の氷馬友一ひうまゆういちに声を掛けられる。


「おっす、志緒。聖となんかあった?」


「いつもの楓サン話だよ。もうすぐ誕生日らしいからな」


 そう答えると、友一は首を傾げて考え込む。


「あ~っ。去年は宥めるの大変だったな……」


「……そうだったな」


 二人とも遠い目で聖を見る。去年は、殴られた聖を保健室まで運び、ひたすら励ましたのだが、介護無しで歩けるまで一週間係った…………


「それより、今朝の火災。あれ、賞金首?」


「ああ、捕縛課うちの姫サンの王子様。中央の時から追っかけてるらしいよ」


「ふ〜ん。銀拳から逃げるなんて、ランク幾つ?」


SSS(トリプル)



「マジで!?」



 友一の瞳が見開かれる。

 武装法の成立から、軽犯罪は減少したが、武器を使用した重犯罪が増加した。その為、学園には直轄の犯罪者取締機関、[捕縛課]が設立。その機関に所属する者は、武闘大会上位者が多く、三つの学園間をフリーパスで行動でき、色々優遇されている。

 そんな捕縛課から逃げきれる者は多くない。A~Cの三段階の他に、学園が特別捕縛対象としてSがある。トリプルとは、三学園全てで捕縛指定されている事になる。


「それで、捕まえたのか?」


「逃げられた……Cクラス大量に引き連れて囮にして、火事まで起こやがって、姫サンは冷静にしてたけど、ありゃ、怒ってたね。」


「まっ、昼休みに茜と来るだろ?その時に詳しく聞くか?」


 そんな話をしていると教師が入って来た。HRを聞き流しながら瞼を閉じる。深夜から出動してたから、これから午前は寝てもいいよな?

教師の声を子守唄に、意識が薄れていった。



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